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海
漣は失望のように浜辺につもる。
思い出したい人は海を受けいれ、
忘れたい人が海になる。
考えたことがあるか、
空と海の屈折率を、
今日と明日の境界面と
昨日と今日の切断を。
逃げだしてここに辿り着いたのは
いつのことであったか、
海藻はだれかの風に
ゆれて、ゆれて、
海は明日を生きる人を拒み、
明日を生きる人は空に
回想を託して去った、
いつかの海面は剥離して空になる、
空は欠けらになって暮れていく
わたしの最後にみた空を
瓶に掻きあつめると夜になる、
溢されつづけた命は渦をまいて
底抜けの黒をたたえて広い
この海、海、海以外の形容も許さぬ
海。