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トリックスター ~最弱職業の中で最強と呼ばれた盗賊~  作者: 大栗えゐと
盗賊王と海賊王
13/26

女帝

 夜半の海賊島トルトゥガは普段の明るくも荒々しい賑わいとは違う、殺気にまみれた喧騒を漂わせていた。

 街のそこら中で怒号や剣戟が聞こえ、炎に包まれる建物も少なくは無かった。

 

 アラモウド海賊団のロメスは、燃え盛る酒場の横で黒いローブに身を包む魔技使役者(マギフォーサー)と対峙していた。

 杖を構えた魔技使役者(マギフォーサー)は短い魔字(ルーン)を中空に書き記すと九級の赤魔術を放つ。


 「【火炎弾(フレイムボール)】!」


 杖から放たれた炎塊がロメスに向かって勢い良く飛んでくるが、右腕に装備している硬骨製のガントレットで弾くように躱していく。


 「その程度の魔術じゃ俺は倒せないな」


 火の粉飛び交う街道でロメスは自身に宿るパンドラの小箱の力を解き放つ。


 「【骨の弾丸(ボーン・ガンレイズ)】」


 前へと突き出した指の先から小さな骨が銃の弾のように連続で射出される。無数に放たれた骨の弾は標的を捉え、対峙する魔技使役者(マギフォーサー)は口から血を吐き出しながらその場に力無く崩れ落ちる。


 「流石は弟。死線を越えて一層強くなってんな」


 「兄貴、雑魚とは言え魔技使役者(マギフォーサー)を相手に連戦するのは流石の俺でもキツい。それにしてもスプレムの奴ら、情事に紛れて奇襲をかけてくるとは」


 ロメスがいる場所はトルトゥガの街でも少し高台になっている場所であり、背面には広い敷地の中にそびえるトルトゥガの中でも一、二を争う大きく豪華な南国を感じさせる建物。中にはアラモウド海賊団の提督、2年という信じられない短期間で海賊の頂点まで登りつめた海賊王カラメリア・プリン・カタラーナが留まっている。


 ロメスが辺りを見下ろすと街のあちこちで黒煙を吹き上げながら炎が上がっていた。


 「予想よりも海援隊の数が多すぎる。兄貴、ヤガさんかボアさんから連絡はあるか?」


 「いんや、全く。他のクルーに様子を見に行かせるか?」


 「この場所はスプレムの一番の狙いのハズだ。ヤガさんが戻るまでは戦力を割きたくない。それにあの人達の強さは折り紙付きだし、他の海賊団も手を貸してくれてるんだ、問題は無いだろう」


 そうは言いつつも先ほどから妙な不安がロメスの胸に張り付いて離れようとはしない。ざわざわと内側から沸き上がる胸騒ぎ。


 「何だっていうんだ、このざわめきは。チッ、また来やがったか」


 幾人もの黒いローブを羽織った者達が殺気に満ちた空気を出してロメス達の正面へとやって来る。


 「お前ら、総力を上げて叩きのめせ!」





 ココとエヴァはトルトゥガの戦火が回る街中を疾風の速さで駆けていた。


 「スプレム皇国の奴ら、派手に動いたね」


 トルトゥガの街は右を見れば火事、左を見れば戦闘という混沌とした状態になっている事を改めて認識するココ。


 ココと話していたローブの男によるとカラメリアは呪いの腕輪とやらで呪縛状態にあるらしく、直ぐにでも様子を見に行きたいという逸る気持ちと、スプレム皇国に対する怒りを抑えてココは冷静に行動しているつもりであった。


 (それにしても、今までなら直視できなかったような焼死体やら千切れた手足を見ても何とも思わないなんて……。身も心も本当にホムンクルスになったと思う他ないよね)


