第1話:俺が娘の双子の姉(女子高生)に上書きされた件
【地上・午前4時】
「…どういう事だ?」
俺は今、娘と同じ顔をした「17歳の女子高生」に上書きされている。
しかも立場は「双子の姉」に戸籍ごと、人生ごとだ。
俺は猛烈なショックを受けていたが、長年、グローバルエリートとして鍛えたメンタルでなんとか正気を繋ぎ止めていた。
成人男性用のパジャマの中で泳ぐ、細くて華奢な四肢。セミロングのサラサラした髪。
最も脳をバグらせるのは、腕組みをしようとした際に、二の腕に当たる「柔らかな膨らみ」の感触だ。
だが、器は変われど、中身は東大卒、空手有段者、年収2000万円を稼ぎ出す一流商社の営業課長だ。
「キミ、顔を上げたまえ。時間の無駄だ」
俺の目の前では、自称「天使」と名乗る青年が床に額をこすりつけていた。
名刺には『天界 下界管理課 主任 ウリエル』とある。
「…キミの側のロジックは理解した。だが、こちらの被った損害に対する『リカバリー策』の提示がまだだな」
「ひ、ひぃっ! 申し訳ございませんッ!」
「組織において不祥事が起きた際に最も重要なのは初動のレスポンスだ。組織論の基本中の基本だろう?」
鈴の音のような美声で、俺は冷酷に言い放つ。
「俺のキャリア、年収、積み上げた社会的信用。キミはそれらをこちらのコンセンサスも得ず、勝手に『デリート』したわけだ。これを理不尽と言わずになんと言う?」
「…今回の修正は過去のバグを本来の仕様に修正したものでして…もう、バグ状態に戻すことは仕様上、不可能です…」
天使は震えながら、絶望的な結論を突きつけてきた。
俺の代わりに、妻・サチコが俺の記憶とスペックを完全継承し、商社の課長として「上書き」されたこと。
そして俺は今日から、娘と双子の女子高生として「再起動」させられること。
めまいがした。
東大を出て、血反吐を吐く思いで積み上げた「俺という資産」が、天界の事務ミス一つでゴミ箱に放り込まれたのだ。
その時、背後でドアが開いた。
「パパ…? パパなの…?」
寝ぼけまなこの娘・ユイが立っていた。
鏡の中の俺と、娘。同じ顔の少女が二人。
「ああああッ! 娘さんに記憶パッチ当てるのも間に合わなかったぁ!」
天使が発狂したように叫ぶ。
俺はゆっくりと娘に向き直った。
俺の見た目は華奢な女子高生だが、その眼光だけは数々の修羅場を制してきた企業戦士のままだ。
「ユイ、ちょっと下がってなさい。今からこの無能な担当者に、『責任の取り方』というものを徹底的に教育してやる」
俺は「女」になったわけではない。
魂を、女子高生のカラダという器に無理やり移されただけだ。
「いいか、若造。『すみません』で不祥事を隠蔽出来るなら、警察も裁判所もいらん。こちらが納得できるリカバリー策を示せ」
「お前じゃ無理だと言うなら、今すぐ上司を連れてこい」
夜明け前の少女の寝室。
想定外のシステムエラーに臆することなく、事態の収拾に向け全神経を研ぎ澄ませる男(見た目は美少女)。
この男こそが、本編の主人公である。
(第2話へ続く —— 翌朝、妻が俺の代わりにスーツを着て出勤する)




