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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[33] 家族会議――バードック

 バードックは重厚な扉の前で、髪を撫でつけ、息を整えた。

 顔に浮かべる表情を決め、ノックする。

 父親の執務室の扉が開いた。

 扉の内側には、息苦しい空気が沈んでいた。

「ヴァイバーナン王女は帰ったのか?」

 ソファの中央には父のゲオルク・カンビセス侯爵が座り、煙草を燻らせる。

 隣では、兄のヨアヒムが脚を組んで座っていた。

「はい。先ほど」

 バードックは、扉口に立たされたまま答えた。

 ゲオルクが顎で示し、バードックはソファの端に腰を下ろした。

「レノドンの尻軽娘も帰ったのか?」

「ええ。恐らく……王女と会った後はこちらに参りましたので」

 ゲオルクは片眉をわずかに上げ、ヨアヒムは鼻で笑った。

「もてる男はつらいな」

 いつもの嫌味だった。

「王女は何の用だった?」

 ゲオルクに問われ、バードックは抑揚なく答えた。

「国王陛下にウルティナ王国へ嫁ぐよう言われたようです」

 ゲオルクの顔が歪み、ヨアヒムは薄く笑みを浮かべた。

「……お前との婚約はどうなるのだ?」

「破棄となるでしょう」

「ふむ……」

 ゲオルクは顎に手を当てた。

 長い沈黙だった。

 バードックは、父親も兄も嫌いだった。

 自分のほうが頭も良いし、容姿も優れている。

 それでも先に生まれたほうが優遇される。

 母親は早いうちから、領地に住み、滅多に王都へは来ない。

 バードックは、孤独だった。

 その孤独を癒してくれるのが女たちだった。

 この国の女の頂点を娶って、父と兄を見下すはずが、見下せなくなりそうだ。

 父親も兄もバードックをただの女好きと決めつけるだろう。

「それで、どうするのだ?」

「様子を見ます」

 バードックは、伏し目がちに答えた。

「そうだな。功を焦ると碌なことにならん」

 ゲオルクは目を細め、沈黙のまま顎をわずかに扉へ振った。


 バードックが寝室に戻ると、ダリアンが下着のままベッドの上で寝転がっていた。

「あ! やっと戻ってきた。遅かったわね」

 ダリアンの無邪気なところは嫌いじゃないが、今は、鬱陶しかった。

「……いろいろとね」

 バードックがグラスに水を注ぐ。

 グラスに口をつけながら、視線を窓に向ける。

 窓ガラス越しに見えるダリアンは、にこりと笑っていた。

「王女様の用事は何だった?」

「……いつもの気まぐれだよ」

「ふうん……愛されてるのね」

 ダリアンの瞳が妖しく光る。

「あなたが王女と結婚して、私はテオイ様と結婚したら、家族になるのよね?」

「まあ……そうだね」

「刺激的ね!」

 ダリアンは、甲高い笑い声を転がした。

「だって、私たちの関係は王宮でも続くことになるでしょう?」

 バードックは黙っていた。

 関係が続くか、続かないか、今、重要なのはそれじゃない。

「ダリアン、ピオニーはどうしてる?」

 バードックの不意打ちにダリアンの顔が曇った。

 だが、その曇りは、瞬きの間に消えた。

「いないわよ。イアン村に行ってる」

「え?」

 バードックの瞳が揺れた。

「どこがよくて、あんな辺鄙な村に行ったのかしら」

「誰と?」

「え? 何?」

「誰と行ったの?」

「……お付きのマリアドネと平民のアンナ」

 バードックはホッとして笑みを浮かべた。

 ダリアンはバードックの表情の変化を見逃すまいと近づいてきた。

「それと……フィリップ・ホームズ子爵」

 バードックの顔が強張る。

「は? フィリップ?」

「第3学年の留学生よ」

「……何故、そんな奴と」

 バードックが拳を握るのをダリアンは冷めた目で見つめた。

 ダリアンはバードックの拳をそっと両手で包むと、口づけした。

「あなた、まだ、好きなの? あの女を」

 ダリアンが上目遣いでバードックを見ると、バードックは視線を逸らすことなく微笑んだ。

「……そんなんじゃないよ。ただ、驚いただけ」

「そう。良かったわ。王女様が聞いたら、嫉妬しちゃうと思うから」

 ダリアンはバードックの手を放し、椅子に掛けた。

「……帰らなくても大丈夫なの?」

「そうね。もう帰るわ……でも、大事なことをまだ言っていないのよ、私」

 窓から西日が射し、沈黙が落ちる。

「……私ね、妊娠したの」

 ダリアンは笑っていた。

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