 「……ココ様」


 「どうしたのエヴァ?」


 「……なぜ彼の者らを生かして返したのでしょうか? カラメリア様はココ様の御身そのものであるなら……」


 「一つは情報のため。前にも言ったけど私達はこの世界に関する情報を知らなすぎるからね。それにあの宝玉。私達はずっと監視されてた可能性が高い。偵察隊として配置しているメジェドには伝えたから今はさほど問題は無いと思うけどね。もう一つは、カラメリアに取り付けられている呪いの腕輪の存在。カラメリアはもう一人の私、所謂サブキャラクターなのは、さっき説明したと思うけど。レベルは100で私と同じく覚醒職業(アウェイククラス)も持ってる」


 「……ココ様の分身体が暴走する恐れがあるという事ですか?」


 「そう。もし呪いの影響で暴走したら、私でも止めるのに時間がかかるから」


 (ラヴィの様に暴れるような【キャラクリ】―――キャラクタークリエイトの略。キャラクターのアバター変更の他、育成なども指す―――はしていないけど、これだけ島が喧騒に包まれているのに表に出て来ないのは呪いの力がそれほどまでに強いってことかもしれない……)


 「……ココ様、正面をご覧下さい」

 

 港に近い比較的広い道。桟橋の様な道が港まで海の上を延々と渡っている。


 「あら? そこの純妖精(ピクシー)ちゃんは」


 美人ではあるが不敵な笑みを浮かべた人物。三角帽子や腰巻きなど海賊の風貌で在りながらも、羽織った薄水色のローブがこの人物を魔技使役者(マギフォーサー)だと証明している。


 腰巻きから短い杖を抜き去り、女はいつでも戦闘を行える体勢を取ると、女の後ろでは同じように百人程の海賊が各々武器を構えて臨戦体勢に入る。


 「私ってばツイてるわ。やっぱり、どさくさに紛れて強襲に来たのね。お仲間の戦兎(ワーラビット)はどうしたの?」


 ココは姿眩ましの技能(スキル)を使用しているため、女にはココは見えずエヴァの姿しか捕捉できていないようだ。


 「……いかが致しますかココ様」


 「カラメリアが船長を務める海賊団だと分かった今、あまり危害は加えたくは無いんだけど向こうはヤル気満々だね。エヴァ、殺さずに制圧できる? この世界の住人の強さが見たいの。ヤバそうなら直ぐに私が出るから」


 「……かしこまりました」


 「さっきから何をブツブツと独り言を言っているの? この人数を見てビビっちゃったかしら?」


 べたついた黒髪を逆立て、整った顔を大きく歪めながら女は笑う。自身の力と仲間の数から相手を心底舐めきっている態度に見える。


 「お前があの戦兎(ワーラビット)と戦っていたのを見ていた者がいるのよ、その後の事もね。私達に喧嘩を売った事を後悔するといいわ。生きて返しゃしないよ!」


吠える女はヒュウっと小さな風切り音を立てて杖の先をエヴァに向けた。


 (やっぱり海賊にも見られてたか。私の存在もバレてると考えた方がいいのかな……)


 「アラモウド海賊団最強の魔技使役者(マギフォーサー)であるこの私、海賊女帝ボア様の7級魔導を受けて立っていられた者はいないわ!」


 「へ?」


 ココは自信満々に言い放つボアの言葉が信じられずに、戸惑いから拍子抜けした声を上げてしまう。


 (あの人、今7級魔導って言った? 嘘でしょ?)


 「魔素を導く師に集え! 強大なる力の増幅、氷結の理を読み説かん!【魔技強化(レイズドマギカ)】、【大氷柱(フローフロスト)】!」


 ボアが詠唱を終え、魔技を放つ。強い冷気を帯びた直径一メートルはあろうかという太く大きな氷柱は、周囲の空気さえも飲み込むようにパキパキと音と立て、勢いよくエヴァに向かって飛んでくる。エヴァにぶち当たった氷柱は、標的にぶつかった衝撃で冷気を撒き散らしながら霧散していく。


 「ふふふ直撃ね。避けもしないとは勇ましいこと……なッ!」


 「……」


 氷煙(ひょうえん)が晴れる。風圧で短いスカートをヒラヒラさせながらも、エヴァは掠り傷の一つも無くそこに立っていた。


 (エヴァって意外と大胆な下着履いてるんだ。それにしても驚いた、7級魔導で最強って……)


