1.三本足の鳥居
夏休み突入。
木も田圃も沢山ある田舎町なので、セミの声とカエルの鳴き声は体を揺さぶるほど喧しい。
しかし、夏休みの終わり頃にはカエルは鳴かなくなり夜は静かになるため、夏の終わりを感じる。
太陽がカンカンの中、聡史が宣言した。
「山田神社の鳥居をくぐる」
横に並んで歩いていた親友の大和が聡史を見て言った。
「山田神社の鳥居って、本殿の裏山にある三本足の鳥居か?」
「イエス、あの“潜った者は帰って来れない”と噂で名高い奴だ」
山田神社は、山の中にある古い神社だ。長い階段を上った所に表の鳥居が立っている。
その鳥居を潜って参道を渡り、本殿の横を通りすぎると鎮守の森になっている。さらにその中を入っていくと三本足の鳥居が立っている。
深い森の中にあるので雑草もあまり生えていない。
そして、その鳥居の中心には古びた小さいお社が据えてある。手入れをする者がいないので屋根が半分落ちている。
そのなかには、御神体がいるはずなのだ。鳥居の中に誰も入らないから見た者はいないのだが。
辺りは、深い森にかこまれてポツンとその三本足の鳥居だけが立っている。その佇まいが余りにも不気味なので近寄る者すらいない。
アイスを食べながら、同じくアイスを食べてる聡史に大和がきく。
「どうしたんだ、いきなり」
聡史は大和をみて答える。
「小さい頃から噂を聞いてて、噂は本当かずっと確かめてみたかったんだ」
「来年は大学受験だ、もう機会が無いかもしれん。長年の疑問を片付けてスッキリしたいんだ」
「しかし、本当に誰も気味悪がって潜ったことがないんだぞ。止めとけよ」
「いや、やる。明日の昼にやる。
怖いから」
次の日から、聡史は姿を消した。
1日、2日と日が経つごとに騒ぎが大きくなっていった。
聡史の両親は勿論、学校でも騒ぎになった。
事故があったのではないかと消防団の人達も見回ってくれたけど、それらしい形跡もなく、結局警察に消息不明の届け出をするしかなかった。
大和は、聡史は三本足の鳥居を潜って噂通り帰って来れなくなったのだろうかと半信半疑だった。
聡史が三本足の鳥居を潜ると言っていた事を、一応学校の先生には伝えたが、先生は気にもとめていないみたいだった。
大和も三本足の鳥居の辺りを見に行ったが特段何も変わらず、いつもどおり不気味な佇まいを見せている。
夏休みも終わりに近づいた頃、雨が降り続いた。
それは、かなりの大雨で警報が出たことを、町内の有線放送のスピーカーが知らせていた。
そして、それは3日間続いた。
3日目にようやく雨が止んだ頃、大和のスマートホンに電話がかかってきた。
聡史からだった。
大和は、あわてて電話に出ると聡史の声が聞こえてきた。
「もしもし、大和か、大丈夫なのかおまえ」
大和は、何言ってるんだこいつ、と思いながら返事を返した。
「え、いや、おまえこそ大丈夫か」