『名体表出』を持つ2で1
レースも後半戦。
ミスティと共に全力を出すテイン。
果たして、勝利の女神はテイン達に微笑むのか?
行ける。
目の前までに迫ったシェン選手にそう感じた僕は、ミスティが横に避ける動作に追い付けなかった。
「あっと、テイン選手落馬か?
いや、辛うじてミスティ選手にしがみついている」
「あれは危なかったですね、ミスティ選手が避けていなければやられていたでしょう」
そう、アナウ王の言葉に僕はなんとかミスティに乗り直し前を見た。
そこには地面からヒレのような物が生えて、シェン選手を追っていた。
あれは…
「まさか、ここでアナウ王の注目選手、シャイ選手の次元シャークが上がって来ているとは」
「ええ、私の予想ではもう少し早めに迫って来ると思っていたのですが、テイン選手を狙っていたようですね」
「次元シャークですが、スキルを使っていないのと、瞬間移動はしていない為、失格にはなりません。
しかし、地形が関係なく次元の狭間を移動する能力は凄いですね」
「ええ、ただ体の一部を常に次元の狭間から出しておかないと次元に飲み込まれてしまいますから、注意が必要ですね、シャイ選手もシャークにぴったりとくっついているお陰で次元にのまれないようにしています」
まさか、次元シャークがいたなんて。
シェン選手も気付いたのか速度をあげてる。
また、離されてしまう。
「ヒ、ヒン?」
「あ、ごめん、ミスティ大丈夫だよ」
ミスティの心配そうな声で我にかえる。
僕、ミスティに心配かけて本来の力を出させてあげれてない。
さっき一緒に頑張ろうって気持ちを切り替えた筈なのに。
その時、僕のマフリャーがぎゅっと優しく締まった気がした。
それは、落ち込む僕を抱き締めてくれる感じに似ていた。
僕はもう一度首のマフリャーを握る。
クロネさんは言っていた。
これは母さんとコムギとクロネさんで作ってくれた物だって。
そうだ、みんな一緒に頑張ってるんだ。
「私が言うのもなんだが、辛くなった時や悔しい時は、下を向いても構わない。
だがな、お前の進む道は下にはないんだ。
それをよく考えて前を向け。
そうしたら、目の前はどこまで続くお前の道が見えるはずだ」
父さん、レース前に照れながら言ってくれてたね。
僕はゆっくりと前を向く。
前にはシェン選手やシャイ選手がいる。
けど、もっとその先には何もない荒野が広がっていた。
確かにこれはレースだ。
負ければ全ておしまいかもしれない。
でも、死に物狂いでやるとしても、せっかく2人で走ってるんだ。
みんなの思いを持って走ってるんだ。
こんな大舞台で走れる事をミスティと一緒に楽しまなくてどうする。
『馬体真眼』でミスティを見る。
これだけ走ってきても、大きな疲れは出ていない。
なら、後は僕だ。
僕の気持ちの持ちようだ。
「ごめんな、ミスティ。
レースの勝ち負けばかり考えて、これからが本番だ。
全力全快で思い切り楽しんでやろう」
「ヒヒーン」
僕の声にミスティは嬉しそうに答える。
ミスティが望んでいた事、ようやく分かったよ。
2人でこんな大舞台を走るのが嬉しかった、楽しみたかったんだね。
ごめん、遅くなって行こう、ミスティ。
今は思い切り楽しもう。
「やっと分かったみたいですね」
「なにがだい?」
「あなたと同じでうちの子は考えすぎなんです」
「そ、そんな事ないと思うけど」
「いえいえ、そういう所、私には似なかったから」
「奥さんの言う通り、テインさん達やっと変われましたね」
「ええ、これでやっとあの子達の本当の実力が分かります」
「ん?まさか?」
「どうしました、アナウ王?」
「いえ、先ほど確かに落馬してない筈なのですが、時折テイン選手がミスティに乗っていないように見えるんですよ」
「え?いや、映像では乗っていますが…あれ?本当だ乗ってない?