 「ふん、うまく躱したのか! だったら次は躱せないように!」


 躍起になったボアは同じ魔技を何度も連発する。


 「魔素を導く師に集え! 氷結の理を読み説かん! 【大氷柱(フローフロスト)】! 【大氷柱(フローフロスト)】! 【フロォォフロストォ】!」


 再びボアが詠唱し魔技を発動する。三つの大きな氷柱が三方からエヴァに襲い掛かる。先ほどよりも強い冷気が辺りを支配し、少し離れて様子を見ているココの元へも伝わってくるほどだった。


 甲高い衝撃音と氷の礫を撒き散らしながら大きな氷柱が砕けていくが、エヴァは無機質な顔で先ほどと同じく平然と聳える。ボアの顔が驚愕の色へと変わり、状況が理解しがたいのか首を左右に振っている。


 「な、馬鹿な! ありえないわ!」


 「……何度やっても同じ。7級魔導なんて私には無意味です」


 「化物め! 魔技に耐性があるのか、ならば殴斬(おうざん)よ! あんた達行きなさい!」


 (確かに、純妖精(ピクシー)であるエヴァは種族能力(アビリティ)に魔技耐性を持つけど、それ以前の問題ね。カラメリアのステータスも私好みのガチガチ極み仕様の遊びの無いものだけど、この程度の強さがもしこの世界の基準なら、カラメリアが大げさに崇められても不思議じゃない)


 ボアの号令を機に後ろに控えていた約100人にもなる海賊が怒号と共にエヴァに向かって波の様に押し寄せてくる。


 「数の暴力に震えるがいいわ!」


 「……【可憐なる睡眠の宴(オーチー・リソメイル)】」


 何も無い空間からエヴァは妖精の弩(フィア・アラバレット)を取り出すと、前方の空に向かって弩を放つ。エヴァから放たれた桃色の光弾は空中で霧散すると雨のように海賊達に降り注ぐ。突っ込む海賊達は痛みは感じていないようだがふらふらと千鳥足になり、バタバタとエヴァの元へ届く前に地面へと屈する。


 (単体系よりも効果の劣る範囲系の状態異常技。しかもエヴァの技は6級程度……。それがあんなに綺麗に決まるなんて。あのボアって人も含めて、レベルにしたら20にも全然届いてない)


 「な、なな、何をしたの!」


 「……眠らせただけです」


 「この人数を一瞬で? ありえない!」


 「……あとは貴女だけ」


 ボアは怯えた様に足を震わせて後ずさる。絶望という表情を能面に貼り付けて。


 「や、やめて!」


 「……殺さないとの命令ですので、ご安心を」


 エヴァは妖精の弩(フィア・アラバレット)をすっと構え直すと、一瞬で弩を弾く。


 「……【泡の眠糸(ソン・ピアーナ)】」


 煌めきの尾を引きながら飛ぶ泡を纏った矢が女を貫く。


 「……少し眠るだけです」


 どさりと音を立ててボアはその場に崩れ落ち、貫かれた脾腹からはだくだくと血が流れていく。


 一仕事を終えたエヴァはくるりと振り向いてココの方を確認するとペコりと頭を下げた。


 「……ココ様、大変申し訳ありません。まさかこの程度で死んでしまうとは、迂闊でした」


 「ま、まぁ致し方ないわ。とりあえず死体はどこかに隠しましょ、蘇生した後に情報が得られるかもしれないからね」


 この後、海賊女帝ボアが何者かにやられたという情報が、戦火に飲まれたトルトゥガの海賊達に知れ渡るのには、そう時間は掛からなかった。

 どうもたしゅみなです。GW中二話目の投稿となります。来週から仕事かと思うと憂鬱な気分に陥りますが、頑張って筆を進めたいと思います!

 誤字や脱字、また説明不足で分かりにくい点などありましたらどしどしご連絡ください!

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