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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[29] イアン村へ――防壁の中 ①

 馬車が停まった。

 フィリップが先に馬車を降り、従者と話し込んでいる。

「アンナさん、出ましょう。マリアドネはジャンと残ってちょうだい」

 私が声を掛けると、アンナは大きく頷いた。

 正面には、(ツェル)が言っていた通り、高い防壁が村を囲んでいた。

 石と木を無理やり組み合わせたような造りだった。

 切り出したままの石を積み上げ、その隙間を太い丸太で押さえつけている。

 丸太が黒いのは防虫剤だろうか?

 この距離でも、薬の匂いが鼻を突いた。

 思わず、息が浅くなる。

 見上げると、防壁の上には騎士たちが立ち並び、弓を構えていた。

 矢じりは、まっすぐ私たちに向けられていた。

「これは……一体……」

 アンナの声が震えているのが、否応なく分かった。

 フィリップが防壁の門の前でイアン村の騎士と話しているのが見えた。

 アンナは、門へ駆け出した。

 私はその後を追った。

「だから、村人以外は誰も入れるなと、領主様のご命令なんです」

 イアン村の騎士が声高に説明する。

「私は国王の許可を得てきているのだ。それを拒む気か?」

 フィリップは、ヴィルヘルムに許可書を掲げさせた。

「え?」

 領主の騎士は、許可書に近づき、じっと見つめた。

 額に滲んだ汗が光った。

 領主の騎士は振り返ると、防壁の上に立つ騎士に合図した。

 防壁の上の騎士たちは互いに顔を見合わせてから、構えていた弓を次々と下ろした。

「おじいちゃんは? 村長はどこですか?」

 アンナがフィリップに並び、領主の騎士に尋ねた。

「アンナ!」

 防壁の扉の傍に立っていた騎士がアンナに手を振る。

「ヤン! その格好は何?」

 ヤンは眉間に皺を寄せ、フィリップと遣り合っていた騎士をちらりと見た。

「副団長、どうしましょうか?」

 副団長と呼ばれた男は、国王の許可書とフィリップを交互に見、大きなため息をついた。

「中に入れろ、あ、いや、入っていただけ。詰め所でお待ちいただくんだ。報告してくる」

 副団長は馬に乗り、2人の騎士を連れて去った。

 真っすぐに伸びる道の先には、別の門が見えた。

 どうして、ここまで厳重なのかしら。

 二つ目の門を見ていると、領主の騎士に視線を遮られた。

 私は門から視線を外し、馬車を探した。

 馬車と従者は、他の騎士に誘導され、詰め所の横の空き地へ向かっていた。

 詰め所の前で、私は振り返った。

 木々の隙間から、馬車の影がかろうじて見えた。

 フィリップとヘルマがこちらに向かってきた。

 ヴィルヘルムは、空き地に残したままなのだろう。

 私はマリアドネとジャンを促し、詰め所の中へ入った。

 キャンディは黙ってついてきた。

 中では領主の騎士が2名、出入り口に立っていた。

 目の前にはホールがあった。

 ホールには、長机が壁際に寄せられ、無造作に貼られた地図があった。

 何の地図だろう?

 入口の騎士が咳ばらいをした。

 私はそれ以上、見なかった。

 私たちはヤンに促されて、そこから突き当りの部屋へ向かった。

 足音がやけに響く。

 突き当りの部屋は食堂だった。

 食堂は長机と椅子が並び、簡素だが整っていた。

「ここに座ってください」

 ヤンが、出入り口近くの机を指で示した。

 中に入り、ヘルマとマリアドネ以外でテーブルを囲んだ。

 夏なのにヒンヤリしていた。

 小さい窓から外が見えた。

 ヤンはアンナの傍に立ち、小声で尋ねた。

「アカデミーはどうしたんだ?」

「手紙は届いてるでしょ?」

「手紙?」

 アンナはヤンの耳を引っ張り、耳元で囁いた。

「2週間も前にスパローホーク(メッセンジャーバード)に手紙を託したでしょ! 夏休みに戻るって」

「うーん。2週間前なら受け取るのは無理だな」

「はあ?」

「この防壁はお前がアカデミーに向かってからすぐに作り出したし、天井にも結界を貼ってるから、さすがにスパローホークでも入ってこられないよ」

 アンナは顔を赤くし、声を荒げた。

「もう! どうしてそんなことになっているの? おじいちゃんは?」

「アンナ、大声を出すな。アカデミーに行っても、子供のままだな」

 アンナは口を尖らせた。

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