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不本意!モデル契約


歩く度に、ライラックのスカートのヒダが揺れています。

ってか、こんなにふわっふわだとすんごく歩きにくい…。

襟ぐりにぐるっと飾られた花も、生花なので壊れてしまうんじゃないかと気が気ではありません。

ベクトアース伯爵の手がなかったら、歩くこともままならず、ずっこけてますよ、絶対…。



「…あんたちゃんと歩きなさい。貴族でしょ?ウォーキングの基礎トレーニングやってなかったわけ?」


「えっと…ど田舎の山の中でしたので…必要ないかな~…とか、思って…。」


「かな~じゃないわよ。ったく。しょうのない子。」



私の事を、しょうのないと言ってはいるのに、その言葉じりはからかいがあるので、本気で呆れてはいないみたい。良かった…。

何だかんだで私の歩調に合わせて進んでくれる伯爵の手を取り、廊下を進んでいきます。

廊下を渡りきると、夜会会場の前に到着しました。



「さ、背筋を伸ばしなさい。顎は引く。…引きすぎ!」



シャンと背筋を伸ばし、顎を引くと引き過ぎたのか、彼の指が顎を持ち上げてきました。

夜会会場の扉の前で、ベクトアース伯爵の即席姿勢チェックです。

私は直された顎の位置をずらさないようにちらりと視線を向けると、目が合うとは思っていなかったのか、伯爵が若干ん?といった顔をします。

私は髪形が崩れないように気を付けながら、何でもないと首を振って答えると、それと同時に会場の扉が開かれました。

扉が左右に開かれると、会場内にいる方々が一斉に私たちを見ました。



「まぁ!」

「どこのご令嬢?」

「ベクトアース伯爵様の新しいモデルの方かしら?」



等、口々に呟く声がすべてではないけど、聞こえてきます。

…私的には誰にも気づかれず、そっと元いた食事テーブルに戻ってしまいたかったのですが、駄目ですね。

多分、横に立つこのお屋敷の主で煌びやかな、ディアベル=ベクトアース伯爵と一緒だからでしょう。

会場中の視線が私たちに突き刺さり、私は恐れ慄く事態です。

だって、こんなに多くの人に注目されたのなんて生まれて初めてなんですから。


領地で、牛や羊の注目を集めるのは得意だったりしましたが、人間だと圧が違いますね。

しかし、顔には出しません。…いや違いますね。驚き過ぎて、顔筋が固まっちゃったんです。

会場の入り口前で固まっていると、横にいたベクトアース伯爵が一歩前に出て優雅に腰を折りました。



「皆様、今晩は。楽しんでおられますでしょうか?今夜の私の最新ドレスのお披露目会でもあります。是非、楽しんで行ってください。」



ん?この人、今何て言った?最新ドレスのお披露目?あれ、この夜会ってそういうのなんですか?

彼の背を?いっぱいの顔で見つめてしまいます。

しかし、私の視線にまったく気づかず、魅惑的な笑みを会場にいるすべての人達に向けると、入り口の反対側の扉が開き、綺麗な女性たちがこれまた綺麗なドレスを着て、フロアの中央へ歩いていきました。



一人目は、美しい巻き毛の栗毛で目はブルーグレー。纏うドレスは、アイスブルーのプリンセスラインドレスです。白い花のレースを胸からスカートまで品よく縫い上げられていて、花の花弁にダイヤが煌めいています。

小柄ですが花のある彼女に、とてもよく似合っています。


二人目は、ストレートの黒髪、目はブルー。纏うドレスは、真っ赤なマーメイドラインのドレスです。

シンプルなシルエットなのに、胸元に大きなアシンメトリーリボンがアクセントになっています。

スラッと背が高い彼女が醸し出す、スマートでセクシーな雰囲気が良く出ています。


三人目は、赤毛をまとめ上げ目はグリーン。纏うドレスは、光沢のあるローズカラー、Aラインドレスです。

バックに、これでもかという程のボリュームリボンが飾っており、流れるスカートの端には、パールとダイヤモンドが付いています。

お胸の大きな彼女を際立たせる、ハートカットの襟ぐりが、大胆なのに品があります。


四人目は、金髪をハーフアップ目はアメジスト。纏うドレスは、妖精の羽のように薄い生地で作られた黄色のエンパイアドレスです。胸のところで切り替えられたスカートは、左右に広がるデザインで、歩くとその生地がひらりと舞い、中のシルバーの糸で縫われた刺繍が見えます。

