エピローグ
結局、私のこの2年近い努力は報われなかった。
なんのための礼儀作法か、なんのための変身能力だったか、まったく意味をなさなかった。なぜなら私は聖女になれなかったのだ。私の成した偉業より、もっともっと、とてつもない偉業をなした人がいたからだ。
今日は聖女お披露目の日。
ついでとばかりに勇者もお披露目される。ひどいついで加減だ。勇者と英雄はどう違うのか? とラル聞いてみると、言葉の問題じゃないか? と適当な返事が返ってくる。そういえば、皇帝にお前は勇者か? とか聞かれてたから、英雄は国に、聖女は教会に、勇者は魔王に認められた者と勝手に私の中で判断する。そんなわけで、ランスロットは勇者である。
大きな大聖堂に集まった人たちが静かに式典の進行を見守っている。王達の並ぶなかにマックス殿下の姿もある。殿下は気持ちよく朗らかな笑顔でらっしゃった。
さて、聖女が成した偉業の数々を教皇様が読み上げていく。しかしそろそろ読むのに疲れてきたようだ。偉業が多すぎる・・と教皇様が読みながら零すと、大聖堂がどっと沸いた。教皇様は真面目な方だが、たまにこういう茶目っ気を発揮する人だと最近気が付いた。真面目に見える人が、たまに面白いことを言うからハマる。会場は明るい雰囲気に包まれ、聖女の名が呼ばれるのをみな、いまかいまかと待っている。
私は、その人が聖女になるのを特等席で見ていた。
「・・・よって、教会は、この方を聖女と認定します」
「王も、認めよう」
「その名は・・・マッスルレディ!」
わああああああああああああ!!
大歓声が大聖堂を内側から揺るがす。
正体不明のマスク女が聖女になった瞬間だった。
「マッスルレディありがとう!」
「聖女様!」
「マッスルレディ万歳!!」
「万歳!!」
割れんばかりの声援。そこに静かな、しかし何度も私のピンチを助けてくれた、大好きな声が、大声援をするりと通り抜けて私に届く。
「マッスルレディ・・」
ふり返るとそこにマッスルナイトがいる。ランスロットではなく、マッスルナイト。
彼にも惜しみない賞賛と、声援が降りかかる。
「勇者と聖女が一度にそろうとは、これはもう、王都に竜がやってきても安心だな」
国王様と教皇様の間に交わされる、気安い会話が耳に入る。
「あ・・、竜ならこの間、倒してきましたよ」
正確には竜となった皇帝だ。私はそういえばって顔して答えてあげる。
覆面してるけど。
「おや、その偉業は書かれてないなぁ」
「一つくらい書き忘れていてもかまわんだろう。何せ多すぎる」
王様と教皇様が楽しそうに笑いあっていた。
大歓声はふたりが飛び去った後でもずっと続いた。
私は特等席でそれを見送って、そのあとふたりがどうしたかも知っているけど、
まあそれは恥ずかしいので、語らないことにしておきます。
だから恥ずかしいんだってば!!
もう! もうっ!
***************************
「大おばあ様!」
庭に咲き誇る綺麗な花々の間を、てててーと走っていった娘が、ぽすんとおばあ様の胸に収まる。娘はおばあ様のゴリゴリの胸が大好きだ。私も大好きだけど。
「おおアイラ! おまえはいつも可愛いねえ。どうしたんだい?」
「大おばあ様! アイラはもっと大おばあ様のように筋肉をつけたいのです! そしていつかマッスルレディ様みたいになるんです!」
「おや、筋肉をねえ」
「お母様や、おばあ様は、もののすっごく大好きですけど、細くってベッキベキのボッソボソなのです! アイラはああじゃないのがいいのです!」
「だってさ、ステラ、リリーナ」
おばあ様が振り返る。
私とお母様が並んで顎に手を当てる。二人で思案顔を用意した。
「うーん、私が筋肉をつけるといった時のお母様の苦悩が今わかったわ・・」
「あら? 私はあなたの筋肉も大好きよ?」
「おばあ様! お母様の細っこい腕は、筋肉とは言わないのです!」
枯れ木みたいなものです! と続けられて、私は苦笑いするしかなかった。
「どうするんだい?」
おばあ様の質問には、正体に関する事も含まれているのだろう。正体を明かす気はない。かな? いまのところ?
