第10話 とあるエルフの独白
1ヶ月ほど前の事です。ここエルフの郷にあるユグドラシルの樹に蕾が付きました。
何の慶兆かとエルフの郷の者が皆花が咲くのを心待ちにする中、ある日突然花が咲いたかと思うと、それはあっという間に結実したのです。ーーこれは一体何の予兆なのでしょうか。
そんなある日、私の家の前で大きな空間移動の魔術が発動するのを感じました。
大陸間を移動できる程の大きな魔力、しかもエルフの郷の強力な結界をものともしないーーこんなことができるのは一人しかいません。
「やはり貴方でしたか、ルツ。どうぞお入りください」
突然の闖入者は偉大なる調停の黒き竜でした。
珍しいことに今日は可愛らしいお嬢さんを連れています。それになんとルツの服を着せられていますよ。あのルツがわざわざ自分の服を着せるとは!
まあルツが伴ってここに連れて来るくらいですから、このお嬢さんは恐らく彼が長い間待ち望んでいた方なのでしょう。
「……金は払う。こいつの服を一式用意してくれ」
「……いつも言ってますが、貴方は言葉が足りないように思いますよ、ルツ」
ルツは自分の不機嫌な顔を取り繕う気もないのでしょう。彼女を私に紹介したくなかったことがみえみえです。なんとも言えないルツの顔を見ていると思わず笑いそうになってしまうので、私はさりげなくお茶の支度をして誤魔化しました。
「よかったらどうぞ、体が温まります」
「あ、はい、ありがとうございます」
それにしてもこの方はなんて不思議な気をお持ちなのでしょう。竜ならではの神気とまるで光の巫女のような癒される魔力を感じます。これはエルフは勿論、森の全ての生き物が自然に惹かれてしまう、それほどまでに澄んだ力です。
「私の名前はエリスと言います。ルツとはまあ腐れ縁のようなものですね。あなたのお名前は?」
「はい、私の名前はユーリヴァ……」
「こいつの名前はユーリ。」
どうやらルツは彼女が私に名乗るさえ事すら気に入らないようです。ここまで来ると呆れを通り越していっそすがすがしく感じますね。でも今大事なのは別の事。
ーー目の前に座った時から気になっていた彼女の左手の傷。
「ではユーリさん、差し支えなければ手を見せていただけますか?」
「手?」
「はい、そちらの怪我をしている方の手です」
彼女の手には生々しい傷痕が残っています。私が治癒魔法をかけても一向に治る気配はありません。ルツも私が魔力を注ぐのを真剣に見守っています。
「……あの、もう治ってて全然痛くないんです。きっと傷痕もすぐ消えると思うから大丈夫です」
「ユーリさん、普通であれば竜がこのような怪我をすることはないのですよ」
「え?」
「ルツに聞きませんでしたか? 普通であれば人間に竜を傷つけることはできません。……特にあなたのような竜を傷つけるのは闇の呪いの力だと」
「……そう言えば……?」
本来であれば竜は生まれた時からこの世の理を理解すると聞きます。
誰に教えられることもなく己の役割を果たす。それがこの世界の支配者であり、調整者でもある竜という存在なのだと……。
ですが不思議なことに彼女と話していると竜としての意識が余りにも弱く、まるで幼い人間の子供のような感じがします。
「ユーリさん、あなたは自分が竜だということはご存知ですね?」
「はい」
「では竜とはどういうものか、竜が何のために存在しているのかはご存じですか?」
「竜ががどういうものか?」
「……この世界で竜は最高位の生物です。魔力、知性、寿命、他に比ぶるべき生き物はおりません。圧倒的力でこの世界に君臨する生物なのです。そして貴女は白い竜です。」
「白い竜?」
この方はどうやらご自分の存在がどれだけ価値がある事なのか分かっておられないようですね。
「……私が今ここで一から十までお教えすることはとても簡単です。でもあなたにとって私がお教えすることが善いのか悪いのか、それはわかりません。ただ、幼い子が一度火の熱さがわかれば二度と近づかなくなるように、あなたには自分で体験し、経験することで、自分自身の知識を身に付けることが何より重要だと思います」
もし彼女が本来の記憶を無くしているのだとしら、それはこの呪の所為なのか、もしくは他に要因があるのか、これはきちんと調べるべきかもしれません。だとしたらここは一つ賭けに出てみることにしましょう。
「という訳で、学校に行かれてはいかがでしょう」
吉と出るか、凶と出るか、それはユーリさん次第です。
まあでもはルツが慌てて止めるだろうことは容易に予想できて賭けにもなりませんね。ふふふ。
こちらの更新が遅くなり申し訳ありません
今回エリスさんのターンでした




