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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第1章「転生したら、現場(異世界)だった件」

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第1話:転生したら「光の棒」しか握れなかった件

――闇を裂け。魂を燃やせ。


 今、この瞬間、俺たちの宇宙せかいの中心はあのステージの上だけにある。


「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!!」


 地響きのような怒号が、地下のライブハウスを満たしていた。

 密集した野郎どもの最前列。そこが俺、アキラの主戦場(現場)だ。

 両手に握りしめた高輝度サイリウム――通称『大閃光』のオレンジが、激しい夜空の流星群のように弧を描く。

 ステップを踏み、腰を落とし、全身の筋肉をバネにして光の軌跡を空間に刻みつける。

 視線の先には、汗をきらめかせながら歌い踊る、我が最愛の推し・地下アイドル『ルミナ』ちゃん。


「うおおおおお! ルミナァァァァ! 世界で一番愛してるぞおおおおお!!」


 喉がちぎれんばかりのコール。放たれる圧倒的な熱量。

 これだ。このために俺は毎日残業に耐え、プログラミングのキーボードを叩き、貯金のすべてをここに注ぎ込んできたのだ。

 だが、どんなに楽しい祭りにも終わりは来る。

 今日は、ルミナちゃんの涙の引退コンサートだった。


 ――その帰り道。

 灰色の燃え尽き症候群バーンアウトに陥った俺は、夜道をふらふらと歩いていた。


(明日から、俺は何を糧に生きていけばいいんだ……)


 その時、凄まじいクラクションの音と、視界を真っ白に染める強烈な二道ふたすじの光が迫った。

 大型トラックだ。居眠り運転か何かだろう、こちらへ猛スピードで突っ込んでくる。

 普通なら、ここで恐怖に身をすくませるか、脇へ飛び退くところだろう。

 しかし、限界まで脳がバグっていた俺の目には、そのトラックのヘッドライトが、どうしても【超高輝度サイリウムをクロスさせてこちらにケチャを送る巨大なヲタク】にしか見えなかった。


「……ほう。いいレスじゃねえか。だが、俺へのケチャ(合図)なら、角度が甘いッ!!」


 職業病、あるいはヲタクの悲しいさが

 俺は迫り来るトラックの光の正面に立ち塞がると、前世から染み付いた完璧な誘導フォームで、両腕を大きく回して静止の合図を送った。


「オーライ! オーライ! そこ、もっと上体を反らして――」


 ドガァァァァァァン!!!

 痛みを感じる間すらなかった。

 ただ、自分の体が信じられないほど軽くなり、夜空へと激しく吹き飛ばされていく感覚だけがあった。


(ああ、俺のヲタ人生、ここに完結か……。ルミナちゃん、お幸せにな……)


 意識が急速に、深い闇へと沈んでいった。



 ◇


「――おい、起きろ。おいってば!」


 頬をペチペチと叩かれる感覚で、俺は目を覚ました。


「う……頭が割れそうだ。ここは……病院、か?」


 てっきりICU(集中治療室)のベッドの上かと思った。だが、背中に感じるのは硬い石の床。見上げれば、中世ヨーロッパの神殿かと思わせるような、無駄に高い石造りの天井が広がっている。


「ようやく気がついたか、異界の迷い人よ」


 厳かな声に視線を巡らせると、そこには豪奢な法衣をまとった髭モジャの老人と、いかにも「ファンタジーの村長」といった風貌の男たちが、こちらを神妙な顔で見下ろしていた。


「……は?」

「ここはエルドラド王国、その辺境にあるリプレの村だ。お前は我が村の『召喚の儀』によって、別世界から呼び出されたのだよ」


 老人がもっともらしく説明を始める。

 召喚。異世界。迷い人。

 おいおい、嘘だろ。これ、ネット小説で飽きるほど見た「異世界転生」ってやつじゃないか?


「さあ、まずは小手調べだ。お前がどれほどの魔力を持っているか、この『鑑定の水晶』に手をかざすがよい。この世界は魔力こそがすべて。魔力が高ければ宮廷魔術師、低ければ……まぁ、ただの開拓民だな」


 差し出されたのは、禍々しい輝きを放つ大きな水晶玉。

 生唾を飲み込みながら、俺はそっと右手をかざしてみた。

 シーン……。

 何も起きない。輝きが増すわけでも、色が変わるわけでもない。完全に沈黙している。


「な……ッ!? ば、馬鹿な!」


 老人が目を見開いて叫んだ。


「魔力値が……『ゼロ』だと!? 微弱どころか、大気中のマナと一切の同調をしていない! ただの『無能』ではないか! こんなゴミを呼び出すために、貴重な魔石を消費したというのか!」


 さっきまでの神妙な態度が一転、老人や村長たちの目がゴミを見るような冷たい光へと変わる。


「おい、この無能を早く神殿からつまみ出せ! 魔力を持たぬ者に、この村に置く価値などない!」

「おい、待てよ! 勝手に呼び出しといてそれはないだろ!」


 俺が抗議する間もなく、屈強な兵士たちに両脇を抱えられ、神殿の裏口から外へと放り出されてしまった。

 地面に転がり、泥を払う。

 周りを見渡せば、のどかな農村の風景。だが、空気の匂いも、空に浮かぶ二つの月も、ここが地球ではないことを嫌というほど物語っていた。


「まじかよ……。異世界に来て早々、無能扱いでホームレスかよ……」


 ため息をつきながら立ち上がろうとした、その時。

 俺のポケットの中に、何か硬い棒状のものが触れた。


「ん? これは……」


 取り出してみると、それは前世の現場で使い古した、100円ショップの『プラスチック製サイリウム』だった。中身の液体はとっくに使い切っており、今はただの透明なプラスチックの筒。もちろん、光る気配すらない。


「お前だけが、俺の現世の形見か……」


 無残に放り出された異世界の地で、俺はただ一本のプラスチックの棒を握りしめ、途方に暮れるしかなかった。


 ――しかし、この時の俺はまだ知る由もなかった。


 この世界における『魔力』の概念を。

 そして、俺が握るこの「光の棒」と、前世で培った「あの動き」が、この世界の常識を根底からひっくり返すことになるということを。

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