むじゅんそうこう
伝説のスキル『矛盾双高』
果たしてアルスは習得できるのか?
そして、アルスの師匠はアルスに何を望むのか?
「『矛盾双高』?」
「ええ、師匠は知らないんですか?伝説のスキル」
食器の器を隣に置き、頭の上に?マークが一杯出てるような師匠の顔を見る。
俺、アルスと師匠は修行の合間の昼食を、いつの間にか、師匠が建てた木の小屋の中で食べている。
俺が修行してる間によくこれだけの小屋を建てれたものだ。
「知らないなぁ、だいたいのスキルは知ってるんだけどね」
そういいながら、自分で作った昼飯を口に運ぶ。
「俺の目標はそれを習得して、パーティーの役にたつ事なんです」
「そうなの?『生命の盾』があれば十分役にたつと思うけど」
「確かにあのスキルは守りには向いてます。しかし、師匠に会った時みたいに破られる事もある」
「はは、あれはちょっとごめん」
頭をかきながら謝る師匠。
「いやぁ、始めて見るスキルだったんで興奮してさ、試したくなって」
そう、約1年半前、始めて会った師匠に、戦いを挑んだ俺は、自分の最高のスキルを意図も容易く破られた。
それだけなら、教えをこう事はしなかったが、なんとその後すぐに俺のスキル『生命の盾』を使って見せられた。
「あの時はビックリしましたよ、俺だけのユニークスキルだと言われてたのが、師匠も使えるなんて」
「ま、いろいろとね」
その後、俺は師匠に頼み込んで、修行をつけてもらうことにしたと言うわけだ。
「さて、そろそろ修行再開しようか」
「はい、師匠」
「ん~師匠じゃないんだけどなぁ」
小声で言った師匠の声を流しながら、俺は食器を洗い外に出た。
「さてと、そろそろ次の段階に進もうか、たぶんこの1年半で『格闘』スキルは身に付いたから」
「『格闘』スキルですか?」
師匠と向かい合うように立ち構える。
「本来、盾使いは攻撃には参加しない、何故だか分かる?」
「盾使いは仲間を守る事に特化したスキル持ちだからですか?」
「ま、それもあるけど、ほとんどは装備が重く大盾を持つ事で動きが若干遅くなる。
なので、攻撃を当てるチャンスがあまりないんだよ」
「なるほど」
「でも、アルスは違う、君は実際の盾で防ぐのではなく、エネルギー体の盾で防げるだろ?」
「確かに、『生命の盾』は半透明のエネルギー体ですね」
「なのに、始めてあった君は大盾を持ってその盾にエネルギー体の『生命の盾』を被せていた」
確かにそうだ、あの頃の俺は重装備だった。
しかし、その方がスキルが破られても実物の盾でいくらか攻撃を防げると考えたからだ。
「さて、いうより見た方が早いと思うから」
そう言って師匠も構える。
「攻撃してみて」
「はい」
俺は師匠に向かって間合いを詰める。
そして、
ダダダダン
素早く両拳の4連撃を放った。
重装備の頃と違い、十分と早く放てたが、
「こ、これは」
俺の連撃は全て盾で防がれていた。
「これが『生命の盾』の応用の使い方」
そう、小さな半透明な盾が俺の打ち込んだ場所に4つ浮いていた。
「このスキルのすごいところは形にとらわれなくても良い事、大きくても小さくても、丸くても四角でも自由自在に変化させられる」
言いながら、師匠の出す盾は姿形を変える。
「半球の形にしたら味方を含めて守れるし、こういう風に薄く体に纏わせて鎧のようにする事も出来る」
「凄い、まさかそんな使い方があったなんて」
「スキルの名前に囚われすぎなんだ、盾と付いてるから、盾の形にしないといけないってことはないんだよ」
「しかし、こんなのはすぐには出来ないですよ」
そう、こんな高度な使い方、俺にはすぐできるはずがない。
「そう?
だって形は自分の思い通りになるし、体に纏わせるのも、アルスはずっとやってたじゃない?
