表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/98

第7章 2 セルギー


 翌日の放課後、帰宅の路につこうとしていたセルギーは正面玄関でふと立ち止まった。


見覚えのあるコートが柱の陰にそそくさと隠れるのが見えた。少し古めかしい薄緑のダッフルは、セルギーが何年か前まで愛用していたものだ。そして今は__3つ年下の従兄弟に譲った。

 コーリャが高校に? 人違いかと思って声をかけずに近づくと、後ろ姿はやっぱりコーリャだ。さらさらと揺れる茶色い髪、時折意味もなく怒らせる癖のある細い肩。

 コーリャと向き合っているのは女子だ。しかも、セルギーと同じクラスのアンナ。身内が付き合っていて嬉しい相手ではなかった。万引きの常習犯だし、同級生の誰のことも憎んでいるように見える。

 彼女はしかし、コーリャが何事か言うのに合わせてぱっと笑った。今まで一度も見たことがない笑顔だ。一体どこで彼らが知り合ってどうやって仲を深めたのか、好奇心が刺激された。そうっとコーリャの後ろから距離を縮め、たまたま靴紐がほどけたふりをしてしゃがみこんだ。

 コーリャがしゃべっている。

「だけど、難しいよ。どうやって__」

「あたしらみたいな子どもだから、簡単なんだよ。必要なのは金でもビザでもない、愛嬌と逃げ足の速さだけ……」

 はっとアンナが言葉を切る。

「あんた、盗み聞きしてるだろ」

 コーリャが振り向き、セルギーと目が合ってうっと息を漏らした。淡い空色の彼の瞳が泳いでいる。気まずいのはセルギーも同じだ。顔を上げれば険しい顔でアンナが睨みつけている。

「ごめんねコーリャ、盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

「嘘つけ」と、アンナ。コーリャはコートの上から胸を押さえ、首を振った。

「いや……僕こそ、勝手に高校に入り込んでるから」

「僕に用事?」

 と尋ねつつ、そうでないのは分かっていた。

「コーリャはあたしに会いに来たんだよ」

「随分仲良くなっていたんだね」

 この前は万引き犯と店員だったのに、とは口に出さない。

「まあね……」

 コーリャは少しよそよそしく生返事して、ふらりとアンナから離れた。

「バイトに遅れるから、もう行くよ。じゃあ」

「ああ」

 アンナは軽く手を振って駆けていくコーリャを見送った。二人だけになる。

「あんたが、コーリャの従兄弟?」

「そうだけど」

 アンナはまじまじとセルギーの顔を見た。

「……ふうん」

 彼女の吊り上がった大きな瞳に見つめられると、いたたまれなくなる。彼女の素性を夕食の席で家族に吹聴した後ろめたさか、不良と噂される彼女への単なる畏怖か。

 その時、アンナがいきなり顔を歪めた。そのまま泣きだしてしまうかとセルギーは身構える。だが彼女は顔を背け、そのまま背を向けてしまった。

「じゃあね。あんたの家族によろしく」

「コーリャにも伝えとくよ」

 歩き出した彼女の足が止まった。

「……ごめん」

 何故アンナが急に謝ったのか、その理由をセルギーは数日後に知ることとなる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