表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
断章 運命の出会い《平安時代編》 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/172

どこでそんな言葉を覚えてきたんだ

承平2年(932年) 3月


 保憲が元服(げんぷく)を迎えた。

 現代でいうところの成人式だ。


 現代では、式典そのものは20歳で統一されているが、当時は年齢に幅があり、大体15歳から18歳の間に行われる。


 この時、保憲は15歳。ちなみに俺は11歳。


 氏神様の神社へ行き、服装を大人の物に改める。そして角子(みずら)を解いて、大人の証となる元結(もとゆい)にまとめる。最後に『加冠(かかん)』と呼ばれる、烏帽子(えぼし)を被る儀式を行なう。


「おめでとう、保憲」

「ありがとうございます。これからは成人として……一日でも早く父上のお役に立てるように精進します」


 かっこよかった。

 決して本人の前では言わないけれど。

 

 忠行様と同じ服に袖を通し、烏帽子を被って、アイツは一足先に大人になった。

 早く俺も元服して、同じ場所に立ちたいと、そう思った。


 その後保憲は、『陰陽寮(おんようりょう)』の、暦部門で働き始めた。


 と言っても、保憲はまだ学生(がくしょう)身分なので、給料は発生しない。博士の下で必要な知識を培いながら、まずは陰陽(おんよう)部門にある専門職『陰陽師』になるため日々励む。


 俺たちが陰陽寮を牽引する立場になる頃には、陰陽寮に所属しているすべての職員が『陰陽師』と呼ばれるようになっていたが、まだこの時は、陰陽部門にある選抜された成績優秀者6名のみが『陰陽師』と呼ばれていた。


 この6名の中に選ばれれば、やっと晴れて一人前として認められる。

 

 だから保憲は、暦の勉学をする(かたわ)ら、貴族からきた忠行様宛の占いの依頼に同行して、占術の知識も同時に培っていった。

 

 忠行様が陰陽部門の博士なのに、なぜ暦部門なのかと当時は疑問に思ったが、忠行様は以前から暦博士の大春日(おおかすがの)懇意(こんい)にしており、息子の保憲を少しでも優遇してもらえるよう、あらかじめ根回しをしていたらしい。


 現代の考えからしてみればセコい手法だが、当時は出世してなんぼ。こういった手法は、貴族間では往々にして行われていた。

 

 

 対して俺はというと、10歳になってから新しく、運動も始めた。

 賀茂邸から歩いて約2時間、伏見稲荷大社まで行って、稲荷山を一周して帰ってくる。早朝に保憲と忠行様が出仕する時間と同時に家を出れば、大体お昼過ぎには帰ってこられる。


 最初は二人に止められたが、俺がケロッとした顔で帰ってくるところを見て、忠行様が、


益材(ますき)……流石お前の息子だ……。私の想像をはるかに超えて、立派に、逞しく育っているよ……」


 と、「益材(ますき)の子どもなら仕方ないか……」といったニュアンスで、なんとか認めてくれた。

 この時の理解があったからこそ、俺は85歳まで生きられたんだと思う。だから容認してくれた忠行様には、本当に感謝している。

 

 そして家にいる時は、保憲の弟たちの面倒を見ていた。

 

「おかえりなさいませ、兄上」


 次男の保遠(やすとお)は大人しくて、利口だ。流石は賀茂家の血筋、毎日隠れて家人たちと喧嘩していた俺とは大違いだ。

 

「にいたま!」

 

 そしてもう一人、あどけない滑舌で、帰宅したばかりの保憲に、まだおぼつかない足取りで駆け寄る、小さな童。


「ただいま、保遠(やすとお)保章(やすあき)


 2年前に生まれたばかりの三男、保章(やすあき)だ。

 あまり喜怒哀楽に差がない保遠とは違い、保章(やすあき)はいつも弾けんばかりの笑顔を浮かべていて、元気に邸内を歩き回っては家の者たちに愛想を振りまいている。


「晴明。いつも二人の面倒見てくれてありがとうな」


 そう言って保章を抱っこしているアイツは最近、妙に背丈が伸びている。

 

 気づけば俺と保憲の身長差は、頭一個分にまで広がっていた。

 少し前までは俺とあまり変わらなかったのに、いつの間にこんなに伸びたんだろう。

 毎日食べているものは一緒だし、俺もいつか、このくらい大きくなるのだろうと思っていた。……残念ながらその予測は外れてしまったが。

 

「別に、問題ない。そちらはそうだ?」

「良い場所だよ。暦博士の大春日弘範(おおかすがのひろのり)様という方が、とても聡明で、とてもよくしてくださっている」

「そうか、なら良いんだ。もし不当な扱いを受けたら俺に言え、代わりにぶっ飛ばしてやる」

「お前な……どこでそんな言葉を覚えてきたんだ」

「父上がよく言っていた」

「……」

 

 冗談を言う俺を見て、アイツは苦笑していた。


「お前もあと数年したら元服するんだ。そうしたら一緒に、陰陽寮で働くことになるんだから、あまり刺激の強い言葉ばかり使うなよ」

「一緒に……、陰陽寮で……?」


 この時俺は、保憲の言葉に違和感を持った。


 早く俺も元服して、二人と同じ場所に立ちたい。


 その思いはずっと変わらない。


 けれども俺はこの時、『陰陽寮』で働くことは考えていなかった。


「にいたま! まんま!」

「そうだな、保章、まずは飯にするか」

 

 確かに俺は、賀茂家に居候している状態だ。

 でも俺はあくまで安倍家の人間、安倍益材(あべのますき)の子だ。

 

 もし、父上が生きていれば、俺だって数年後には父上のそばで働けていたかもしれないのに、その願いはもう一生叶わない。


 保憲(アイツ)とは違って。


「晴明さん、どうかなさいましたか?」

「いや……何でも、ない……」


 父と共に、同じ場所で生きているアイツが羨ましいと、俺はこの時初めて思うようになった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