助けたいと思うのです。①
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夜が明ける頃には、山を越えて麓に辿り着いていた。
速度アップもあったから、かなり距離を稼げたはずだ。
口数もすっかり減って、皆必死に歩を進めるだけ。
俺もそろそろ限界かもしれない。
「平原……下りてきたね」
先頭のボーザックが呟き、空を見上げる。
東から明るくなってきていて、もう少ししたら太陽が顔を出すだろう。
平原は遥か向こうまで続いていて、草が生い茂り、その真ん中を街道が綺麗に切り分けているようだった。
ぽつぽつと木も生えていて、成る程、たくさんの生命の息吹を感じることが出来る。
「街までどれ位だ?」
グランが聞くと、アマルスが唸った。
「このペースなら半日……ってとこか。体力が持てばいいが……止まってらんねぇしな」
……半日か。
全員バフを4重に統一するべきかもな……。
ヤヌはエニルを背負っているのに、まだしっかりとした足取りだ。
楽に耐えられるだろうと思った。
……きっとアマルスも、それくらいなら何とかなるはず。
考えていると、『嫌な感じ』が奔り、背中がぞわりとした。
瞬間、ボーザックとディティアが同時に振り返る。
シャアンッ!
ディティアの双剣が抜き放たれて、彼女は腰を落として声を上げた。
「後ろから……何か来ます!」
「グルル……」
フェンがグランの傍に駆け寄って、体勢を低くし、唸る。
「ハルト!肉体硬化が欲しい!」
「わかった、肉体硬化!」
俺はボーザックの言葉に、五感アップを書き換えた。
ディティアと自分のも同様にして、グランとファルーアにも投げる。
「フェン、来い!」
「ガウッ」
フェンにもバフを呑み込ませ、双剣を構えるけど……後ろには山脈が聳えるだけで、何の姿も見えない。
「……くそ、あの蛇か。彼奴ら、しくじったのか」
グランが大盾を構え、続けた。
「飛び出してきたところを叩くぞ!」
「出て来た瞬間に土で串刺しにして足止めするわ」
ファルーアがくるりと杖を回す。
「足は無いけどね……っと!」
ボーザックがグランと並ぶ。
「お、おい……!戦うつもりなのかよ!?」
俺達を見ていたアマルスが、信じられないとでも言いたげな顔をする。
ヤヌも、青ざめていた。
グランがこっちを向いて、頷く。
俺は頷き返して、2人にバフを飛ばし、同時に上書きもした。
「持久力アップ!……持久力アップ、速度アップ、脚力アップ!いいか、街まで死ぬ気で走れ!」
これで4重。
半日も保たないバフだけど、かなりの距離を稼げるはずだった。
「な……あんた、何を言ってんだ!?」
「貴方達に魔物が行かないようにするくらい、簡単よ。……さっさと行きなさい」
ファルーアが振り返らずにぴしゃりと言い切ると、
「おいアマルス、ヤヌ。俺達の言ったこと覚えてるな?」
グランがさらに言い募った。
「そ、それは……でも」
「エニルを助けたいんだろう?」
「……っ」
ヤヌはグランに言葉を紡ごうとして、言葉に詰まる。
それを一瞥してから、グランは肩越しに右手を2回、振った。
さっさと行けってことだろう。
太陽が顔を出し始め、山脈を向いた俺達の左手から、平原に光が奔ってくる。
草が、木が、目覚めていく。
「来るよ!!」
ボーザックの声。
『そいつ』は、飛び退いたボーザックとフェンが居た場所から、獲物を貪ろうと凄まじい勢いで飛び出してきた!
ズゴオオォォンッ!!!
「早く行け!!」
痺れを切らしたグランが怒鳴る。
「……っ、か、必ず、街で!!」
ヤヌが。
「くそ、いいか!待ってるぞ!」
アマルスが。
踵を返して走り出す。
「うーん、俺達って格好良い!」
ボーザックが、じりじりと間合いを測りながら、戯けて見せた。
赤い鱗が日の光に鈍く光る。
細かい牙がびっしりと並んだ口から、舌がちろちろと覗いた。
……やっぱり、かなりでかい。
俺よりも高い位置に頭がある。
「突きなさい!!」
ドゴオォッ!!
そこに、ファルーアの一撃。
太い針のようになった土が大蛇の身体を…………貫けなかった。
大蛇の身体に当たった土の針は、先からボロボロと崩れる。
「キシャアァアーーーッ!!」
上下に大きく開け放たれた口から威嚇音が放たれ、ぼたぼたと涎が零れ落ちた。
「っ!……土じゃ柔らかすぎたわね!!」
ファルーアが金の髪を振り乱し、すぐに杖をかざす。
「凍りなさい!!」
キィンッ!!
今度は大蛇が飛び出してきた穴を、大蛇の身体ごと氷が塞ぐ。
「……っ、駄目ね、これもすぐ破られるわ!」
「任せて!やあぁ―ッ!!」
その氷より上、ボーザックが大剣を思い切り振り抜いた。
ガキィンッ
「うぐっ……か、硬ッ!……っと、と」
しかし、その大剣はいとも容易く弾かれてしまう。
ボーザックは着地した瞬間、蹌踉めいた。
それを見逃さず、大蛇がボーザックに向かって首を振り下ろす!
「ボーザック!」
ディティアが声を上げ、小柄な大剣使いを後ろに引っ張った。
「おおおぉぉっらあ!!」
ドカアッ!!
さらにグランがぶん殴り、大蛇の軌道が逸れる。
バキバキバキッ
同時に、凍らせていた部分が砕け散ったけど……くそ、あれでもダメージは無さそうだ。
大蛇は眼を爛々と光らせて、ゆっくりとグランの方に向き直る。
「こいつは……ちとやべぇな」
「体力が、保たないかも……」
ボーザックは身体の前で剣を構えたまま、歯を食いしばった。
そこで、ディティアが俺の横に駆けてくる。
「……ハルト君」
「どうした」
彼女は、真剣な顔で言った。
「あんなに大きな口だから……バフ、出来ないかな」
本日分の投稿です。
読者の方がファルーアを描いてくださいました!
『逆鱗のハルト設定』にばっちり投稿予定なので、よかったら見てくださいね。
本日もありがとうございます!




