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第11話:御曹司の矜持

【学校・放課後】


俺は同じクラスの「御曹司」である財前からコンタクトを受けていた。


ヤツは俺の一挙手一投足を常に監視していた。昨今の俺とユイを巡るドタバタ劇の真相を知りたいのだろう。


「黒崎ユナさん、ちゃんと会話するのは初めてだよね」


静まり返った生徒会室。


窓の外を眺める後ろ姿には、高校生離れした「孤独」が漂っていた。


この男は“完成された全能の支配者”ではなく、“未完の支配者”といったところだ。


この学園を運営する理事長の息子であり、順当にいけば次期理事長候補の筆頭だ。


「財前君。…俺を観察してて、何か理解できたか?」


さて…思想戦の始まりだ。


俺は応接用の革椅子に、深く腰掛けた。


相手が「格」を重んじるタイプであれば、こちらも相応の礼節と、それ以上の余裕を見せるのが商社マンの交渉術だ。


「単刀直入に言うとだな…。君が不良たちを懐柔し、学園の空気を変えつつあることは知っている」


「だが、僕はこの学園を完全なる秩序のもとに管理したいと考えている。不良たちや、君のような予測不能な要素は、本来なら排除すべき対象なんだ」


財前がこちらを振り返る。


その瞳は冷静だが、どこか「正しくあろうとする自分」に疲弊しているようにも見えた。


「秩序か。……だが財前君、適度な澱みすら無い綺麗過ぎる水には、魚は住まないものだ」


「君が求めているのは秩序か、それとも誰も逆らわない『沈黙』かな?」


「…何が言いたい」


「君はこの学園の次期経営者なんだろ? 君の描く近未来の図面には、切島のようなドロップアウトした連中の居場所はないのか?」


「それは、経営者として『資源の見極め』ができていないだけなんじゃないか?」


俺は、彼の机の上に置かれた、付箋だらけの経営学の専門書に目をやった。


「君は立派だよ。父親の七光りに甘んじず、自分の代でこの学園をさらに発展させようとしている」


「だがな、財前君。本当のトップ経営者という者は、泥の中に沈んだ石を拾い上げ、それをダイヤとして磨き上げる度量を持っているものだ」


「…切島を、ダイヤだと言うのか? 彼は完全なる不良品だ、資源ではない」


「今のままなら、そうだろう。だが、俺が彼を、この学園の、そして日本の若者の希望の象徴へとリブランディングしてみせる」


「財前君。俺はこのプロジェクトに自信を持っている。君はそのサクセスストーリーの最初に登場する、スポンサーにならないか?」


財前の眉が動いた。


かつての俺が、保守的な役員たちに「前例のない新規事業」をプレゼンした時と同じ反応だ。


「…僕に、出資しろと言うのか」


「資金だけじゃない、君の持つ公的な個人的信用だ。学園が切島の再起をバックアップする」


「復学じゃない、元生徒の社会復帰をサポートする学校、という熱い青春ドラマさ。俺の知り合いに頼んであるインターネット番組や、上手くいけば地上波にも乗るかもな」


俺はさらに畳み掛ける。


「それが実現すれば、君は『父親の操り人形』から脱却し、独自のガバナンスを確立したことの証明になる。生徒数も確保できるだろうな…」


財前は沈黙した。


プライドと、自分の実力を証明したいという渇望。


それが彼の中で、静かに火花を散らしている。


「…ふん。あくまで学園の経営の安定と、更生プログラムの有効性の検証としてなら、協力はやぶさかではない」


「だが、切島はゴミだ。僕の評価は変わらない。そこは勘違いしないでほしいね」


財前はフイと顔を背けた。


だが、その視線は俺がテーブルに置いた「切島再生計画」のプレゼン資料を、目の端から外さない。


財前の“揺れの決定打”が見えていた。


(クロージング完了、だ)


「ご協力、感謝するよ。財前君」


(スポンサー様だからな、ちょっとくらいサービスしとくか)


俺は立ち上がり、財前を見つめながら手を取って握手した。


財前は、ポーカーフェイスを気取っていたが口角が上がっていた。


俺は、女子高生らしい軽やかな足取りで、生徒会室を後にした。


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