表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
九章 事故物件の怪

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/169

事故物件

 二月十四日 戊申(つちのえさる)


「……」

「随分難しい顔してるな。チョコ食いすぎて具合でも悪くなったか?」

「ん? ……そういうわけでは、ないんだが……」


 翌日。

 保憲と晴朗はいつものように忠行の研究室で各々の課題に取り組んでいた。

 互いの手元には、色とりどりのチョコレートが散りばめられている。

 

晴朗(はるあき)。今いいか……なんだこの甘ったるい匂いは」


 二人がチョコをもそもそと食べながら作業をしていると、古典文学専門の実資(さねすけ)がやって来た。彼は室内に入るなり、充満しているチョコの香りに顔を顰めた。

 

「ヒント、バレンタイン」


 2月14日は、かつての日本の暦には無い。けれども現代の日本、特に女性にとっては一大イベントにもなっているバレンタインデーである。

 

 バレンタインということで、保憲と晴朗、それぞれのゼミではチョコをメインとした、ちょっとしたパーティが催されていた。そんな中で保憲のゼミでは……。


「はい森くん、チョコあげるね」

「やったー! ありがとう〜!」


 保憲の友人であり、食べることが大好きな森には、女子学生からどこにでも売っている安価なチョコレート菓子を貰い、

 

「ついでに西澤と……」

「ついで? まぁサンキュー」


 普段からジムなどで体を鍛えている西澤には、コンビニなどでよく売られているチョコ味のプロテインバーが配られる中、

 

「保憲くんも、どうぞ」

「あぁ、ありがとう……」

「……俺とユウのチョコはあからさまな義理なのに……」

「賀茂ちゃんのだけラッピングが豪勢だね〜」


 保憲がもらう物は、総じて可愛らしいラッピングが施された。デパートなどに多く構えられている有名なチョコレート専門店の物だった。


「……こんなに貰ったのか」

「それは俺じゃない」

「一応……、俺です」


 空いている椅子の上には、そんな保憲が貰ってきたチョコがまとめられた大きめの紙袋が置いてあった。一度に全て食べたら胸焼け必至となるだろう量を見て、少しばかりげんなりした様子で紙袋を見つめていた実資だったが、紙袋の持ち主が保憲だとわかると、軽く咳払いをした後、


「……ご友人が多いようで何より」


 そう言ってお茶を濁した。

 

「そう言うお前は貰ってないのか?」

「妻と娘以外のはいらん」

「……へーへー」


 晴朗が茶化すように実資のバレンタイン事情を聞くと、彼はさも当然のようにまっすぐな瞳で言い放った。晴朗は貰った一口サイズの抹茶チョコを口に放り込みながら、「知ってた」とばかりに適当な返事を返した。

 

「それより……、二人と……、賀茂先生はいらっしゃらないのか?」

「ヒント、バレンタイン」

「……二人に、相談したいことがある」


 忠行のゼミは人数が多く、特に女学生から人気がある。

 実資は晴朗の一言で全てを察すると、二人にある相談事を持ちかけた。



 ******



「……____ふうん、嫁さんのご友人が……」

「最初はただの家鳴(やな)りだろうと考えていたらしいんだが……、風も吹いていないのにカーテンが(なび)いたり、動かしてもいない人形が別の場所に移動するのは流石におかしい。と、妻の友人が怖がってしまっているようで」

「壁の中から聞こえる音であれば、ほぼ間違いなく家鳴りだろうが……」

「室内で、勝手に物体が動いたり、足音が聞こえたり……ってのは所謂幽霊の仕業だろうな」


 実資が持ってきた相談内容はこうである。


 数日前、実資の妻が友人との女子会に赴いた際、ある女性が「引っ越した家が怖い」と言い出したことがきっかけだった。


 その友人は、最近引越しをしたばかりだった。まだ築数年というマンションの一室で、立地も良くとても気に入っていた。だが、暮らし始めてから数日後、おかしな出来事に遭遇するようになった。


 窓を開けていないのに、カーテンが勝手に揺れる。

 部屋の電気がひとりでに点いたり消えたりする。

 水道の水が勝手に流れる。

 寝室に飾っている人形が、掃除をしたわけでもないのに、いつの間にかリビングに移動している。

 別の部屋から誰かの気配がしたり、足音が聞こえる時もある。

 

 極めつけはある日の夜、突然目が覚めたかと思うと金縛りにあい、仰向けに寝ている体の上に、誰かがのしかかっているような重みを感じた。のだという。


 その日以降、その友人は眠るのが怖くなってしまい、最近は寝不足になってしまっている。とのことだった。


「その時の写真や動画はないのか?」

「……写真であれば……」


 実資はスマホを取り出すと、ある写真を数枚、二人に見せた。


「……おぉ〜……」


 その写真を見た二人の口から、思わず関心の声が漏れ出た。


 一枚目は、薄いカーテンの下から人の白い足が見えている。

 二枚目は、扉の隙間から顔らしき影が半分、こちら側を窺うように写っている。

 三枚目は、寝室らしき写真全体にオーブらしき白い粒ともやがかかっていた。


「ガッチガチの心霊写真だな」

「ここまではっきり写ってるのは逆に珍しいですね……」

「こんな写真が撮れてしまったものだから、その友人が住んでいるマンションについて色々と調べたらしい。そうしたら……」

 

 実資は再びスマホを操作すると、別の画面を二人に見せた。


「……案の定、事故物件だったらしい」

「だろうな」


 画面には事故物件検索サイトが映っており、地図上にピンが打たれた物件に、『事故物件である』ことを証明する炎のアイコンがしっかりと付けられていた。


「……『殺人事件』か……」


 炎のアイコンをタップすると、どういった経緯で事故物件になってしまったのか。その詳細を確認することが出来る。

 その友人が住んでいる物件には、過去に同棲していたカップルの男側が浮気をしてしまい、それが女性にバレて口論に発展。最終的に逆上した男が寝室で女性を刺殺。


 以降その部屋には女性の霊が出てくる。


 と、男女の痴情のもつれによって発生してしまった事件の内容が、生々しく記されていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