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この世界の呼吸1

トワさんは、空になったスープ皿をゆっくりと見つめた。


それから、静かに口を開いた。


「この世界ではね」


少し言葉を選ぶように、間を置く。


「人は食べて、魔素を体に巡らせて、生きてる」


「……魔素を?」


ヒロが首を傾げる。


トワさんはうなずいた。


「ええ。空気を吸って吐くのと、同じようなものよ」


「ただし、この世界の“呼吸”は――食事」


ひよりも思わず手を止めて、耳を傾けた。


トワさんは指先でテーブルを軽く叩く。


「魔素には濃度がある」


「白、薄黄、橙、赤……そして黒や紫」


「下の三つまでは、人が食べられる」


「でも赤以上は危険」


ヒロが思い出したように言う。


「……ああ、魔物になるやつか」


「そう」


トワさんは静かにうなずいた。


「だから“作り手”がいるのよ」


ひよりの胸が小さく跳ねる。


「強すぎる魔素を、そのままじゃ人は食べられない」


「でも料理をすれば――整えられる」


「赤を橙に、橙を黄に、黄を白に」


トワさんはゆっくりひよりを見る。


「あなたは、それが上手い」


ひよりは戸惑った。


「わ、わたし……まだランクも……」


「関係ないわ」


トワさんは穏やかに笑う。


「ランクは測定器が決めるもの」


「でも料理は、人が決める」


ひよりは言葉を失った。


トワさんは今度はヒロを見る。


「でもね」


「ヒロさんは、また少し違う」


ヒロが眉を上げた。


「あなたは魔素を“消費しない”」


「食べて、巡らせて――返す」


ヒロはぽかんとする。


「……返す?」


トワさんは頷く。


「普通の人はね」


「白や黄の魔素を食べて、そのままの濃度で返す」


「でもあなたは違う」


「赤でも橙でも食べられる」


ヒロは苦笑する。


「まぁ……なんでも食えるけど」


「でもね」


トワさんは指を立てた。


「黒や紫はさすがに無理でしょう?」


「……ああ、さっき聞いた」


「そう」


トワさんは微笑む。


「でもあなたが食べれば」


「赤も橙も――整っていく」


「そして、最後に返る魔素は」


少しだけ間を置く。


「白」


ヒロが驚いた。


「……一番安定した魔素?」


「ええ」


トワさんは静かにうなずく。


「しかも量が多い」


「普通の人より、ずっと」


ひよりが息を呑んだ。


「つまり――」


トワさんは二人を見る。


「作り手が整えた魔素を」


「ヒロさんが世界に返す」


「そうすれば」


トワさんは窓の外を見た。


「強すぎる魔素も、行き場を失わない」


「だから」


ふっと微笑む。

トワさんはふっと笑って、ヒロの空になった皿を見た。


「……だからね。あなたが食べれば世界は澄んでいく」


「あなたがこの店に来たのは、たぶん偶然じゃないのよ」





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