相違
ココとカラメリアの激闘は続く!
妖鬼という種族は妖精種と鬼人との混血であり、純粋な妖精種には及ばないものの多様な魔技への適性を持つ。また、鬼人固有の種族技能である鬼神化が使用可能な種族であり、機動力や空間把握能力に優れているという側面を持っている。
ビッグバンの中では戦闘において技能や魔技といったありとあらゆるものにエイムーーー標的を技などの命中範囲に捕捉することーーーが必要となり、これはプレイヤー個人の力量に依存するのだが、リアルタイムで行われる目まぐるしい戦闘性と初心者でも遊びやすいゲーム性を目指した観点からエイムアシストという機能が付いており、アシスト機能の強弱は種族ごとに設定された空間把握能力に依存している。
「カラメリア・プリン・カタラーナ」の種族は妖鬼であり、これは明日未来が他の武器種よりもエイム力が重要な「銃」に特化したキャラクターを作り出す際に見つけ出した一つの最適解であった。
『ココ』というキャラクターのあらゆる強化、育成を終えて新たなキャラクター『カラメリア』を生み出したのは、フローレンス・サザビーの全盛期が終わってからの事である。
明日未来を除いたクランメンバーのログイン率の低下と、『ココ』という盗賊として数々の伝説を残したキャラクターの育成が完了してしまった中、明日未来は達成感と共に寂しさが募っていた。最高の仲間達との冒険やくだらない日常は奇跡でも起こらない限りもう戻ってはこない。
ならばサブキャラクターを生み出し、新たな仲間を求めるのも悪くはないと。ともあれ新キャラを作るなら近距離戦を得意とする盗賊とは真逆の性質に惹かれ、銃の扱いに長けたサブキャラクターを作成したのだ。
新たに求められる戦術、操作性に最初は戸惑ったが、カラメリアとしてのビッグバン生活は明日未来を少しだけ寂しさから解放してくれた。新たな仲間に巡り会う事は出来なかった。結局はしなかったといった方が正しいが、自身を再びビッグバンの世界に引き戻してくれたカラメリアに対して明日未来は思い入れが強いのだ。
そして、今、明日未来はココとなり、カラメリアは人格を手に入れて目の前に現れた。
救いたい、その気持ちを一心にココはカラメリアを見据える。
(鬼神化状態のカラメリアはほぼ全ての能力値が1.5倍になる。私は中遠距離が不得手のうえに、現状の装備だとカラメリア相手に防御力も心許ない。とすれば速度域でしか勝負できない……。ほんと相性最悪だよ。どうすれば……)
気絶状態に大きな耐性を持つカラメリアは、ラヴィの時と同様に意識不明状態での拿捕は不可能に近い。ココは頭を捻る。そして、一つの疑問に辿り着いた。
「あの腕輪は破壊……出来るのかな?」
ビッグバンのPvPでは相手の武器を破壊することは出来なかった。しかし、ボスを含めた全ての敵性NPCはプレイヤーとは違い、武器や防具など一部の装備を破壊できる。ゲームよりも現実に近いこの世界であれば腕輪という一部分の装備品を破壊することが出来るかもしれない。
ココは盗賊の職業固有アイテムである【盗賊の七つ道具】を取り出す。
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盗賊の七つ道具
使用制限 3/Days クールタイム 3600秒
あらゆるアイテムの鑑定、鍵のついた扉や宝箱の解錠、罠の無効化、隠し通路の発見、周辺のアイテムと敵性NPCの探知、特定の状態異常の回復、敵性NPCからのドロップアイテム高確率奪取が可能。
・職業固有アイテム
※一部の敵性NPC、及び特定のフィールドでは使用出来ません。
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1日の使用回数に制限はあるものの、とても便利なアイテムであり、特にドロップアイテムの高確率奪取はアイテム奪取技能の成功率5%を大きく上回る25%であり、レアアイテム入手にはとても重宝する。
盗賊の七つ道具を使用するには、ある程度対象に近寄る必要がある。カラメリアの移動速度は鬼神化により、技能を積んだ現在のココよりも上回っていることは間違いないため、ココは更に移動速度を上昇させる技能を発動する。
「【音速貴公】、【忍法・月足】」
カラメリアが動く。先ほどを凌駕する速度で回り込みながら連射の火を吹くハンドガン。標準に狂いは無く、『クリティカルポイント』ーーー急所に設定されている部位ーーーを正確に狙っている。
「ほぼ最速の私には当たらないよ!」
ひらりひらりと銃弾を躱すココはまるで風になびく花弁のような滑らかさだ。
(15発。FifteeNのマガジンにある弾数全部を撃ち終わった一瞬がチャンス! 残り7発!)
