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第14話


呆然と友也さんの背中を見送って僕と夜月はいくつか会話してそのうち瞼を閉じた。薫がなぜか夜月を睨みまくってたが、何でだろ? なにがしたいんだ、こいつは。

そういえば高藤にも似たような視線を送ってた気がする。


放置して浅い眠りにつく。


僕は夢を見た。両親が出てきたから疑う余地もなく夢の中で夢だと理解した。夢のないやつだ。


……夢なんて言葉、あんまり使う機会がないからまとめて使ってみた。将来の夢なんて僕が使うと失笑を生みそうだ。

どちらかと言えば失笑が膿みそうだ。か


それで僕は夢の中で両親に、


「すまなかった」


……と謝罪された。なんなんだよ、あんたたちは。


というか、なんだ? なんて都合のいい夢なんだろう。


僕が殺した相手からの謝罪。

だけど僕に謝罪される価値はない。


僕は自分が背負うべき罪すら夜月に押し付けたというのに。

そのことすら忘れていたというのに。

いまだにちっぽけな罪悪感すら感じることが出来ていないのに。


「謝るなよ いまさら」


手遅れなんだよ、もう。


刺した。刺した刺した刺した刺した刺した刺した。


殴った。殴った殴った殴った殴った殴った殴った。


ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク


字面だけ見ると量産された某機体がいっぱいいるみたい。


ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ


こっちは集団リンチしてるみたい…… あ、あってるのか。



今井 加奈子は妬みました。

神代 葉月は嫌いました。

小島 寿郎は憎みました。

神代 梓は恨みました。


黄空 太陽は? 僕は異端でありながら被害者面をしたその影でしかなかった。


鏡があった。覗くと真っ黒だった。一面に影が塗りつくされていた。


鏡から手が伸びて来て僕の身体を掴み引きずり込もうとする。抵抗もせずに僕は重圧に身を任せて…──




「……」


目が覚めたら夜月は居なかった。

代わりに腹のあたりに重さを感じて手をやると、変な感触があった。


「……高藤か?」


「はむはむ」


……なんで包帯の端を噛んでるんだこいつは。


「傷口に唾でも塗ってあげようかなぁ、と」


「世界で一番菌が多いのは口腔の中らしいね」


「感染症引き起こしたら死ねるかも知れないでしょう?」


「腹に穴が開いてるだけでも充分死ぬかも知れない域にあるとは思わないか?」


「実際生きてるじゃない?」


「ありがたいことにね」


「とってもつまらないわ」


「どうも」


モゴモゴと包帯を咀嚼する高藤。


……理解不能だ。まあ僕と一緒に行動しようとしてた意味は理解したつもりだけど。


「銃で撃たれたんですってね」


「おかげさまで」


「貴重な経験ができたようで羨ましいわ 私も連れてってくれたらよかったのに ぷすぷす」


「あとつけて来てたクセによく言うね」


「なんのことかしら?」


「この際だからはっきり言って置くけど、僕に君は殺せないよ」


「あら?」


「小島 寿郎に刺されたとき、君は警察でも救急車でもなく僕を呼んだ


咄嗟に抵抗してしまってこのままじゃ死ねないことが理解出来たから、両親を殺害した異常者である僕がトドメを刺してくれることでも祈ったってところかな?

思い出したよ、君は『あの時』夜月と一緒に居たんだ」


高藤は何も言わずに

「いぎっ!?」僕の傷口に噛み付いた。


「……知ってたの?」

上目遣いに僕を見る。


「リストカットのあとがあることぐらいは」


僕、表情を変えずに言う。

高藤、大きく息を吐く。


「余命3年だそうよ」


「本来の寿命の1/100年か 『偽善と同情は何対何』、道理で妙なセリフだと思ったよ」


「『残り3年を好きに生きろ』って親は言っていなくなったわ

捨てられた、ってわたしは解釈した 死ぬならもうお前なんて要らないってね」


「正しいね」


「あなたには偽善も同情もないから好きよ」


笑って、僕のベッドの奥にある窓に手をかける。


「きっとわたしがここから飛び降りてもあなたは眉一つ動かさないでしょうね」


窓を開いた。ガラスに遮られていた光と風が病室を揺らす。


「ねぇ わたしと一緒に死なない?」


「……遠慮するよ」


「どうして?」


「僕にはまだ償いが残ってる」


そのために探した動機だった。

僕が殺した両親に、僕の代わりに罪を被った夜月に、



「そう……」




それきり何も言わずに俯いて、高藤はバックからナイフを取り出した。


「林檎でも剥きましょうか?」


裏腹にきっさきは僕に向いている。


「僕を刺すのか?」


「ええ 無理心中ね」


「そうか……」



僕は両手を広げた。


「抵抗、しないの?」


「そうだね 生まれてはじめて誰かの役に立ってる気がするから」


僕は

 鈍く光る

  ヤイバを

   受け入れ

      …た。




  ありがとう


と、消えて行く意識の中で聴こえた気がした






平凡には生きれませんでした ごめんなさい



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