表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
断章 運命の出会い《平安時代編》 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
145/188

強く生きなさい

 延長二年(924年)四月一日 癸巳(みずのとみ)


 平安京。

 この日の夜、土御門大路の一角に構えられている一つの邸宅が、落雷にあった。

 轟音とともに落ちた雷はやがて炎となり、その邸宅を、あっという間に炎で包み込んだ。

 

 邸宅の中にいた家人たちは皆、逃げる(いとま)もなく、生きたまま体を焼かれ、苦しみ悶えながらやがて倒れていく。

 轟轟と燃える炎、焼け落ちていく木材。その中で、落ちてきた木材に体が挟まれて動けなくなっている男が1人。

 そしてその(かたわ)らには、男を必死に助けようとしている幼い童子が1人いた。


 童子は黒くなった小さな両手で、男の着ている服の袖を掴み、必死に木材の間から男の体を引っ張り出そうと踏ん張るが、幼い童子の力でどうにかなる訳もなく、何度も足を滑らせては床にべしゃりと転がり込む。

 それでも童子は立ち上がり、時折煙で咳き込みながらも男を救出しようとただ1人、奮闘していた。


「……お前は……逃げなさい」


 男が今にも消えそうな小さな声で言った。

 

「……いやです……! わたしが……かならず……! ちちうえを……おたすけして……!」


 童子は決して諦めず、歯を食いしばって男の袖を引っ張り続けた。

 だが同時に、童子のすぐ後ろに、燃えた木材が崩れ落ちてきた。


 童子は熱風と息苦しさで、ついに倒れ込んだ。


「ちち、うえ……」


 朦朧としてくる意識の中、童子は小さな手を、必死に伸ばして父を呼ぶ。

 童子の父は、そんな小さな体を、唯一動く片腕を使って、強く抱き寄せた。 


「……__、父の言うことを……、よく、聞きなさい」


 父は、童子の耳元で息も絶え絶えになりながらも、必死で童子に語りかけた。

 

「賀茂、忠行という……、男の所へ、行きなさい。そこに行けば……、必ず、お前を……、助け……て、くれる……」


 どんどん父の声が掠れていき、途切れ途切れになっていく。

 瞳はすでに虚ろで、焦点は合っていない。

 童子は首を横に振りながら、ぎゅっと父にしがみついた。

 

「ちちうえも……、いっしょ……じゃなきゃ、イヤです……!」

「私はもう……、共には……行けない」

 

 バラバラと音を立てて、天井が崩れてくる。

 もう大人1人が逃げられるような道は、どこにもない。


「なんで……どうして……」


 童子は両の瞳から大粒の涙をポロポロと流し、初めて見る父の、力の無い瞳を見て、己の無力さを思い知った。

 

晴明(はるあき)……、強く生きなさい」

「ちちうえ……?」


 そして父は最後に、童子の名前を呼びながら強く、強く抱きしめると、片手で童子の襟を掴み、最後の力を振り絞って屋敷の外へ向かって童子を放り投げた。

 宙に浮かんだ童子の体は、炎の中を突き抜けて、外へと転がり落ちた。

 

「ちちうえ!!」

 

 炎の手が届かない場所まで転がった童子は、泥だらけになってしまった姿にも構わずに、立ち上がって父を助けようと再び中に戻ろうとした。

 しかし、近くにいた大人がその体を押さえ込んだ。

 

「ちちうえ!! ……ちちうえ……!」


 炎に飲まれ、一つの邸宅が無惨にも崩れ行く。

 たった1人の童子を残して。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この場を借りまして、御礼申し上げます。


次回以降より、再び断章、平安時代のお話に入ります。

陰陽師である前に、一人の小さな人間として生きたであろう、安倍晴明の幼少期のお話になります。

引き続きお付き合い頂けたなら幸いにございます。


もしよろしければ評価・感想・ブクマなども併せてよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