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名も知らない貴方へ

名も知らぬ貴方へ。


 こんにちは、お元気ですか?

 貴方との文通を始めて、早何年が経ったでしょうか。

 初めはこんなもの、と言ってお互い、何度止めようとしたでしょう。私は今でも、時々止めようとしてしまうので……もう、数えきれませんね。


 話は変わりますが、今日は私の愚痴を聞いてはくれないでしょうか?

 いいえ、嫌といわれても、するのですけれど。聞くのが嫌なら、今すぐこの手紙を破り捨てるなりなんなりしてください。

 別にそうされたことで私は怒りません。そんなの、予想出来ることですから。

 文通をかれこれ十数年以上続けているとはいえ、私と貴方は赤の他人。赤の他人の愚痴など、聞きたくはないですもの。

 けれど、もしも読んでくれるのならば。私の愚痴を聞いてくれるのであれば、出来ればお返事をください。



 私には親友がいます。いえ、私がそう思っているだけかもしれません。

 かれこれ、彼女との付き合いはもう五、六年になります。貴方よりは短い付き合いですが、それでも親友と呼べるような間柄だと、自負しています。

 あくまでも自負ですが……。


 偶然の出会いでした。

 当時の私は、かなり柄が悪かったのです。いえ、今でも口は悪いし手足は出すし、と色々と柄が悪いのですが。

 けれど、当時の方が今の何倍も、何十倍も酷かったことを理解しています。

 当時の私は人を信用できず、信頼できず、誰もかしこも敵に思えていたのです。

 そうすることでしか自分を守る手段を知らない、大変脆い存在でした。

 今でも何処か脆い部分は残っていますが、それを変えてくれたのが、彼女でした。

 彼女は私と反対で、大人しく、優しく、大らか人でした。

 そして、私の何倍も、何十倍も、脆い人でした。

 私は物に、他者に攻撃することで自分を保っていましたが、彼女は自分を傷つけることで自分を保っている人でした。


 その日、私はいつも通りにそこらの不良達のリーダーとして暴れていました。

 物を壊し、人を脅し、悪行を働いていました。

 しかし、そうでしか私は私を保てなかったのです。

 悪行を働く強い自分という鎧をまとうことでしか、自分を保つことも、守ることも出来なかったのです。

 不良たちは私を慕ってくれていました。私が本当は臆病で脆く弱い人間だと知ったら、彼らはきっと幻滅するでしょう。

 私をリーダー、と呼ぶ彼らはまるで親を慕う子供のようでした。

 だからこそ、私は鎧をつけたままでなければならなかったのです。

 子供である不良たちを、見捨てることが出来なかったから。


 彼女は転校生でした。

 青白いと言っても過言ではないほどに白い肌が印象的な人でした。

 ふわふわと天然パーマが風に揺れて、何処か儚げな印象を持たせる人でした。

 彼女はガラの悪い生徒に囲まれて、戸惑っていました。

 彼女を囲んでいた生徒たちを、私は知っていました。彼らは以前、私が倒したことのある人たちだったからです。

 私はすぐに彼女の元へ足を進め、そして、彼らを蹴り飛ばしました。


 彼女は何が起きたのか分からないのか、目を丸くしていました。

 彼らはすぐに私を睨みつけて、喧嘩を売ってきました。手には鉄パイプがありました。

 私は素手でしたが、応戦しました。

 喧嘩に集中していた為、気づいたら彼女は居ませんでした。無事、逃げだしたのです。


 私達が騒動を起こしていると、数人の教師が来ました。

 どうやら、逃げだした彼女が教師を呼びに行っていたらしいのです。

 私達は教師に捕まり、お説教を受けました。

 しかし、私だけはそこまで酷いお説教を受けませんでした。彼女が告げ口したらしいのです。

 彼女は私が助けてくれた、と思ったのでしょう。実際にはただ、彼らを潰したかっただけなのですが……終わりよければそれでよし、だと私は思いました。


 驚いたことに、彼女は私のクラスの転校生でした。

 クラスに私を見つけた彼女はすぐに私の元へ来て、助けてくれてありがとう、と言いました。

 私は無視しました。どうすればいいのか、正直分からなかったからです。

 けれど、次の日も、次の日も。彼女は私に声をかけてきました。

 気付けば、私は彼女といるのがいつものことになっていました。周りも、当り前のこととして認識するようになりました。


