助けたいと思うのです。③
「シャギャアアァ―ッッ!!」
魔物は絶叫とでも言える程の鳴き声を発して、思い切り身体を振り回した。
五感アップも重ねたままだ。
想像を絶するような激痛が魔物を襲ったに違いない。
そして。
「うおあぁ!?」
その凄まじい勢いで、突き立てた双剣が抜けて、俺は吹っ飛ばされた。
高いところから皆を見下ろしているかのような景色が激しく回転し、落下が始まったのを感じる。
広がる平原、横たわる山脈、真っ赤な大蛇。
感じるのは魔物の血の臭いと、草の匂い。
「ハルト君!!」
ディティアの声で、俺は我に返った。
「に、肉体硬化!肉体硬化、肉体硬化ぁっ!!」
バフを必死に練り上げて重ねながら、ぐるぐると回って落ちていく。
俺は何とか地面を目視することに成功し、足から落ちることを意識する。
「ハルト!」
グランの声か、ボーザックか。
もしくは両方かもしれない。
その言葉が聞こえたのと殆ど同時に、俺は地面に転がった。
ガッ、ゴロゴロゴロッ!!
激しい衝撃に、身体中が痛みを訴える。
土の味がして、口を引き結んだけど遅かった。
勢いが殺されて、俺は何度か転がった後に仰向けに止まる。
「っ、ぺっ……くそ……」
転がったまま、思わず口元を拭う。
腕はずきずきと痛むけど大丈夫、足も……うん、動けそうだ。
俺はとりあえず握り締めた双剣を納めて、他に変な箇所が無いかを確認した。
「ハルト君!」
駆け寄ってきたディティアと、銀色のもふもふ。
俺はその切羽詰まった表情を見て、身体をすぐに起こす。
痛みはあるけど、問題ない。
「俺は平気……大蛇は!?」
「……穴に潜られちゃった……ごめんなさい」
「あぉん……」
辺りを見回しても、確かに紅い巨軀は見付けられなくて……俺はぶはーっと息を吐いた。
「とりあえず生きてたけど……そっか、逃げられちゃったんだな……」
「大蛇の傷はそれなりの深さしか無いはずだわ、片目は潰したけど……数日もあればまた人を襲うでしょうね」
ファルーアもやって来て、俺に手を差し出す。
「ああ」
その手を取り立ち上がると、彼女はふう、とため息をこぼした。
「まさか魔法にあれだけ耐えられるなんて……トールシャの魔物は強いって聞いてはいたけれど、これから不安ね」
俺はその顔をまじまじ見てから、眉をひそめる。
……彼女は堂々たる妖艶さで笑っていたのだ。
金色の髪が朝日に煌めいていて、よく映えた。
「え、どう見てもわくわくしてます!って顔なんだけ……いてっ!?」
「消し炭になりたいのかしら?」
「すんませんでした」
龍眼の結晶で殴られたから、それなりに痛かった……。
「……けど、あんなのがごろごろいるなら、トールシャの人達も相当強いってことかなあ?」
ぼやいたボーザックも、グランも、辺りを警戒しながらこっちに来てくれる。
「とりあえず……五感アップ!」
俺は全員のバフを消して、五感アップを広げた。
魔物らしき気配はまだ感じるけど、既に結構離れたようだ。
これでとりあえず、今は切り抜けることが出来た。
……けど、きっとそれだけじゃ駄目だろうな……。
「なあグラン、あの魔物ってもしかしなくても危険だけど……」
思わず言うと、グランは頷いた。
「……野放しはまずいだろうな……トレージャーハンター協会に打診すれば動いてくれんじゃねぇか?人数が必要だろうよ」
グランはそう言うといつものように髭を撫でる。
「……だといいけど」
俺は肩を竦めて見せたけど、グランのひと言で黒鎧の男達が気になってしまった。
既にトレージャーハンター協会が動いた結果、あの魔物に挑んだんだとしたら、彼等は、何処でどうしてるんだろうか。
まさかあれだけのことを言ってやられたとは思えないし……たぶん、あの黒鎧の男の方が、大蛇の魔物よりも強いような気がするんだ。
俺達みたいに逃げられてしまったのか、それとも、別に討伐の仕事を受けたわけじゃないのか……もしかしたらトレージャーハンターですらない、とかもあるか?
「とりあえず、アマルスさん達を追い掛けましょう。……街に到着したら、すぐにギルドへ行って、仕事も追加です!」
ディティアがそう言うと、ボーザックがふうー、と深く息を吐いた。
「賛成だけど、俺、ご飯もしたいかな……体力がもたないよ」
「あ、そうか。持久力アップも消してたんだった……悪かったな、持久力アップ、速度アップ、脚力アップ!」
俺は五感アップをそのままに、バフを足す。
「よし、とりあえずさっさと飯食ってすぐ出発だ」
グランの声で、俺達は早めの朝食を急いで食べ、アマルス達を追って走り出したのだった。
3日分です!
4日分は改めて夜に投稿です。
よろしくお願いします!




