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名も知らない君へ

名も知らぬ君へ


 手紙をありがう。君の予想通り、僕はとても驚いています。

 君は失礼かもしれないけれど、僕は今まで君のことを、人に頼ることが嫌いな孤高の人だと思っていました。

 けれど、だからこそ、誰にも頼らない君が壊れてしまうんじゃないか、と文通をしながら心配もしていました。

 だからこそ、こうして君が僕に頼ってくれたこと、すごく安心しています。

 僕らは紙面越しの関係で会って、顔も、相手が誰なのかも知らない。

 普通はそんな相手を信頼できないと思うけど、それでも君は僕を信頼し、頼ってくれた。

 それを、とても嬉しく思います。



 僕も、君と同じような思いをしたことがあります。

 といっても、僕は君とは違って親友が、というわけではなく、家族との関係で、です。

 僕は三人兄弟で、上に四歳差の姉、下に九歳差の妹がいます。で、僕は真ん中で、唯一の男。

 だからなのか、家での僕の立場はかなり不思議で、歪なのです。


 妹は僕を慕ってはくれません。

 同年代の男子と同じ扱いで、僕は妹に一度たちとも「兄」と読んでもらった記憶がありません。

 堂々と呼び捨てをされている僕を見て、同年代の男子たちは、仲が良い兄妹だ、といいますが、僕としてはかなり不満ばかりです。

 妹にとって僕はただの同レベルの存在であって、断じて年上ではない。それがいかに心外なことか……想像できるでしょうか?


 そして、姉と僕は不仲です。

 幼少時はとても仲の良い姉弟であったことは覚えています。むしろ、当時の僕はシスコンでした。自分で言うのも恥ずかしですけど。

 それでも、それが真実です。

 姉がやるから僕もやる、姉がいるから僕も行く。そんな感じで、僕は姉の金魚のフンだったと思います。

 そのせいか、姉の友人たちからの呼ばれ方は、「姉の弟」でした。僕は姉の友人たちに、一度たりとも名前で呼ばれた記憶がありません。

 それは姉が小学校を卒業しても、中学を卒業しても、僕はずっと「姉の弟」でした。

 それは、僕という存在を認めてもらえていないようにも感じるのです。


 父は真面目な人で、曲ったことが嫌いです。その為、僕ら三人は厳しくしつけられてきました。

 けれど、姉は褒められることは少ないですが、同様に怒られることも少なかったです。

 妹は褒められることが多く、怒られることは少なかったです。

 けれど、僕は褒められることなど滅多になく、怒られてばかりでした。

 以前、妹が生まれたばかりのころ、父が、今度は成功させる、と言っていました。母もそれにうなづいていました。

 それは、しつけのこと以外に他なりません。

 僕は、両親の中では失敗作なのです。


 母は優しい人ですが、融通が利きません。姉と喧嘩をした僕を、母が慰めてくれた時があります。

 慰めてくれた時は凄くうれしかったことを覚えています。

 けれど、母の言葉一つ一つが、僕の心を傷つけていました。

 その時、僕は、僕は姉とは違うんだ、と言いました。

 母はこう返しました。

 「どこが違うのか、同じ母親から生まれた、自分の子供だ」

 と。

 それは、つまり僕の個人を否定していることに他なりません。

 母は僕と姉が喧嘩し、僕が泣いた時、いつも慰めてくれました。けれど、いつも同じ会話を繰り返すのです。

 いつも、僕を否定するのです。

 そして、何より最悪なのは、母自身がそれを自覚していない、ということ。


 僕は、家族が嫌いになりました。

 姉や妹が僕をどう思っているのかは知りませんが、姉は特に僕と仲が悪いです。

 僕の行動一つ一つに、いちいち悶着を付けてきます。

 妹とも悶着が絶えません。お互いの波長が全く合わないのです。

 そして、母や父、姉や妹の中で全て僕のせい、ということで完結してしまいます。何かあれば僕のせいになります。

 物がなくなれば僕のせいに。物が壊れれば僕のせいに。

 流石に自然災害、と理由がはっきりしている時はそうはなりませんが、ほとんど全ての事柄が、僕のせいになるのです。


 どうでしょう?

 君ほどではありませんが、僕もかなり苦悩しているのが、お分かり頂けるでしょうか?

 別に、僕は、僕も苦悩しているのだから相談なんかするな、と言いたいのではありません。

 僕は、お互いがお互いの相談をして、それの解決法をお互いに出さないか、という提案をしたいのです。



 君の悩みは、友人が本当に自分を友人と見ていてくれるのか、ですよね。

 たぶん本当の君は、自分の記憶や、人の言葉では信用しきれない、とても心配性な人なんですね。

 だからこそ、ペアストラップという証にこだわっているんですね。

 なら、こういうのはどうでしょう? 失くしたペアストラップの代わりに、また新しいものを買う、というのは。

 または、今僕らがしているように、文通をしてみるのもいいと思います。あぁ、けれど、女の子同士なんだから、交換日記のほうが良いかもしれませんね。

 とりあえず、君に必要なのはお互いの気持ちを正しく理解することだと思います。

 言葉を信用しきれないのなら、文字で。文字を信用しきれないのなら、物で。

 君が本当に信用、信頼できる形で、お互いの気持ちを確かめるべきだと思うんです。


 僕の場合は、そうはいきません。

 家族ということもあり、いつも顔を見合わせるからこそ、文通や交換日記なんて出来ません。

 よく会話するにも、お互い顔を見合わせれば悶着になってしまうんですから、会話なんて出来ません。

 第一に行動時間が違いすぎて、家族なのに、一緒に暮らしているのに、合わない日が存在している。

 そんな現状である以上、僕のほうはそうそううまくいきそうにないのです。


 だからせめて、君の悩みが解決し、君が親友さんと仲良くできる事を願います。



                           ○年 ○月 ×日 (□) □□□より

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