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部屋の荷物検査はあっさりと終わった。
もちろん誰の荷物からも凶器らしき物は見つからなかった。コランバイン子爵が最初に疑っていたジェットさんの部屋も調べた。しかし、結果は僕たちと一緒で怪しい物は特に見つからなかった。
一度、皆で大広間に戻るとコランバイン子爵は抑えきれない様子で声をあげた。
「くそ!誰がやったんだ!もうわしは自室に戻る!殺人鬼がいるかもしれないのに、一緒にいることは出来ん!」
そう叫ぶやいなや自分の部屋にドスドスと歩いていった。
「はあ?ずいぶん自分勝手だな。警察を呼べないから俺たちで調べてんのに最後まで疑って見てくるしよ…。」
リチャード君がイライラとした様子でつぶやく。それもそうだ。僕もコランバイン子爵の態度にはイライラしていた。
「まあ、そういう貴族は少なくない。しかし、もう少し状況を整理したいね。僕はもう一度現場を見てこようと思う。」
ノア君は冷静だ。
「すみません、私は少し疲れてしまいまして…。ここで休もうと思います。ジェットさんお水を頂いてもよろしいでしょうか。」
そう言ったオーリーさんは確かに少し疲れている様子だ。ハンカチで額の汗をぬぐっている。頼まれたジェットさんは急いで水を持ってくる。
「それなら俺も一緒についてます。何があるか分かりませんし。」
リチャード君はオーリーさんと一緒に大広間で待つようだ。
「そうですね。あまり1人にならない方が良いと思います。…エミリア様はどうなさいますか?」
昨日とは打って変わり、おとなしい様子のエミリア様はそわそわと髪の毛をいじり迷いながら答える。
「私は…私も行きます。ノア様は犯人ではないと思いますし、1人でいるのも怖いので。」
「分かりました。アンバー君とジェットさんは?」
「僕も行くよ。」
「私はオーリーさんの様子が心配なので待っています。何かご用意が必要なものが出てくるかもしれませんし。」
ということで、3人で現場検証に向かった。
現場検証の結果、分かったことはあまりないように思えた。凶器を改めて探したけど、もちろん見つからなかった。ダリル様の遺体は、ベッドに寝かされており、朝話されていたとおり心臓のあたりを一突きされていた。不思議なのは、ベッドの乱れがなく、抵抗した後が見られないことだった。犯人が殺した後に整えたことも考えられるが、血の跡からダリル様が寝ている間に殺したのではと考えられる。
夜、ハーブティーでも飲んでいたのかティーカップが1つとポッドがベットサイドのテーブルにあった。
もう1つ不思議なのは、窓が開いていて、絨毯が少し湿っていることだった。昨日の夜は雨が降っていたから、窓を開けっ放しにしていたのならこうなるのも分かるけど。雨の日に窓を自分で開けたりすることは普通ないと思う。犯人が窓から侵入したのか?
部屋を調べていると、エミリア様は耐えられなくなったのか顔色が真っ青になっていたので、まだ調べたいことがあると言ったノア君を残して僕はエミリア様を介抱しながら部屋へ送った。
その後、ダリル様の部屋へ戻ってノア君を手伝おうと思ったが、ちょうど検証が終わったのか、ダリル様の部屋からノア君が出てくるところだった。
「ノア君、検証は終わったんだね。何か分かったことはあった?」
「そうだね…あるにはあるけど、オリバー君、君はこの屋敷に来るのは初めてだよね?ダリル様と面識はあった?」
「いいや、ないよ。」
「まあ、そうだよね。」
ノア君は何か考え込むような表情をしていたが、やがて諦めたように溜息を吐いて広間へと戻るように促した。
「いったん大広間に戻ろう。オーリーさんとリチャード君、ジェットさんにも話を聞きたいからね。」