14.王の怒りに触れる侯爵家
「ふむ、シンシア、侯爵家から手紙が来ているようだぞ」
「え? 何かしら」
私は疑問に思った。
普通、嫁いだとしても実家と手紙をやりとりすることは普通のことだ。
ただ、
「私は侯爵家では出来損ないと言われて、ずっと邪魔者扱いされてきたのに。今更どうして手紙なんて……?」
そう純粋に疑問を口にした。
すると、ブラッドが私を後ろから抱きしめながら囁いた。
「ど、どうされたのですか。ブラッド」
「俺のプリンセスが辛い目に遭ってきたと聞かされて、つい、な」
「もう過去のことですよ」
「お前は強いな。それに優しすぎる。だが、俺の気持ちはおさまらん。だからもうしばらくこうしていさせろ」
「王様の命令とあれば」
「違う。君の夫のお願いだ、シンシア」
「は、はい。ブラッド」
「それでいい。他人行儀なことを言ったら、1週間はお姫様抱っこで城を移動させるからな」
「そ、それはやめてください! 心臓が止まってしまいます!」
俺は構わないのだがな、とブラッドはそう言って、私の後頭部に口づけをする。
昔の話をすると、どうにもブラッドは私のことが心配になり、同時に怒りを覚えるようで、いつもよりも愛情表現が激しくなる。ただ、これでも我慢しているんだ、と先日言っていたので、そのうち何をされてしまうのかと戦々恐々としている。
それはともかく。
「侯爵家からの手紙か。きな臭いな。もしシンシアが構わないなら、俺も見たいのだが」
「もちろんです。私の夫なのですから」
結婚式自体は準備中でまだだが、番である以上、実質的には同じことなのだ。
「そうかそうか、ふふん」
ブラッドがとても嬉しそうに微笑んだ。
私が彼を夫と言うと、なぜかとても喜ぶのである。そして、そういう時に見せる、彼の屈託のない表情は、八重歯が見えてとても可愛い。
王様にそんな感想を言ったら気分を害されるかもしれないが。
私たちは手紙を読んだ。
そこに書いてあることを要約すれば、
『預かっていたクレアお母様のロケットペンダントを返したい。ついては侯爵家に一度戻ってくること』
ということだった。
「まぁ、お母様の!」
「大切なものなんだな?」
「はい……。またこういう話をすると気分を害されるかと思いますが、私の本当のお母様の遺品の中に、私を抱いたお母様の写真入りのロケットペンダントがあるのです。しかし、妹のイヴリンに取られてしまって、失くしたと言われていたのですが、見つかったのですね!」
私は喜んだ。
お母様の遺品は、妹やドリスお義母様たちにほとんど捨てられてしまい、残っているのは今も大切に着ているドレス一つだけである。
ロケットペンダントには母の写真が残っている。すぐにでも侯爵家に戻ってそれを返却してもらおうと思った。
しかし、ブラッドは何かを察したかのように、不機嫌な様子で「なるほどな」と呟く。
「どうされたのですか?」
「シンシア、これは恐らく君を陥れるための罠だ」
「えっ!?」
思わぬ言葉に驚く。ただ、よく考えてみれば、このタイミングで失くしたと言われていたペンダントが出てきて、わざわざ侯爵家に呼び戻すのは、何か目的があってのことだと考えるのが自然だ。
「でも、どうして……」
「実は君を酷い目に遭わせた侯爵家なので、思い切り嫌がらせをしていたのだ」
「えっ?」
初耳だった。
「多額の結納金を支払う約束をしていたが、それを無視し続けている。それで業を煮やしたのだろう」
「それで彼らは私を利用して、ブラッドへ結納金を督促しようと思ったのですね?」
「そうだ。生贄に差し出した上に、いまだ利用しようとするとは、本当に許せない奴らだ」
「ただ、一つ疑問があります。こうして既にブラッドに、侯爵家の目論見は露見してしまっています。どうして、こんなすぐに瓦解するような企みを立ててしまったのでしょうか?」
その言葉に、ブラッドは嬉しそうに微笑む。
「間抜けなあいつらは、俺とシンシアが一緒に手紙を読むなんてことは想定していないんだろうさ。恐らくだが、俺が君を喰い殺したという話が出ないから、きっと君が俺と不仲などと勘違いしているに違いない。真実は真逆なのだがな」
彼はそう言って、機嫌よく私のブラウンの髪をすくって口づけをする。彼は私の髪をいじるのが好きだ。私も彼に髪をいじられるのは嫌ではない。
ちなみに、レナード様にも髪は触らせたことはない、ということを言ったら、とても喜んでいた。
『お前の初めては何であろうと俺のものにする』とおっしゃっていた。
私はずっと赤面するしかなかったが……。
さて、それはともかく。
「利用されることは分かっていますが……。それに色々と嫌がらせを受けるかもしれません。しかし、母の形見は返してもらいたい。私は一度侯爵家へ戻ります」
そう決意を伝える。少し怖いが仕方ない。
でも、彼はあっさりと頷く。
と、同時に、
「そうか。なら、俺も一緒に行こう」
「え?」
私は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
彼は私にだけ向ける微笑みを浮かべながら、
「シンシア、君を一人でそんな魔窟に行かせるわけがないだろう。それに、君が平気でも、俺が平静ではいられない。心配で気が狂ってしまうかもしれないし、何より君に何日も会えないなど、何の拷問だ?」
「でもご公務が……」
「どうせ君が侯爵家に行けば、仕事など手につかん。当たり前だろう」
「あ、当たり前なんですか」
強い愛情を感じる。でも、まだ辛い日々の記憶が色濃い私には、その愛をすぐに受け止めきれない。
でも、彼はそれすらも許してくれるのだ。
そして、
「安心しろ、シンシアそれにな」
彼は威厳のある表情で笑みを浮かべた。それは赤龍王としてのものだ。
「一度、侯爵家の奴らごときが、俺の番に馴れ馴れしくすることに、いい加減我慢の限界だったのだ」
彼の言葉は、私を守る固い意思に裏打ちされた、力強いものであった。
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