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地球の果ての島の物語  作者: 亜滝紅羽
志賀夏椎編
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志賀夏椎編23(エピローグ)

 さて、今回の騒動を引き起こした犯人はと言うと。


「見てみて香流。捕まえといたよー」

「タタラポッカ星出身の柚姫のファンだとよ」


 ドラゴンに乗ってB地区長室へ帰ってくると、最高神と魔王が謎の生き物を縛り上げていた。

 紫色の小さな子どもほどの図体。ギョロリとした1つ目の頭に、触手がたくさん生えている。胴体には大きな口が開いていた。

 可哀想なほど壁際でビクビク震えている。一体どんな目にあったのか。黛は身震いした。


「口で閉じ込めて、目で監視する監禁上手な犯人だったな」

「何で褒めてんだよ」


 柚木は苛立ちながら森谷とゼウスの間を通り抜け、ズカズカと犯人の元へ歩んで行った。

 ダン、と犯人の真横の壁を蹴る。華奢な小さな身体を覆うブカブカの服がずれないよう、ズボンの腰周りを握りしめたままなのが格好つかない。

 それでも柚姫を危ない目に合わせたことは許すことはできない。柚木は紫色の異星人をきっと睨みつけた。


「二度と柚姫に手を出すんじゃねぇ」


 凄んでも顔が可愛いのであんまり怖くない。犯人も顔を赤らめているし。森谷は呆れ顔で柚木の肩を叩いた。


「逆効果だよ、香流ちゃん」

「ムカつく!!」

「暴れると服が脱げるよ」


 ゼウスが嬉しそうに柚木を抱きしめた。すぐに保護者がべりっとひっぺがす。


「俺の息子にセクハラはさせん」

「僕だって頑張ったのに、あーちゃんばっかりずるい!」

「俺だって頑張りました〜」

「おい、離せ!」


 喚いても暴れても子どもの姿では森谷(おとな)に勝てるはずもない。最終的には諦めて、しぶしぶながら柚木は部屋を連れ出されていった。ゼウスもひょこひょこと後を追いかける。


「香流さん⋯⋯大丈夫ですかね」

「パパがいるから大丈夫よ!」

「パパ?どっちが?」

「あぁ、パパって言うのは例えで、親に憧れる柚姫がさっきの黒い方をそう呼んでるだけだよ」


 驚く夏椎に、黛が答えてくれた。

 なるほど、柚姫さんのパパということは香流さんのパパでもあるのか。夏椎は納得して、ふと先程の黛の言葉に疑問を抱く。


「香流さんと柚姫さんにはご両親はいないんですか?」

「ゆずもお兄ちゃんも地球の双子だから!」

「⋯あ、地球の管理人⋯⋯」


 エリックが言っていた、すごく美しい女の子が地球の管理人だという台詞。

 確かに、2人とも中身はともかくとして見た目はすごく美しい。管理人はふたりいたのか。夏椎が納得していると、つんつんとタタラポッカ星人をつついていた愛敬が顔を上げた。


「で、この宇宙人どーするんです?」


 愛敬の所有物である聖剣は、またロザリオへと姿を変えている。柚姫に手を出した不届き者はいつでも斬り捨てる所存であったが、この場にこの宇宙人の処遇を決める者は誰もいない。


「香流くん連れて行かれちゃいましたもんね」

「連れ戻すのよ?」

「いや、今は行かない方がいい気がします」


 愛敬は首を横に振った。先輩の尊厳を守るのも後輩の役目だ。

 黛もうんうん頷いていた。柚姫と夏椎は顔を見合せて小首を傾げる。


「世の中子どもは知らなくていい事もあるんですよ」

「とりあえず異星人用の牢屋にでも入れとくか?」

「ですかねぇ。じゃあ、連れて行ってきますよ」


 愛敬はそう言うと、縛られている縄を指で摘んでひょいとタタラポッカ星人をかつぎ上げた。


「じゃ、また進展あったら教えてください」


 タタラポッカ星人がドナドナされて行った。

 連れて行かれたタタラポッカ星人に手を振って、柚姫はじっと黛を見上げた。黛は分かりやすくドギマギしている。


「⋯⋯何?」

「怖いのに助けに来てくれたのね?」

「っっ⋯⋯!」


 なぁんで斜めからの上目遣いとかしてくるかなぁこの子はぁぁ!可愛すぎるだろおぉ!

 

 でも子どもの手前悶絶することは出来ない。さすがに俺にだってプライドはある。なけなしのプライドが奮い立っている!


「ありがと。⋯⋯雲雀(ひばり)


 黛のプライドはたやすく折れた。


「気にすんな柚姫のためならなんでもするからぁぁ!!」


 そして叫びながら逃げて行った。

 やっぱり本場は違う。好きな子に名前呼ばれてもういつ死んでも後悔はない。

 そんな事を思いながら去っていく黛を、柚姫はむくれ顔で見ていた。いつになってもちゃんと話してくれない。サングラスがなくてもちゃんと話して欲しいのに。


「雲雀のバカ」


 ぽつりと、柚姫は呟いた。

 そして、くるりと夏椎の方へ向き直る。


「椎ちゃん!」

「はい」

「お腹すいたのよ!なんか食べに行こ!」


 柚姫は花のように笑った。

 夏椎もつられて笑う。今度は自然な笑顔で。

 帰ってきた。この島に。

 きちんと、志賀夏椎の記憶を持って。

 楽しいことだけではなかった。でも、悲しいことだけでもなかった思い出がきちんと胸の奥に灯っている。

 翔真と(こう)が帰ってきたら色んな場所を歩いてみよう。

 色んな思い出話をしよう。

 そう思える自分が、何だかむず痒くて、―――とても、幸せな気がした。



 ★★★★★



(柚木)