盾の大きさに合わせてこのスキル使ってたんでしょ?」
「あ、確かに」
にやっと笑った師匠。
「やってみて」
そう言われ、俺は『生命の盾』を自ら纏うように展開した。
「で、できた」
「そう、後はそれを持続させる事、そうすれば、俺の修行は終わりだよ」
「な、これじゃ、守りの力の使い方が変わっただけ」
「頭が硬い、盾は矛になれない訳じゃないよ」
そういうと、師匠は小屋の中に戻っていった。
それから、俺は師匠に言われた通り、纏うように展開した『生命の盾』を維持し続けた。
「はぁ~」
ズドン!
毎日の日課の木打ちで、始めて大木に穴が空いた。
「それで大丈夫だね」
先程から睨むように俺を見ていた師匠が笑顔で近づいてきた。
「もしかして、これで修行終わりですか?」
俺は納得出来ずに聞いた。
「そう、これで終わり」
「しかし、まだ、俺は『格闘』スキルを手に入れただけだし、防御もあれから姿形を変えれるようになっただけ」
「それで十分なんだよ、アルスはね」
そう言って、師匠は何かを包んだ紙を投げてきた。
「これは?」
「開けてみて」
包み紙を開けると中には薄緑をベースに作られた小手が入っていた。
「着けて拳を打ってみて」
言われるままにやってみる。
(これは)
「素早さの小手って命名した。ま、名前通りで着けると早く拳を動かせる」
「師匠が作ってくれたんですか?」
「うん、暇だったからね」
暇だからってそんな簡単に作れる品物じゃないよな。
「あと、この『生命の盾』だけど実はレベルを上げると限界突破するみたいだね」
「限界突破?」
「そう、俺も始めての経験だけど、スキルが進化するみたいでね、アルスもやっとスキルが進化してる」
「どうなるんですか?」
「ステータス確認してない?」
「あ」
慌ててステータスを開く。
ここ何年も開いてないステータスのスキル欄を見る。
『格闘』『体力の成長(超)』『真・生命の盾』
(真?)
「新しいではなくて、本来の力を引き出せる状態になってるね」
「どう変わるんですか?」
「もともとは、最大体力の上限が多いほど強くなるものだけど、それに使用者の意志がプラスされる」
「使用者の意志?」
「そう、破壊されない、破られる事はないと自信を持てばその通りになるって事」
「な、それって」
「そう、無敵の盾だね、このスキルただのユニークスキルじゃなくて、チートスキルだよ」
「はは、本当に」
自分の体に纏うスキルを眺める。
「そして、これがアルスにあげる本当のギフト」
「え?」
バシン
「いたぁ」
(え?痛みを感じる?)
「これはノーカンって事にしときなよ、『生命の盾』同士だと打ち消し合うみたいだから」
師匠はいたずらっぽく笑っていた。
「さて、後はアルスがどうするかだね、このまま『矛盾双高』を目指すのか、君を待っている仲間を助けに行くのか?」
「助けに?どうして助けなんですか?」
「『千里眼』ってスキルがあってね、見えてるんだよ。
君のいたパーティーが、Sランクに上がる為に受けた、討伐作戦に出発したのが」
「Sランク」
この国では数えるほどしかいないランク、しかし、その討伐対象は。
「そう、アルスが2年前、パーティーを抜けるきっかけになったモンスターだね」
「師匠ありがとうございます、俺行きます。
確かに『矛盾双高』は目指すものですが、あいつらは俺との約束をこの二年ずっと守ってくれてた、それに報わないといけない」
「ああ、行ってきなよ、ここからそう遠くない、十分に間に合うさ」
そう言って師匠の手から光の玉が飛び出した。
「その後を追えばいい、着いたらまずは一発殴ってやれ、アルスの宿敵をさ」
「はい、師匠、ありがとうございました」
俺は頭を下げ、光の玉を追った。
俺の背で光輝く輪が現れたが、俺は気にせず走り出す、俺の大切な仲間の元に。
これでこのお話は終わりです。
また、後日談はありますが、アルスのその後が知りたい方は読んでいただきたいと思います。
それでは、また、次のお話で
ながながと読んでいただきありがとうございました。