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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第4章「凍える大地に、コールは届くか」

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第61話:全部族、一堂に会す

数日後、再び、長老会議が開かれることになった。


前回とは、明らかに、空気が違っていた。


バルトロが持ち込んだ「公平な利益分配」の提案は、七部族それぞれの集落で、静かに、だが確実に、議論を呼んでいた。


俺たちは、広場に集まった長老たちの前に、再び、立った。


「本日は、先日の提案について、各部族の意向を、聞かせてもらいたい」


グドムンドが、静かに、そう告げた。


◇


一人、また一人と、長老たちが、意見を述べていった。


「我が部族は、賛成の意を示す」フィンが、真っ先に言った。「異国の者たちの誠意は、既に、十分に感じている」


「儂の部族も、同様だ」別の長老が、続いた。「公平な取り決めがあるなら、恐れることはない」


賛成の声が、次々と上がっていく。


「我らも、賛成する」と、また一人の長老が言った。「バルトロという商人の話、詳しく聞かせてもらった。理にかなった提案だ」


「わしの部族もだ」と、白髭の長老が頷いた。「若い者たちが、新しい風を求めている。これ以上、閉ざしたままではおれぬ」


七部族のうち、五つが、既に、賛成の意を示していた。


残るは、二つ。


グドムンドの部族と、ジークリンデの部族だった。


広場に、緊張した沈黙が広がった。誰もが、この二部族の判断を、固唾を呑んで見守っていた。


◇


「儂は」


グドムンドが、口を開いた。


その声は、これまでのような、頑なさを、わずかに失っていた。


「正直、まだ、迷いがある。だが」


グドムンドは、俺を見た。


「あの若者たちの、これまでの行動を見るに、悪意があるようには、思えぬ」


「グドムンド殿……」


「儂は、賛成に、票を投じる」


その言葉に、広場に、小さなどよめきが起こった。


これで、七部族のうち、六つが、賛成の意を示したことになる。


残るは、ジークリンデの部族のみだった。


◇


全員の視線が、ジークリンデに集まった。


彼女は、しばらく、無言だった。


俺は、その沈黙を、静かに見守った。


これまでの日々が、頭をよぎった。


対決。試練の儀の提案。レナとの模擬戦。妹との、あの月明かりの一幕。


ジークリンデの手が、剣の柄に、そっと添えられた。だが、それは、敵意を示す仕草ではなかった。むしろ、自分自身の心を、静めるための動作のように見えた。


フィンが、心配そうに、ジークリンデを見つめていた。グドムンドも、静かに、彼女の言葉を待っていた。


やがて、ジークリンデが、ゆっくりと、口を開いた。


「わたしは」


その声は、いつものように、平坦だった。


だが、そこに、微かな、何かが滲んでいるのを、俺は感じ取った。


「感情を、表に出すことを、恥だと思って生きてきた」


ジークリンデは、続けた。


「それは、今も、変わらない。北方の戦士として、その誇りは、捨てるつもりはない」


長老たちが、静かに、その言葉を聞いていた。


「だが」


ジークリンデの目が、俺を見た。


「感じていないのと、出さないのは、違うと、教わった」


その言葉に、俺は、はっとした。


以前、自分がジークリンデに言った言葉を、彼女が、今、口にしていた。


「聖歌隊を、認める」


短い、それだけの言葉だった。


だが、その一言に、これまでのすべてが、詰まっているように、俺には感じられた。


◇


広場に、静かな、だが確かな、どよめきが広がった。


七部族すべてが、賛成の意を示した瞬間だった。


「では」とグドムンドが、厳かに告げた。「聖歌隊による、奉納演舞を、全部族の前で、執り行う」


「奉納演舞……」


「三日後、全部族の代表を、この広場に集める。そこで、そなたたちの、心とやらを、見せてもらおう」


「はい」


俺は、深く、頭を下げた。


長老たちの間に、これまでにない、穏やかな空気が流れていた。


◇


会議が終わり、俺たちは、宿舎への道を歩いていた。


「やったな」とレナが、俺の肩を叩いた。


「ああ」


俺は、まだ、少し、実感が湧かなかった。


これまでの日々——冷ややかな謁見、試練の儀の提案、部族間の対立——それらが、ようやく、一つの結実を迎えようとしていた。


その時、背後から、足音が聞こえた。


振り返ると、ジークリンデが、立っていた。


「……なんだ」


「礼を、言っておく」


「礼?」


「お前の、あの言葉がなければ、わたしは、まだ、意地を張り続けていたかもしれない」


ジークリンデは、そう言うと、少しだけ、視線を逸らした。


「あの日、お前が言った言葉が、ずっと、頭から離れなかった」


「あの言葉」


「感じていないのと、出さないのは、違う、という言葉だ」


俺は、その言葉を、静かに聞いていた。


「わたしは、ずっと、感情を殺すことこそが、強さだと思っていた。だが、それは、間違いだったのかもしれない、と、今は思う」


「間違い、とまでは言わないけどな」


「では、なんと言う」


「選択肢が、一つ増えた、ってだけだ。今までのあんたも、間違いじゃない。ただ、それだけが正解じゃなかった、ってだけだ」


ジークリンデは、しばらく、その言葉を、噛みしめるように、黙っていた。


「……そうか」


「妹とも、少しずつ、話せるようになった」


その一言に、俺は、驚いた。


「そうか」


「まだ、多くは、話していない。だが、少なくとも、以前のように、避け合うことは、なくなった」


「それは、良かった」


「お前の、あの子への接し方も、少なからず、影響しているだろう」


「そんな大したことは、してない」


「謙遜は、いらない」


ジークリンデの口元が、ほんのわずかに、緩んだ気がした。


「それより、奉納演舞の準備は、進んでいるのか」


「これから本腰入れる」


「期待している」


ジークリンデは、それだけ言うと、踵を返した。


「奉納演舞、楽しみにしている」


そう言い残して、彼女は、雪原の彼方へと、歩いていった。


俺は、その背中を、しばらく見送っていた。


北方の氷が、確かに、溶け始めていた。


三日後の奉納演舞に向けて、俺たちの、新たな挑戦が、始まろうとしていた。


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