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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第4章「凍える大地に、コールは届くか」

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第59話:美しき戦士、剣を交える

「約束通り、力を示す」


試練の儀を三日後に控えたその日、ジークリンデが、静かにそう告げた。


「レナ、お前と戦う」


「望むところだ」


レナが、剣の柄に手をかけながら、不敵に笑った。


集落の広場に、その知らせは、瞬く間に広がった。北方最強と噂される戦士と、異国の女戦士の模擬戦。長老たちも、戦士たちも、そして、フィンの部族の人々も、続々と広場に集まってきた。


「大丈夫でしょうか、レナさん」とミレイが、心配そうに呟いた。


「大丈夫だろ、多分」と俺は答えた。「レナも、伊達に鉄壁のレナって呼ばれてたわけじゃない」


「それは、そうですけど……」


シルも、心配そうに、その様子を見守っていた。ツバキは、扇を握りしめたまま、じっと広場の中央を見つめている。


俺は、その人だかりの中に、グレーテの姿を見つけた。


彼女は、少し離れた場所で、俯きがちに立っていた。だが、その視線は、まっすぐに、姉であるジークリンデに向けられていた。



広場の中央で、二人が対峙した。


ジークリンデは、大振りの剣を、静かに構えた。レナも、自分の剣を、正眼に構える。


「怪我をさせても、恨むなよ」とジークリンデが言った。


「望むところだって言っただろ」


その一瞬後。


二人は、同時に、地を蹴った。


剣戟の音が、広場に響き渡った。


ジークリンデの剣は、鋭く、無駄がなかった。研ぎ澄まされた技術が、一撃一撃に込められている。対するレナの剣は、より豪快で、力強い。だが、その一撃には、確かな重みがあった。


「速い……!」


観客の一人が、思わず声を上げた。だが、周囲の視線に気づき、慌てて口をつぐんだ。それでも、その驚きの色は、消えなかった。


俺は、その光景を、固唾を呑んで見守っていた。


前世でいえば、これは、まさに、格闘技の頂上決戦だった。技術と力、二つの異なる強さが、真正面からぶつかり合っている。



剣戟は、五分、十分と続いた。


二人とも、息が上がり始めていた。だが、どちらも、退く気配を見せなかった。


「あんた、思ったより、粘るな」とレナが、汗を拭いながら言った。


「お前もな」


ジークリンデの声にも、わずかに、息の乱れがあった。


長老たちの間からも、次第に、感嘆の声にも似た、微かなどよめきが漏れ始めていた。表立って歓声を上げる者はいなかったが、その視線には、明らかな驚きと、興味の色が宿っていた。グドムンドでさえ、腕を組んだまま、身を乗り出すようにして、その戦いを見つめていた。


その時、ジークリンデの剣が、レナの剣を、大きく弾き飛ばした。


レナの体勢が、崩れる。


ジークリンデの剣先が、レナの首元に、迫った。


「……勝負あり、か」


だが、その瞬間。


レナは、崩れた体勢のまま、地面を転がるようにして、ジークリンデの足元に、剣を薙いだ。


ジークリンデが、慌てて飛び退く。


「……なるほど。最後まで、諦めないタイプか」


「悪いか」


レナが、立ち上がりながら、にやりと笑った。


その光景に、周囲から、小さなどよめきが起こった。



戦いは、さらに激しさを増していった。


互いの剣が、幾度となく交錯する。時に鋭く、時に力強く。二人の戦士の間に、言葉を超えた何かが、確かに、通い合っているように見えた。


グレーテは、その様子を、食い入るように見つめていた。


俺は、彼女の隣に、そっと近づいた。


「大丈夫か」


グレーテは、俺の存在に気づき、はっとした顔をした。


「……はい。ただ、少し、驚いていて」


「何にだ」


「お姉ちゃんが、あんなに、真剣に、誰かと向き合っているところ。久しぶりに、見た気がします」


その言葉に、俺は、少し胸を突かれた。


「昔は、よく、稽古相手と、ああやって、笑いながら戦っていたのに」


グレーテの声が、少し震えていた。


「最近は、いつも、一人で、黙々と剣を振っているだけで」


「今日の戦いを見て、どう思う」と俺は聞いた。


グレーテは、しばらく、考えるように、視線を戦いに戻した。


「……嬉しい、です。でも、少し、複雑でもあります」


「複雑?」


「お姉ちゃんが、あんな顔をするのを見られて、嬉しい。でも、同時に、わたしといる時は、ああいう顔を、見せてもらえなかったんだなって、思ってしまって」


その言葉に、俺は、何も言えなかった。


俺たちは、再び、戦いに視線を戻した。


ジークリンデの表情に、俺は、何か、変化を感じ取った。


これまでの、冷たく平坦な表情ではなかった。剣を交えるたびに、わずかに、頬が紅潮している。息が乱れ、汗が滴っている。


それは、感情を抑え込んでいるようには、もう、見えなかった。



「もう一撃、いくぞ」


レナが、剣を構え直した。


「望むところだ」


ジークリンデも、剣を構え直す。


その顔に、俺は、確かに、笑みのようなものを見た気がした。


一瞬だけの、ごく僅かな、変化。


だが、それは、確かに、そこにあった。


二人が、再び、地を蹴った。


激しい剣戟の音が、広場に響いた。


その音に合わせるように、グレーテの口から、思わず、言葉がこぼれた。


「……頑張れ」


小さな呟きだった。隣にいた俺にしか、聞こえないほどの。


だが、グレーテ自身が、その言葉に、誰よりも驚いた顔をしていた。


「わたし、今……」


グレーテは、震える手で、自分の口元を押さえた。


「……人前で、こんなこと」


その目に、涙が滲んでいた。


北方では、感情を表に出すことは、恥とされる。まして、戦の原因とされた自分が、公の場で、誰かを応援するなどということは、許されないと思い込んでいたのだろう。


「いいんじゃないか」


俺は、静かに言った。


「誰かを応援したいって気持ちを、恥じる必要なんてない」


「でも、わたしは……」


「掟で禁じられてるのは、歌うことだろ。応援することまで、禁じられてるわけじゃない」


グレーテは、はっとした顔で、俺を見た。


「……そう、ですね」


その声は、まだ小さかったが、さっきよりも、少しだけ、しっかりしていた。


グレーテは、涙を拭いながら、もう一度、姉の戦う姿を見つめた。


その視線は、これまでよりも、少しだけ、真っ直ぐになっていた。



戦いは、結局、決着がつかないまま、両者が剣を収める形で終わった。


「……引き分け、か」とジークリンデが、息を切らしながら言った。


「悪くない結果だ」とレナが、笑った。


二人は、しばらく、互いを見つめ合っていた。


そこには、これまでにない、何か、通じ合うものがあった。


俺は、その光景を見ながら、グレーテの、あの小さな「頑張れ」という声を、思い出していた。


北方の氷は、まだ、完全には溶けていない。


でも、確かに、その一角から、少しずつ、溶け始めている。


そんな予感が、俺の中にあった。


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