 中学を卒業するころには、私は相変わらず柄が悪いままでしたが、彼女とは友人を超えた友人になっていたのです。

 昔の私が見たら、目を疑うほど、彼女とは深い友情をはぐくむことが出来ていました。



 高校に入ると、彼女とは別のクラスになりました。高校の間、私は一度たりとも彼女と同じクラスにはなれませんでした。

 私は悲しかったです。彼女も寂しそうでした。一度くらい、同じクラスになりたかった。けれど、一年から持ち上がりである私達の学校で同じクラスになるなど不可能でした。

 高校に入ってからも、私は相変わらず柄が悪いままで、不良たちに慕われました。

 その一方で、彼女にはたくさんの友だちが出来ていました。

 私の友人だと知っても、怖がることのない人たちが、彼女の友人になっていました。

 私は嬉しかったです。彼女にはいい友人が出来たのですから。まぁ、私は相変わらず友人という友人には恵まれませんでしたが……。

 けれど、その一方で私は凄く怖かったのです。彼女という、たった一人の友人を失うことが。

 何度か彼女の友人たちと、彼女と、共に遊ぶことがありましたが、全く話についていけませんでした。

 1人だけ、離れ小島で孤立していることを感じました。けれどそれを悟られないよう、周りに合わせて笑っていました。

 その日、私はその苛立ちをぶつけるかのように、喧嘩をしました。


 だんだんと、彼女と共に過ごす時間が減ってきました。

 彼女は相変わらず私のことを友人と呼んでくれましたが、それでも、私は不安でした。

 この時漸く気付いたのです。私は彼女に依存でしていたことを。彼女を失うことに、強い恐怖を感じていることに。


 修学旅行の時、彼女とお揃いでペアストラップを買いました。一緒に携帯電話につけて、お揃いだね、と笑い合いました。

 私の携帯には、今でもそのストラップがついています。

 けれど、数か月経つ頃には、彼女の携帯からそのストラップが消えていました。

 外されてしまったのでしょうか、聞きたくても、怖くて聞けませんでした。

 彼女が私の携帯のストラップを見て、凄いね、と言いました。何が凄いのか、私には分かりません。

 彼女の口から続けられた言葉に、頭の中が真っ白になる思いでした。

 彼女は言ったのです、私はすぐに落としてしまったから、と。まだちゃんと残っている貴方が凄い、と。

 信じられませんでした。彼女と共にいるというのに、心がさびしくて、拠り所も何もかもを失った気持ちになりました。



 高校を卒業し、彼女は専門学校に進み、私は就職しました。

 今でも彼女との関係は続いています。しかし、それも昔に比べたら褪めたものです。

 私はそれが、とても辛くて、苦しくて、たまりません。

 彼女は私を友人と、親友と呼んでくれます。

 しかし、それが本当なのか、分からなくなってきました。

 あのストラップ。今でも私は大切に持っています。今でも、携帯に付いているのです。

 それが、友情の証だと信じて。

 けれど、それが私の独りよがりに思えて仕方ないのです……。



 すみません、愚痴、と言いつつ、どこか相談のようになってしまいましたね。

 これが、私がもしも読んでくれたのなら返答を欲しい、と述べた理由です。

 これを貴方に聞いてもらおう、と思った時から、こうなることは予想していました。

 本当にすみません、貴方がもしもこれを読んでくれたのなら、驚いていることでしょう。

 今までの手紙で、私がここまで弱っていることなんて、無かったですから……。そう、自分でもかなり弱っていることを、自覚しているのです。


 そろそろ、彼女との関係が、苦しいのです。

 彼女の隣にあったはずの居場所が、今の私には見えない。

 それはお互いが成長した証なのかもしれません。

 けれど、それでも。

 私がいたはずの場所に私以外の人物がいて、彼女と話しているのを見ると、とても心苦しいのです。


 貴方には、そういう思いを感じた時がありますか?

 そう感じたことが、ありますか?

 もしもあるなら……教えてください。

 貴方は、どうやって解決したのですか?


 お返事、待っています。



                      ○年 ○月 ×日 (□) ×××より

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