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森の昼ごはん

森トカゲが草の影に消えると、ルミナの森はまた静かになった。




ヒロは少し笑う。




「トカゲまで食材なんですね」




ひよりもくすっと笑った。




「この森、食べられるものが多いんです」




ヒロは周りを見回す。




「便利な森だなぁ」




そのとき、ひよりが少し離れた木の根元を指さした。




「あ、ありました」




細い葉の植物が、群れるように生えている。




葉の先が、ほんのり光っていた。




ヒロがしゃがみこむ。




「これがルミナハーブ?」




ひよりが頷く。




「はい」




「グルメギルドの依頼です」




ひよりは丁寧にハーブを摘んでいく。




ヒロは興味深そうに覗き込む。




「さっき言ってた魔素を整えるやつ?」




ひよりは少し考えてから答えた。




「そうです」




「食べ物には魔素があります」




「でも濃すぎると、人はうまく取り込めません」




ヒロが腕を組む。




「それを料理で調整するのが作り手?」




ひよりは少し驚いた顔をした。




「……はい」




ヒロは苦笑する。




「なんとなく分かってきました」




ひよりはハーブを袋に入れながら続ける。




「わたしには、食材の魔素の色が見えるんです」




ヒロ




「色?」




ひより




「はい」




「強いもの、弱いもの」




「料理に向くもの」




ヒロは感心した顔になる。




「すごい能力ですね」




ひよりは少し照れたように笑った。




「まだ勉強中です」




しばらく採取を続けると、袋の中の茸もだいぶ増えてきた。




ヒロが背伸びする。




ひよりも空を見上げた。




木の隙間から光が差している。




「そろそろお昼にしましょうか」




ヒロは少し驚いた。




「ここで?」




ひよりは小さな革袋を取り出す。




「はい」




袋を開くと、中から小さな鍋と布が出てきた。




ヒロ




「料理道具だ」




ひよりが笑う。




「作り手ですから」




布を広げると、固い板のようになった。




簡易まな板だ。




ひよりは森茸をいくつか切り分ける。




ヒロが水筒を差し出す。




「水はこれで?」




ひよりは首を振った。




「この森の水を使います」




近くの小さな湧き水から水を汲み、鍋に入れる。




火石を軽く叩く。




ぱち、と火が生まれた。




ヒロが感心する。




「便利だなぁ」




ひよりは鍋を火にかける。




森茸を入れ、ルミナハーブを少しちぎる。




塩をひとつまみ。




湯気が立ち上る。




森の匂いと混ざって、やさしい香りが広がった。




ヒロの腹が鳴る。




「いい匂いだ……」




ひよりが笑う。




「もうすぐです」




その間に、ひよりは袋からサンドイッチを取り出した。




パンの間に挟まれているのは、こんがり焼かれた肉。




ヒロが聞く。




「これ、何の肉?」








「スカイチキンです」








「鳥?」








「魔物です」








「え」




ひよりがくすっと笑う。




「定番なんですよ」




鍋のスープがふつふつと煮えてきた。




ひよりは器に注ぐ。




「森茸スープです」




ヒロはサンドイッチを一口かじる。




「……うまっ」




続いてスープを飲む。




茸の香りがふわっと広がる。




ヒロは目を細めた。




「めちゃくちゃうまい」




ひよりが少し嬉しそうに笑った。




ヒロはもう一口スープを飲む。




そのときだった。




「あれ?」




ヒロが腕を軽く振る。




「なんか」




「体、軽い気がする」




ひよりが首をかしげる。




「え?」




ヒロは苦笑する。




「気のせいかな」




森の風が静かに吹き抜ける。




葉がさらさらと揺れ、遠くで鳥の声が響いた。




ひよりはヒロの顔を少し不思議そうに見ていた。




「体が軽いって……」




ヒロは肩をすくめる。




「なんとなくですけど」




「気のせいかもしれないです」




ひよりは少し考えるように首をかしげた。




「……スカイチキンは、軽身の魔物です」




ヒロ




「軽身?」




ひより




「高い枝に飛び乗ったり、すごく速く跳ねたりするんです」




ヒロは少し笑った。




「だから体が軽い気がするのか」




ひよりも小さく笑う。




「たぶん……偶然だと思います」




ヒロはサンドイッチの最後の一口を食べる。




「でも」




「この森で飯食うの、いいですね」




ひより




「ふふ」




「外で食べると、少しおいしく感じますよね」




ヒロは鍋の残りのスープを飲み干した。




「ごちそうさまでした」




ひよりは片付けを始める。




火石の火を消し、鍋を洗い、道具を袋に戻していく。






「よし」




ヒロは立ち上がる。




「あと少し採取しましょうか」




ひよりも立ち上がった。




「はい」




そのときだった。




森の奥で――




ガサッ。




枝が揺れた。




ヒロが振り向く。




「……今、音しました?」




ひよりも耳を澄ませる。




森は一瞬だけ、しんと静まり返った。




次の瞬間。




ザザッ。




何かが、木の奥で動いた。




ひよりの表情が少し強ばる。




「……ヒロさん」




ヒロ




「はい?」




ひよりは森の奥を見つめたまま、小さく言った。




「この音……」




「たぶん」




「魔物です」




……。






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