人間とは思えない、まばゆい白肌を晒して歩く姿は同性の私でも生唾ものです。


4人の女性たちはフロア中央まで歩くと、息を合わせたようにクルリと舞うと、お互いを背にして四方に向かって膝を折りました。

彼女たちの礼が済むと、招待客たちは、一同に拍手が起こりました。


何が起こっているのか分からず、きょとんとこの出来事を見ていると、



「最後に、ご紹介いたしましょう。私の新しいモデル。ロベリアンナ=セージ男爵令嬢です。」


「へ?!」



マテ!今何いった?!この伯爵、私のこと“モデル”っていった?そんなの了承した覚えないっすけど?!

動揺して、私の前に立つ伯爵の背中のジャケットを握り引っ張ります。

すると


ジャケットひっぱんないでよ?!


って顔をして、私を睨みつけました。


なに、この人!!だって、はっきり断ったモデルの話をこんな大それた場で発表するとか、おかしいのあんただよ?!

そんな私の動揺など、会場中の方たちは全く知りません。彼らの好奇の目が、私に突き刺さりました。

私は会場でただ一人の味方!一緒にこの会場に来た伯母を目だけで探していると、いた!見つけた!驚いて両手で口を押えている伯母は、私と目が合うと、親指をグッ!と立てました。ウィンク付きで。


………あー…駄目だ。

…これ、味方いない察しろってやつですね。誰も助けてくれないやつだ。


私は、この会場に誰も味方がいないことを悟って、目の力が無くなりました。

死んだ魚の眼って、多分こんなんだと思います。



「次回のドレス発表時に、彼女も登場しますので、皆様楽しみになさってください。」



良く通るベクトアース伯爵の話が終わると、会場中の人間から拍手が送られた。



「ほら、礼して。それぐらいは出来るでしょ?」



私にしか聞こえない声で囁く伯爵に、私は反感の気持ちが確かにあるのですが、やっぱり末端貴族の習性でしょうか、言われるまま一応膝を折り、注目してくる人々に礼をとしました。



「上出来よ。ロベリアンナ。」



誰にも見えないように私を振り返った伯爵は、私ににんまりとした笑みを浮かべるので、私はそっぽを向きたいのを何とか堪えて、ぼそっと呟きました。



「………タダより怖いものはないって本当なんですね。」


「なんか言った?」


「詐欺罪で捕まってしまえばいいのに…。」


「なんて物騒なこといってんのよ、ロベリアンナ。」


「事実ですよ、伯爵。」



私達は小声で囁き合います。

モデルなんて引き受けたくありません。

王都での身元引受人は伯母になりますが、あの様子じゃ私はこの伯爵にドナドナでしょう。


……諦めてしまえば楽でしょうが、未知なる世界に引っ張り込まれようとしているんです。

やっぱり、嫌なものは嫌。


どうしたらいいのかため息をすると、伯爵が私の頭をポンポンと叩きました。



「難しく捉えないの。あんたは私の作ったドレスを着る。私はあんたに素敵なレディーへの教育を施す。それこそ、どこに嫁に出してもおかしくない令嬢に、あんたを仕上げてあげるから。あたしの元に来なさいな。」



なんかばれてますね。私が王都にきた理由。

っても、珍しくない事かもしれません。

ど田舎の令嬢が年頃になり、王都にくる理由なんて、嫁の貰い手を探しに来ましたって言っているようなもんですもんね。

伯母にも迷惑掛けるかもしれませんし、ここは彼の話しに乗った方が得策かもしれません。


ただ、あまりにも彼の態度が癪なので、精一杯不機嫌を演出した声で



「お願いします。」



と呟いたのだった。





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