6人目(山野憲一)
と俺が言って天井の蛍光灯を見ると山野も上を向いたんで、すかさず首トンをしたら山野はダウンした。練習はなんとか間に合った。昨日の夜ずっと試行錯誤しながらトントンしてたらコツがわかった。力はいらないけど両側の頸動脈にピンポントで同時に衝撃を与えなきゃいけないみたいなんで、俺は手刀じゃなくて両手の親指でそのツボみたいなとこを狙うやり方に改良した。他人にも効くかどうかは、昨日三村と打ち合わせした時に事務所の若い衆で試させてもらった。でも立ちくらみの強いみたいなのになるだけだから、1分もしないうちに意識はもどってくる。だから山野を抱えて個室の中に入れて、中から鍵を掛けた。洋式の便器だったので、そこにゲロを吐くような姿勢で寄っ掛からせた。ポケットから木工用のデカいカッターナイフを出して首を横一文字に切り開いた。なんともいえない気持ち悪いあの手応えは相変わらずだった。中村の時にはわからなかったけど、首を切ると異常にスゴい血が出るってのがわかった。切った後、一拍おいてビュー、ビューと脈に合わせて水道みたいに出てきて、学生服の袖にドバッと掛かった。後は便器に向けさせてたからその中に流れた。山野はしばらくゴボゴボ言ってた。あんまり見事に血が出るんでしばらくボーッとしてたけど、壁を乗り越えて隣りの個室に行って外に出た。これで少しは時間が稼げるはずだ。洗面所で手と学生服の袖とカッターを洗った。誰か入ってくれば殺せばいいやってしか考えてなかった。それからまたジャンパーに着替えて掃除用具入れからバッグ取ってトイレを出て、2階行って喫茶店横の階段降りて外に出た。外に出たら警官もヤクザもいなくて、当り前だけどいつもの小倉の街だった。土曜だったし学生や子供もいっぱいいて陽もポカポカ照ってるし、今やって来たことがウソみたいだった。駅に行こうかとも思ったが、考え直して近くの小倉図書館に行った。トイレに入ってまた偉大な学生服に着替えて、学習室で受験生に混じってコレを書いている。ここは本当に静かでますます平和な土曜の午後だ。清春は存在自体も感じない。大地に飲み込まれることができたのか、それとも完全に俺と同化してしまったのか。たぶんもう現れないような気がする。ちょっとさみしい気が、しないな。アイツうっとーしいもの。
俺はこれで目的の半分を達したことになる。最初は黒澤明の「用心棒」みたいにヤクザを相討ちさせてヒーローになろうとしたのかもしれないけど、現実はちょっと違うようだ。第一ヤクザは三村や山野見てる限りはそんなに悪い奴じゃない。それでも殺すのは、人格的に善人であるのと社会的に悪であるのは別だってことだな。そういえば、さっき伝言ダイヤルで三村に山野殺したこと言ってきた。「ちょっと待て」って何があったんだろう。アレ聞いたら三村、ひょっとして俺殺そうとするかもしれないな。三村はずっと俺に自分が味方だってことを印象付けようとしてたみたいだけど、深読みすればそれは裏切るための下準備だとも取れるんだよな。吉本がビビってタレこんでる可能性もある。警察が嗅ぎ付けてるかもしれない。それでもいいと思うんだよな。清春がいなくなった以上、俺に人殺しを強要するものはなくなったしな。でも、不思議とやめない気もするな。三村の親分の神龍会会長殺しはやめられない。それは三村に対する裏切りだけど、俺はそれをしなくちゃならない気がする。同時に裏切られなくちゃならない気もする。俺の本質というか本分はユダであることのような気がするんだ。聖書の中では、キリストとユダでひとつの機能が完結してるような気がするんだよな。俺はひょっとしたら現代の贖いを実現しようとしてるのかもしれない。もちろん、アンチ・キリストの役でだけど。もしかしたら俺がミッション系の学校に入ったのだって何かの符合なんだろうか。
そこまで神がかりになる必要はないだろう。とりあえず博多に帰ろう。北九州は俺の庭みたいなもんだ。検問が張られてたとしても、あらゆる交通機関を使って帰る自信はある。箱崎の下宿は誰にもバレてない。これからのことはあそこに帰って考えよう。とにかく、ちょっと休みたい。ここしばらくは何もする気がしない。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%8F%E9%A0%B8%E5%8B%95%E8%84%88
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kyouiku/file_0385.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A8%E5%BF%83%E6%A3%92




