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恋の領域  作者: ばあむ
15/15

バースデー④

「………どこに行ってたんだ?」


「は、ハル!?」


自宅に着いた千尋を迎えたのは、玄関に不機嫌そうに寄りかかっていた遥だった。


まさか遥が玄関で待ち伏せているなど思ってもみかった。


千尋は驚きを隠せないまま、呆然と立ち尽くす。

そんな千尋に遥は近づくと、千尋の頬にそっと手を添えた。


「…………どこに行ってたんだ、千尋」


顔を近づけて、もう一度繰り返す。

有無を言わせない口調に、千尋は息を呑んだ。


「く、倉田のサッカーの試合を見に行ってたんだ………」


「倉田」という言葉に、遥の眉間にシワが寄った。

やはり、倉田のことは気に入らないらしい。

不機嫌そうな表情で遥は口を開く。


「なんで倉田の試合なんか……」


「だってっ!! だってハルはいなかったじゃないかっ」


気づけば千尋はそう、声をあげていた。


今日一日中胸の中でモヤモヤとしていたモノが……。

自分でもよくわからない感情がこみ上げてきて。

そんな感情をどうにかしたくて。

千尋は感情のままに言葉を発していた。


「誕生日の日はいつも一緒だったのにっ、でも今日、ハルはいなかったっ。俺と一緒に居てくれなかったっ」


(俺は一緒に誕生日を祝いたかったのに。側にいなかったのはハルの方じゃん)


「千尋、」


「ハルの方こそ、どこに行ってたんだよ!?」


「………両親のところだ。今日帰国するって聞いたから、会いにいってた。もう向こうに行っちまったけどな」


「え?」


(両親に会いに行ってた?)


予想外の遥の回答に、千尋はポカンと口を開ける。


遥の話を要約するとこうだった。


遥の両親は仕事の関係でここ数年海外に行ったきりである。

一応、国際電話で連絡を取り合ってはいたものの、仕事が忙しく、なかなか日本に帰ってこれなかったのだ。

しかし、今回なんとか遥の誕生日に帰国できるようになった両親は、遥の誕生日を祝うために一時帰国。

空港近くのホテルに宿泊し、そこに遥を呼び出したのだ。

遥とその両親は、そのままホテルのそれなりに値が張る料理を堪能した。

それが終わるとすぐに遥の両親はまた海外へと仕事をしに行ってしまったらしい。


「…………相変わらず忙しんだね」


事情を聞き終えた千尋は小さくそう呟いた。


「ああ、相変わらず。それとこれ、海外のお土産。桐谷家にはいつも世話になってるから、渡してくれって頼まれた」


遥から紙袋を受け取る。

中を覗くと、どこの国かもわからない文字がデカデカと印刷されたチョコレートの箱が入っていた。


「でも、ハルっ、両親に会いに行くならそう言ってくれたらよかったのにっ」


最初からそう言ってくれていたら、あんなに不安になることもなかったのに。


そう思って、千尋は訴える。


「別に、わざわざそんな細かいとこまで言う必要ないと思った。それに、すぐに帰って、千尋と過ごすつもりだったんだよ。でも、いざ帰ってきたら、お前はいなくなってた」


千尋の訴えに、遥はそう返すと、少し怒ったように眉を寄せた。


「俺はお前が祝ってくれると思ったから、急いで帰ってきたってのに、お前は倉田のヤツの試合を見に行ってたなんてな……」


そう言われて、千尋はうっと言葉をつまらせた。


最初は千尋が遥を責めていたはずなのに、いつの間にか遥が千尋を責めているような雰囲気になってしまっている。


「だって…….…しょうがないじゃん。遥は珍しくきっちりした格好で出かけるし、俺……遥に彼女が出来たんじゃないか、とか思ったりして、不安になって……遥の誕生日に独りぼっちなんて嫌だったんだよっ」


今にも泣きそうな、震える声で千尋はそう言った。


不安で不安で仕方なかったのだ。

遥に彼女が出来てしまうのが。

自分以外の誰かが遥の隣に居座ることが。

遥が自分を見なくなってしまうことが。



なぜか、不安でたまらなくなった。


「千尋………」


遥はそんな千尋を見て、形容し難い感情が湧き上がってきた。


今すぐ抱きしめたい。

抱きしめて、離したくない。


………可愛い。


遥は、そんな感情に少し戸惑った。


今まで、千尋は自分のモノなのだという独占欲はあった。

だが、こんな風に、抱きしめて離したくないなんて……可愛いなんて……、これほど愛しく思うのは初めてだった。


どうしたら良いかわからずに、とりあえず遥は、千尋を抱きしめた。


ビクリッと千尋が肩を揺らして、固まる。


「ハ…ル?」


「まだ、今日は終わってねぇ」


遥は、千尋の耳元で囁く。


まだ遥の誕生日は終わっていないのだと。

まだ日付が変わるまで時間がある。


「うん」


千尋は頷くと、遥の背中に手を回した。


「誕生日………おめでとう、ハル」

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