13.侯爵家のたくらみ
シンシアが輿入れしてから1週間後の昼下がりのこと。
「結納金はまだ支払われないのか!」
シンシアの父、ギルバート・ロレーヌ侯爵は焦った様子で書斎をうろうろとした。
そして、
「結納金がたんまりと貰えるというから、娼館に売らず、レッドドラゴンへ嫁がせたというのに!」
その言葉に、実の娘であるはずのシンシアへの愛情はひとかけらもない。
ただ、己の懐をいかに温めるかしか考えない、クズのような顔をした貴族が一人いた。
「あの醜い娘が、レッドドラゴンに喰い殺されるだけで、我が侯爵家が潤うのだ。安い買い物だ、はっはっは!」
それは娘のことを一ミリも考えない、人間としても最低の発言であった。
しかし、その言葉をたしなめるような者はその場にはいない。
書斎には、いつもの侯爵家のメンバーが集合していたのだ。
「邪魔で臭い娘を生贄に差し出すだけで、たんまりとお金が頂けるのですもの。あなた、督促はしてくださっているの? 宝石商を随分待たせているのよ?」
娘の命を平気で宝石に換えようとする義母のドリス・ロレーヌ侯爵夫人も追随するように言う。
「それがどうにもなかなか返事がなくてな。なぁ、レナード君、どうなっているか、君たち吸血鬼種族なら分からないだろうか?」
吸血鬼種族のレナード・カストリア伯爵令息は、美しい金髪と象徴的な紅の瞳をギルバートに向けて答えた。
「噂によると、まだシンシアは喰われてはいないらしいですね」
そう番であるシンシアの義妹のイヴリンの肩を抱き寄せながら言った。
そのイヴリンは、その言葉を聞いてほくそえむ。
「くすくす。そりゃあ、あんな出来損ないの姉さんなんて、喰いたいなんて思わないでしょう。大方、ゲテモノとして呼び寄せてみたものの、食欲が湧かなかったってところじゃないかしら」
「ははは! イヴリンは聡明だな! きっとそうだ。あんな女に興味を抱くのは、醜穢な女だからこそ、だろうさ。くっくっく」
「でも、味見をしようとしていたじゃない?」
「イヴリンが嫌がらせでそうしろと言うからじゃないか。そうでなければ近寄りたくもないゲテモノだ」
散々、シンシアの尊厳を貶める発言を、家族であるはずの者たちの口から躊躇なく発せられる。
「ふーむ、しかし結納金については困るな」
ギルバートは顔をしかめた。侯爵家の財政状態は芳しくなく、自分の代になってからますます悪化していた。
それもこれもシンシアが有力な番に選ばれなかったからであり、前妻のクレアはカンテミール子爵家の令嬢で、望まぬ婚姻であった。シンシアが生まれたが、その後クレアが死んですぐに、元々当時から愛人として付き合っていたドリス・ノストブル子爵令嬢を迎え入れたのだ。
ドリスはイヴリンを生み、彼女は見事吸血鬼種族の番となった。レナードのカストリア伯爵家からの支援はそれなりだが、さすがに侯爵家の財政をまかなえるほどではない。
だからこそ、幻想種の頂点たるレッドドラゴンに娘を嫁がせることで結納金を得ることは、娘の命と引き換えであろうとも、非常に魅力的な話であった。
まぁ、娘の命など端から興味などないのだが。
と、悩む父に対して、イヴリンがいかにも愛らしい笑みを浮かべて言った。
「私に良いアイデアがあるんだけど」
「ほう、何だい?」
ギルバートの質問に、イヴリンは意気揚々と話す。
「お姉ちゃんって前のお母さんの形見を沢山持ってたけど、私がことあるごとに捨ててきたわ。だって新しいお母様がいるのだから、前のお母様のものなんていらないもの。でも、一個だけたまたま残してるものがあるの。これよ」
そう言って取り出したのは、銀細工で造られたロケットペンダントだ。
「中には前のクレアお母様の写真が入っているのよ。この預かってたものを返してあげると言ったら、指定した場所にやってくると思うわ。写真は全部捨てられたと思ってるはずだから、残ってると言えば、飛びつくはずよ、卑しい女だもの」
「なるほど。そこで結納金のことを言い含めれば良い訳か。形見のためなら死に物狂いでレッドドラゴンに結納金の入金を言うであろう。生贄としてまだまだ役に立てるとは、シンシアも幸せなことだな!」
「ふふふ、でも、もしかしたら、喰い殺されるのが怖くなって、私のこの屋敷に戻してほしいって、懇願してくるかもしれないわね」
「ははは! 確かにね! まぁ、その際はまた僕が弄んでやるとしよう。なに、喰い殺される前に僕のような男に遊ばれるのは本望だろうしね。ああ、もちろんイヴリンがそれを望むから、だけどね」
「あら、それなら私も久しぶりにシンシアをお仕置きしたいわ。母として悪い娘をしつけるのは義務だもの、ふふふ」
それぞれがシンシアをいかに利用するか、あるいは弄ぶかを議論する。
「ははは。おいおい、弄ぶのは良いが、結納金の話が先だぞ? まぁ、何にしても、イヴリンのおかげでシンシアを利用して金は引っ張れそうだな。さすが我が娘だ! 皆も楽しそうで何よりだ!」
ギルバートがまとめるように言った。
もしここに無関係の第三者がいれば、本当に家族なのかと、大いなる嫌悪感に顔をしかめたことだろう。
ともかく、こうしてシンシアの尊厳を犯し、彼女を陥れる計画は、着々と進んでいくのだった。
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