カラメリアは銃撃を止めると大きく後ろに宙返りしながら更に3発の銃弾を放つ。驚くべき銃撃センスで3発の弾丸はココの退路上に、いわゆる決め撃ちと呼ばれる相手の動きを予測したショットを見舞う。
積んだ技能により更に高速になっているココでさえ、動いた先に既に撃ち込まれた全弾を避けきるのは難しい。3発放たれた弾丸のうち、2発が腕と胴体を掠めて血が飛び散る。
「【弾丸三発化】、【シャークレイン】!」
カラメリアの追撃は止まらない。一発の弾丸を三発化し、鮫を模した弾丸による凄まじい散弾の雨がココを襲う。更に弾丸は中空で炸裂し、夥しい数の破片が空間へと拡散していく。
(避けてたらリロードの隙はつけないッ!)
頭を守りつつ特攻するココの全身に無数の破片が突き刺さる。破片はココの肉を抉り、まるで人体が爆発したかのような血飛沫が飛び散る。
血だらけになりながらも刹那の速度でカラメリアの懐に飛び込んだココは、【盗賊の七つ道具】を使用して腕輪を鑑定する。
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混沌を蝕む龍鱗の腕輪
装着者を呪いとウィルスにより侵食し、自我を蝕む腕輪。対象は気性が荒ぶり、それに伴い激痛が身体を駆け巡る。装着していない状態は呪いは発動せず、何の変哲もないアクセサリーである。
・製作アイテム
・製作者 ゴドルフ・バグウェル
・耐久力10000
※呪いの効果により装備者による着脱及び破壊は不可
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カラメリアの強烈な腹部への蹴りによりココは大きく後退する。あまりの衝撃にココの口からは嗚咽が漏れた。
「口の中、血の味がするよ」
(あの腕輪の情報は分かったし、製作アイテムで良かった。耐久力が10000という事は一撃でも入ればそれで終わり)
「初メテダナ。一撃デ沈マヌ上、コノ肉体ノ攻撃二、耐エルト、ハ」
「カラメリア! 自我があるの?」
「フ、フフ。本気デ行クゾ、ワタクシヲ楽シマセテクレ! 【装填不要】、【即射撃精度上昇】、【目視範囲射程化】、【誘導欺瞞遠隔機】、【立体機動力強化】、【移動速度最速化】、【究極斬擊耐性】、【ビッグバンズレジェンド】、【最大最強化】……」
「待って、カラメリア!!」
カラメリアはココの言葉には反応せず、左手に自動小銃を追加で装備し、次々に強化技能を積んでゆく。本気のカラメリアを相手にするとなりココも技能を積まざるを得ない。
「くッ、【超位準備】、【立体機動力強化】、【究極銃撃耐性】、【究極水属性耐性】、【錬金精度最強化】、【ビッグバンズレジェンド】、【最大最強化】……」
二人の目線が重なった瞬間である、常人には捉えきれない速度域での戦闘が火蓋を切った。
カラメリアの猛攻に次ぐ猛攻を身体能力、錬金術、双剣、防具、持てる全てを匠に使い、去なし、躱し、潜り抜けて防ぎきる。ココの狙いは呪われた腕輪の破壊のみ。対するカラメリアにはココの想いは伝わらず、迸る殺意を全面に押し出してココを本気で潰しにかかってくる。
カラメリアの扱う自動小銃"FE7"はPDWと呼ばれる銃種で、人間工学に基づいてモデリングされたその特異なデザインは取り回しの良さに定評がある。また、射程距離と威力の低さを連射力で補い、接近戦では無類の強さを誇る。
鋭い指捌きで『バースト射撃』と呼ばれる連射せずに小刻みに引き金を引くことで、FE7の『リコイル』ーーー銃が発射の衝撃でブレていくことーーーを制御するカラメリア。
(まさか私のプレイスタイルがそのまま反映されてるなんて!)
防御に徹するココ。怒涛の銃撃と技能の応酬は止まらない。
カラメリアの動きは、明日未来がココとして培ってきた白兵戦の戦術とFPSにおける近接戦技術を織り混ぜたもので、銃撃を主体に近接系技能や体術を組み込むことでコンボに繋げていく。元々FPSのプレイヤースキルに乏しい明日未来が試行錯誤を繰り返すことで形にしたのが、このカラメリアの戦闘スタイルであった。
「【焼夷破滅弾】」
「【真錬金・ドラコンフラスク】!!」
蒸気に包まれ赤熱した大弾頭がカラメリアの技能により発射されると、瞬時にココが錬金した竜の形の巨大なフラスコに閉じ込める。大弾頭はフラスコ内で大焼夷を引き起こし、紅蓮の液体がフラスコ内に溢れていく。
「【真錬金・リダクション・レイ】!!」
フラスコ内でボコボコと煮えたぎる液体が激しい光と共に熱線へと還元され、溢れんばかりにフラスコから発射される。竜が口を開いた形のフラスコから発せられた熱線は、まるでドラゴンがブレスを吹いているようだ。
直線的な熱線を悠々と身を翻して避けたカラメリアは、フラスコを足場にココへと詰め寄る。
「【幾重魔技最強化】、【カーボネイト・ウェーブ】」
(このタイミングで大技の魔技!)
幾重にもなる魔法陣が形成され、そこから溢れ出るは大津波。轟音を立てて破裂を繰り返す激烈な炭酸がココに迫る。
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