5
ノア君からダリル様が殺されたことを聞いた後、すぐに身支度を整えて大広間に来てほしいとのことから急いで大広間へ向かった。
大広間に着くと、すでに全員がそろっていた。コランバイン子爵はその恰幅の良い体を金色のステッキで支えながらイライラとした様子でエマ様に強い口調で何かを言っていた。そのエマ様の顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだ。エミリア様は落ち着かない様子でウロウロとしている。ドラン商会の2人は端の方で不安そうにそんな3人を見ている。ジェットさんにメイド長も来ているようだ。ジェットさんは俯いて自分の手を固く握っている。メイド長も落ち着かない様子でキョロキョロとしている。他の人たちと比べるとノア君は落ち着いており、僕と目が合うと目線で隣に来るよう促した。そしてノア君のよく通る声が響く。
「皆さま、全員がそろいましたので一度状況を整理しましょう。」
「整理もなにも、やったのはこいつじゃ!!」
そう言うやいなや、コランバイン子爵はジェットさんのことを指さす。
「こいつがダリルを起こしに行ったら、ダリルが死んだというじゃないか!部屋の鍵もこいつなら手に入れられる!こいつがダリルを起こしに行くふりをして殺したんだ!!」
「違います!!私が行ったときには部屋の前で声をかけても返事がなく、鍵を使って開けたら、ベッドの上でダリル様が亡くなっていたんです!!私が殺すわけない!」
ジェットさんは目に涙を浮かべながら必死に返す。
「ふ~ん。でもあなた、3日前ぐらいだったかしら?お兄様と言い合いしていたわよね。私、見ちゃったのよ。2人が何か言い争っているところ。」
「なっ、あ、あの時は確かに少しお互い熱くなってしまいましたが、だからといってダリル様を殺すなんてそんなことしません!!」
さらにコランバイン子爵とエミリア様が口を開こうとするが
「3人とも落ち着いてください。まずは、発見した時の様子をジェットさんから詳しくお聞きしたいです。お願いしても大丈夫ですか?」
というノア君の声を聞き、コランバイン子爵とエミリア様はしぶしぶといった様子で口を閉ざす。
「…はい。まず、今日はいつもダリル様が起きる時間を過ぎても朝食にいらっしゃらなかったので、お部屋に様子を見に行きました。朝食後に予定もあると話されていたので。部屋の前から声をかけても、ノックをしても何も返事がなく、心配になったので鍵を使って部屋を開けました。…部屋に入るとまだダリル様がベッドのなかにいる様子だったので、起こそうと近づいたら死んでいました。ダリル様が息をしていないのを確認して、皆さまを急いで呼びにいきました。」
ジェットさんが話終えるとノア君が話を引き継ぐ。
「ありがとうございます。僕もその後にダリル様の様子を確認しました。おそらくダリル様の死因は鋭利な物による刺殺である可能性が高いと考えられます。」
「し、刺殺だと!」
「はい。皆さまのうち何名かもダリル様の部屋に入り見られたと思いますが…布団が血で染まっていましたよね?確認したところ、左胸のあたりを鋭利な物で一突きされていました…。詳しくは探せていませんが、部屋の中で凶器は見つかりませんでした。急いで警察を呼びましょう。」
ノア君が警察をと言ったところでコランバイン子爵の顔色がさらに青ざめる。
「だ、ダメだ!あ、す、すまない。しかし、明日から前夜祭が始まる。本祭には貴族も何名か来るのだ。祭りを台無しにさせたり、悪い評判を聞かせるわけにはいかない!だから、警察を呼ぶことはできません…。お、お願いします、ノア様…警察は祭りが終わり次第呼びますから!」
どうやらコランバイン子爵は自分の家の面子を守るために警察を呼びたくないらしい。息子を殺されたのに、だ。
「子爵、よろしいのですか?まだこの屋敷には殺人鬼がいるのかもしれませんよ。」
表情を変えず、淡々と聞くノア君はもしかしたら少し怒っているのかもしれない。
「か、構わない。だが、客人には持ち物と部屋の検査をさせてもらいたい…もちろん、ノア様のことは疑っておりません!しかし、客人が来た日にこんなことが起きたということは…特に、そこの若造2人は今回我が屋敷に来るのは初めてだ。だから…」
コランバイン子爵は僕とリチャード君を疑いの目でじっと見る。
「なっ、俺はやってない!そもそも、ダリル様に会うのだって昨日が初めてだったんだ!殺す理由がない!」
「僕もそうですよ!」
それでもコランバイン子爵は納得する様子はなく、イライラした様子で貧乏ゆすりをする。
「うるさい!と、とにかく凶器を持っていないか確認だ!」
「コランバイン子爵、落ち着いてください。おっしゃる通り、まずは皆さまの持ち物検査をしましょうか。」
ノア君のその言葉をきっかけに、皆で各人の部屋を見ることになった。
しかし、
「ご、ごめんなさい。私はどうしても体調が優れなくて…。部屋で休んでいてもよろしいでしょうか。」
そう言った子爵夫人の顔は血の気がなく、額にうっすらと汗が浮かんでいる。相当体調が悪そうだ。息子が亡くなったから、無理もないか…。
「もちろんです。安静になさってください。」
ノア君も少し表情を和らげて告げる。
「エマ様、私もご一緒にお部屋まで参ります。」
メイド長が心配そうに夫人を支えながら、エマ夫人は自室へと向かっていった。
だが、コランバイン子爵は少しも心配そうな素振りを見せない。むしろ、イライラとした様子でそのやり取りを見ていた。エミリア様はずっとずっと髪の毛を触ったり、腕を組んだりとそわそわして落ち着かない。
リチャード君は疑われたこともあってか、硬い表情だ。オーリーさんも不安そうにしている。
「では、行きましょうか。」
唯一、変わらない様子のノア君がみんなを先導していく。




