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水の声
水の声を聴くがいい
水面のゆらめきに影をとられ
なお掴みがたきひとよ
あなたもまた歴史の谷を
流れる水の影だ
水は石理を濡らし
戦禍をまたぎ
あなたの口を潤した
だがこの水さえも
永劫の彼方にうらぶれる
水の声を聴くがいい
声は浜辺と浜辺をつなぎ
だが反射する鱗のきらめきに
ひとは目を細めてしまう
いつしかこの水面に揺れる影が
立ちあがり歴史のさざなみに
手を伸ばすもつい
尻子玉を落としてしまうこともある
それを笑うは小さな童
月下香の薫りも消え始める頃