 せっかく柚姫と夏椎を助けて帰ってきたのに、森谷が怒った顔をしている。

 C地区長室の仕事机ではなく、長机の方に座った森谷の上に座らされている。森谷の後ろに立つゼウスは何故かニコニコしていた。


「いいことしたのに何で怒るんだよ」

「自分を大事にしない子は大人にしてあげません」


 む、とつい顔に出る。

 森谷の前ではなんかあんまり嘘が付けない。顔を見たらまだ怒ってるから、おれはぷいっと視線を逸らした。


「別に大事にしてなくない」

「お前なぁ。下手したらあのまま消滅するところだったんだぞ!」

「消滅なんかしてねぇもん」

「いつもいつも結果論で語るんじゃない。人の命の前に自分の命だろ」


 そんなこと言われたって、夏椎を助けるにはあの方法しかなかったんだから仕方ない。

 夏椎の暴走を止めるには、おれが夏椎の中に入る必要があった。おれのマナが夏椎の不安定な中身を繋げると思ったからだ。

 夏椎だって地球の生き物だ。おれは管理人なんだから地球の生き物の命を守って何が悪い。

 そっぽを向くおれの頬を大きな手が挟んでくる。無理やり森谷の方を向かされて、潰れた顔を見てゼウスが吹き出した。


「かっ⋯⋯わい」

「反省するまで大人になる許可は出さん」

「何でだよ!お前なんかに頼らなくても大人になれるんだからな!」


 身体のマナを循環させようとして、何故か上手くいかないことにおれは違和感を覚えた。

 あれ、なんか引っかかってる。もう一度試してみても、やっぱり上手くいかない。回路が途切れたみたいにマナを循環させられない。


「なんで!?あ、時差問題が解決してないから!?」

「それはもう元に戻ったよ。犠牲者が出なくて良かったね」

「良かった⋯⋯。あれ、じゃあなんで?」


 森谷が黙ったままなので、ゼウスの方を見上げる。

 ゼウスはくすくす笑って、森谷の頭を指さした。


「あーちゃんは魔王だよ」

「それは知ってる」

「魔のものの王様なんだから、ひとのマナを奪うくらい造作もないよねぇ」

「お前のせいかー!」


 頭突きをしようとしても、殴ろうとしても簡単に止められてしまう。ムカつく!森谷は呆れ顔でおれを見下ろして、大きな手を顔面に被せてきた。


「いい子にしてたら戻してやるよ」

「この姿じゃ仕事出来ないだろ!」

「しばらくお休みしなさい。お父さんの言うことは聞くものだよ」

「誰がお父さんだ!」


 せっかくこの後A地区に乗り込もうと思ってたのに!

 夏椎の初登校にもついて行ってやりたかったのに!


 睨みつけても森谷は一切表情を変えない。子ども扱いしやがって。おれは立派な大人なのに、それでも森谷には勝てないのがムカつく。


「僕たちにとってはまだ君は赤子同然だからね。大事にさせておくれよ」

「⋯⋯どうしたら戻してくれる」

「3日間の謹慎が我慢出来たら戻してやってもいいよ」


 3日もこの姿でいなきゃいけないのか⋯⋯。


 絶句していると、森谷の手が頭へ移動する。優しく撫でられるのがまたムカつくのに、何も出来ないおれが悔しい。


「命が無事だっただけありがたく思わなきゃな」

「それの何がありがたいんだ。別におれは消えたって構わなかったのに」

「そういうところ、反省しなさいよ」


 なんだよ、もう。親じゃないのに親みたいなこと言いやがって。

 悔しくて顔を背けるおれに、森谷はわざとらしくため息をついた。



 ★★★★★


 

(夏椎)


 中学校に通うのはあと半年ということで、制服は購入せずに翔真の予備を貸してもらうことになった。

 翔真ですら少し大きめの制服は、俺にはやっぱりかなり大きかった。石田先生に写真を撮ってもらったので、父さんに送ると嬉しそうな返信が届く。


「やっぱり俺の息子は可愛いな!」


「龍司パパなんて?」


 ひょこっと翔真がスマホを覗き込んでくる。

 俺は翔真にもスマホの画面を見せた。翔真の尻尾が左右に揺れていて、それがとても微笑ましい。


「いやぁ〜。晃も諦めて制服着てるし、今日はいい日だなぁ」

「何でお前は教師のくせに当たり前のように警察庁にいるんだ」

「ご馳走にありつくためさ!」


 石田先生が腕を組んでえっへんと胸を張っている。

 晃は目を細めて顔を背けた。今日も朝から無理やり引きずり降ろされたから機嫌が悪い晃は、それでも学ランをきちんと着ている。


「柚ぽんも来てくれたら良かったのにねぇ」

「あはは⋯⋯」


 あれから、子どもの姿のままの香流さんは翔真と晃には現世に出張に行っていると説明している。

 俺もあの日以降会っていない。それでも「初登校おめでとう」とメッセージを送ってくれた香流さんは、やっぱりどこか律儀な人だ。


「ま、別にいつでも見れるか!行こ、夏椎!」

「うん。ほら晃、いつまでも不貞腐れてないで行こ」

「夏椎がいるなら行く」


 外に出ると、空を飛ぶ人や肌の色が違う異形が見える。

 あの頃の景色とは違うこの場所。でも、隣にはあの頃と同じ2人がいる。

 

 ここで、生きていく。

 この島で、幸せを全うするために。


 誰かのためじゃなく、誰かのせいにせず、自分の足で歩んでいくと決めたから。

これにて志賀夏椎編終了です。

ありがとうございました!

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