いや、乗っていますね?」
「これはまさかスキル鑑定士に調べてみてもらってください」
「は、はい」
「まさか、この目で見られる日が来るとは」
「アナウ王、ただいま調べてもらった結果、テイン選手、ミスティ選手のスキルが変化しているみたいです、えっと変化したスキルは…」
「『人馬一体』」
「え?あ、はい、ご存知でしたか?」
「ええ、ええ、名前だけなら知っています。
全ての騎乗者が夢見るスキルですからね」
「そ、それは」
「『人馬一体』騎手と騎乗生物が心を1つにした時のみ発現するスキルです。
騎乗生物の全てのステータス上昇、新たなスキルの発現、多くの恩恵が受けられる伝説のスキルです」
「まさに伝説に立ち会っているというわけですね」
「はい、その通りです。
私が生きている間にまさか、見られるとは」
体が軽い。
ミスティもそうなんだね。
今ならミスティの気持ちが手に取るように分かる。
ミスティ、僕なら大丈夫。
スキル『神速』だ。
その思いと同時に、ミスティはスキルを発動する。
今まで以上のスピードが出て、前の2騎に並んだ。
「おおっと、テイン選手。これは『神速』です。
神の獣しか使えないと言われているスキルを使って一瞬で前の2騎に並んだ。
いや、そのまま抜いて行くぞ、これは早い、まさに神のスピードだ」
よし、見えた。
折り返し地点だ。
このまま、曲がる。
僕の思いにミスティも気持ちを重ねてくれる。
ミスティはほぼ180度回転した。
それから5分ぐらいか、シェン選手も来る。
やはり青龍、神の獣だけあって『神速』が使えるのか。
だけど、まだいける。
ミスティも十分に体力はある。
それに、すごく気持ちよく走ってるのが分かる。
「これは早い、残り400キロ。
ほぼ、テイン選手とシェン選手との対決だ。
シャイ選手は惜しくも大きく離されてしまっている」
「これは仕方ないですね、『神速』を使われては並のスピードでは追い付けませんからね。
しかし、テイン選手の方が若干スキル熟練度が低いせいでしょう、スピードが遅いですね」
「確かに徐々にですが、差が縮まっていますね。
あ、あっと、シェン選手、テイン選手のほぼ後ろについた」
「なるほど、そういう狙いですね」
「そういう狙いとは?」
「前に走っている後ろに着くスリップストリームと言いたいところですが、これは青龍の火炎弾でしょう」
「おお、確かに青龍が大きく口を開ける。
そして、巨大な火炎弾が放たれた~」
く、『神速』で走っているのにそれに迫ってくるなんて、避けられない。
「凄まじい音と共にテイン選手、炎に飲まれた」
「いや、出てきます」
「お、おおっとアナウ王の言った通り無傷で炎の中から飛び出してきたぞ」
なんとか僕の方のスキル『絶対防御』が間に合った。
しかし、僕の方が焦ったせいで速度が少し落ちた。
もう、並ばれてる。
残りはおよそ300キロか。
横を見るとシェン選手と目があったような気がした。
向こうの『神速』の方が使いなれてる分、早さがある。
このまま行けばいずれ、抜かれてしまう。
どうする?
もう、手はないか?
僕がそう考えた時、突然ステータス画面が開く。
そして、スキル欄に光るスキルを見つけた。
『名体表出』
こんなスキル僕達持っていたっけ?
でも、このタイミングで光ってるんだ。
何か意味があるはず。
「そうです、貴方達なら使える筈ですよ、テインさん」
「え?何か言いました、クロネさん」
「いえ、何も。ほら、コムギさんよそ見していたら終わっちゃいますよ」
「え?でも、まだ200キロありますよ」
「いえ、それさえも一瞬ですから」
僕はスキル『名体表出』を発動する。
すると僕達は光に包まれた。
どこからともなく声が聞こえる。
それは優しい声、女性の綺麗な声だった。
「ミスティ、テイン、今、貴方達は2で1の存在。
今の状況を打ち勝つ為に本来の力を呼び覚ますのです。
ミスティ、テイン、2で1となった貴方達の本当の真名は『ミスティルテイン』
貫き射抜きなさい神の矢よ、勝利の為に」
「ああっと、どうした事だ?
突然テイン選手が光に包まれた。
そして、速度が徐々に上がっている。
シェン選手追いすがろうとするが距離は離れていっておるぞ」
「引いているんでしょうね」
「え?引くですか?」
「ええ、それが終われば一瞬ですよ」
「は、はぁ、って、あああ~
凄い、凄い勢いでテイン選手の光が増している。
あ、光が」
ゴーーーーーーール
高らかにゴールのアナウンスが流れた。
「光が一瞬消えたと思った瞬間、凄まじい光の筋がゴールを射抜きましたね、まさに1本の矢のようでした。
文句無しにテイン選手優勝です」
気が付くと僕達はゴールしていた。
まさに一瞬だ。
あの女性の声の通り、僕達はゴールを射抜いていた。
2着はシェン選手。
3着はクーネ選手。
クーネ選手は、グリフィンに乗った騎手だ。
密かに着いてきていたらしい。
その後、僕達は表彰台に上がった。
賞金もらい、家の牧場もこれで持ち直せる。
その後、家族での集合写真。
多くのカメラマンの中、ミスティと僕は真ん中に父さん、母さん、そして、コムギが並んだ。
ん?
クロネさんは?
台座からカメラマンやお祝いにきている人達を見る、その中にクロネさんがいた。
しかし、クロネさんは僕と目が合うとにこりと笑って背を向けた。
マフリャーをくれる時に、「このレースが終わったらまた旅に出る」と言っていた。
ありがとう、クロネさん。
僕の言葉が通じたのか、クロネさんは後ろ向きで大きく手を上に伸ばす。
そして、親指を立てた。
クロネさんは人混みにそのまま紛れていった。
これからは、父さん、母さん、ミスティと僕に力を貸してくれる人達とで、頑張っていくよ。
そして、「いつかまた会おうね」
これにて、完結です。
次回、その後とキャラ紹介の後、新章に入る予定です。
それでは、皆さんまた次回によろしくお願いします。