「でも! お父様の筋肉はかっこいいのです! かじりたいのです!」
「アレをかじっていいのは私だけですよー」
不埒なことをいう娘をにらむ。あれはまだまだ私のだ。
「なんで娘も孫もこんな子になっちゃうのかしら・・・?」
孫がいるようには到底見えない母は、私と並ぶと妖精の姉妹のようだと評判だ。
お父様は・・単身赴任だ。ここにはいない。最近少し髪が薄い。王都で私が考案したスポーツジムっぽいものを経営している。もともと経営の手腕があった人だ。私はアイデアを出すだけであとはお父様が素晴らしいものにしてくれている。
何せこの国は、マッスルレディとマッスルナイトのおかげで筋力トレーニングが大流行りだ。男も女も素晴らしい筋肉を身につけていっている。貴族の子女も筋力と魔力に相関関係があることを知って、みんな通っている。
筋肉をつけると人にやさしくなれる。貴族の人たちもそうやって筋肉をつければ、みんなよい領地経営をするに違いない。それに、いざとなったら戦力にもなる。国民みんなが筋肉をつければそりゃあもうべらぼうな戦力だ。怖い。そしてその国きっと暑苦しい。
「どちらにもかじってもらって構わないが、ほどほどに頼むよ」
「お父様!」
ランスロットが息子のギリアムを抱いてやってきた。ギルはラルの胸の中ですやすやと寝息を立てている。うーんかわいい。
その後ろには真っ赤な髪の侍女が付いてくる。あれは皇帝を産んだとされる炎の竜が人の形をとったものだ。私だって変身できるんだ。竜ともなれば何の問題もないのだろう。
考えてみれば彼女は完全に被害者だなあと思い、沈みゆく島から、ほかにも苗床にされていた人たちともども助け出し、全員に心の傷も含めた治療を施したところ、炎の竜は人の姿になって家についてきた。今ではこの家の防衛、流通を担う、なくてはならない存在だ。
おばあ様は、弟のアレクを養子にし、ヴォーデモン家を継がせた。
アレクはランスロットの妹を妻にしたが、身体を鍛えてほしいと妻トリスタンにいわれ、今はいい感じに筋肉が付いている。トリィもマッスルレディに憧れたといって鍛えていた。今はきれいに腹筋が割れている。
マックス殿下は先日ティターニア様と結婚された。マックス殿下もいい感じにマッチョになった。ティターニア様がとてもうれしそうだった。
「マックスもがんばってるけど『あなたほど』の筋肉には、なかなかなってないわね」と少し大きくなったお腹をなでながら言われたときには心臓が飛び出るかと思った。「だってあなた、最初に助けてくれた時に私の名前呼んだでしょ。すぐピンときたわ」ぼへー、人の優しさには裏がある。
ランスロットは亡くなったお父様の後を継いで辺境伯領の領主となった。私はその妻となり、社交界では湖面の伯爵夫人と呼ばれるようなこともある。妻! フヒ!
「ところで俺の可愛い奥さん。『かっこいい奥さん』あてに殿下からお呼びがかかってるよ?」
「まあ、今度は何かしら?」フヒヒ顔を戻す。
「何でも南の蛮族が暴れてるらしいよ?」
「蛮族って東西南北にいたのねえ・・人類大丈夫かしら?」
「君がいるから大丈夫じゃない?」
「あなたもね」
ランスロットに抱き寄せられる。分厚い胸板に包まれると幸せでたまらない。
ギルが少しむずがってる。起きちゃうかな?
「アイラも! アイラも!」
私が娘を抱き上げ、ランスロットが二人を胸に収める。
親子四人で幸せだ。両親がいて愛する人がいて子供がいる。おばあ様だってラルのお母様だってカーラやハンナやみんながいる。私は幸せの絶頂だ。
「うーん」
「どうしたの?」
考え込む顔をする娘
「お母様はベッキベキのボッソボソなのに、なんだかこうされると、お父様より、かじりたくなるのよ」
あれえ? この子も素質ありそうだな・・
「リリーナ奥様。そろそろマキシマム殿下からの伝報が悲鳴に聞こえそうです」
「一瞬で着くからちょっとくらいいいわよ。でもしょうがないわね。スーツを準備してくれる?」
わかりました。と腰を折って下がるカーラにも、そろそろいい話がないのかしら? あの微笑みをほっておく男どもは一度締めたほうがいいのだろうか? とも思ったりする。
「じゃあ行ってきます」
「俺がいってもいいんだけどねえ・・」
「あなたは、私のピンチの時だけ来てくれればいいの」
「じゃあなかなか出番はないね」
「ふふふ。でも、その時はお願いね」
いつでもラルは私のピンチに来てくれる。
「気を付けてね」
「いってらっしゃーい!」
ラルとアイラからの行ってきますのキスを貰い。母と、おばあ様とハグをしてスーツのある部屋に入る。
「マッスル・フォーム!!」
おわり
長々とお付き合いいただきありがとうございました。これにて完結とさせていただきます。なろう小説を読み始めて、今まで知らなかった世界に触れ、いてもたってもいられなくなって、とうとう自分でも書いてしまいましたが、書きあげるという大変さを経験でき、改めて「みんなすごいなぁ」とか「なろうがあってよかった」なんて思ったりしてます。今後の活動はどうなるかわかりませんが、とりあえず一本描き終えてとても安堵しました。ではまた、どちらかでお会いできれば幸いです。ありがとうございました。




