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「身代わりに産んだ娘が、今日も『私』に甘えてくる」 ~概念代行:私が彼女の《母親:父親》になった日~  作者: かおもじ


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プロローグ1:ぬくもりの朝

完全新作ガチのマジの不定期掲載です。


書きたい時に気晴らしに書きます。


歪で優しい『再生』の物語。


お読み頂ければ幸いです。


追伸:重いのはほぼ最初だけです。基本はほのぼのです。

 朝六時半。


 トントントン、とまな板を叩く音が、静かなリビングに響く。


 鍋から立ち上る出汁の香りが部屋に満ちる頃、二階の階段をパタパタと下りてくる軽い足音が聞こえた。


「おはよぉ、お母さん……」


 寝癖をつけたままの中学生の娘、ひかりが、キッチンに立つ私の背中に無防備に抱きついてくる。


 背中に押し付けられる温かい体温。かつての小さかった面影が嘘のように、いつしか私の肩を越えるまでに成長したその重みに、静かな愛おしさを覚える。


「おはよう、ひかり。……ほら、離れなさい。火を使っているから危ないだろう」


「えー、いいじゃん。お母さんの成分をチャージしてるの」


 へらへらと笑いながら、ひかりは私の背中に顔をぐりぐりと押し付ける。


「君はもうすぐ高校生だろう。少しは自立しなさい」


「むー。お母さんは冷たいなあ。……あ、ひまりちゃんおはよ!」


 ひかりが私の背中からひょっこりと顔を出す。


 その視線の先、ダイニングテーブルの定位置には、湯呑みを両手で包み込むように持った一人の女性が座っていた。


「おはよう、ひかりちゃん。ふふっ、今日も元気だね」


 ひかりに優しく微笑み返すひまり。


 その祈るような、ひどく慈しむような視線は、私とひかりが揃っている光景そのものへと向けられていた。


『近所のお姉さん』であるはずの彼女は、なぜか毎朝当然のように我が家の食卓に座り、私たちが作る朝食を待っている。


 そして、私とひかりの何気ないやり取りを、かけがえのない奇跡でも見るかのように、愛おしそうに見つめているのだ。


「ひまりちゃん、また朝ごはん食べに来たの? ほんとウチのお母さんのこと好きだよねー」


「うん……ハルさんの作るご飯も、ハルさんがひかりちゃんと笑ってる姿を見るのも、私の毎日の生きがいだから」


「あはは、大げさだなぁ」


 何も知らないひかりは、無邪気に笑って洗面所へと向かっていった。


 パタン、と洗面所の扉が閉まる音を確認してから。


 私は火を止め、ふぅと小さく息を吐いた。


「……背は大きくなったけど、中身はまだまだ子供だね。……それに君も相変わらずだね、ひまり」


「だって、何回見ても嬉しいじゃないですか……ハルさんとひかりが笑い合っている光景は」


 ひまりは目を細め、本当に幸せそうに微笑んだ。


 彼女の瞳に、かつての暗く澱んだ絶望の影はない。


 ただ、私への深すぎる感謝と、ひかりへの純粋な愛情だけがそこにある。


「その光景は、君がいるから生まれたものだよ。君も含めて私達は……『家族』なんだ」


「ハルさん……」


 私の言葉に、彼女は少しだけ照れくさそうに目を伏せる。


 ひかりは知らない。


 自分を愛おしそうに見つめるこの『近所のお姉さん』の腹の中で、自分が十月十日を過ごしたということを。


 彼女が自分と血の繋がった本当の母親であることを。


 そして、エプロン姿で味噌汁を作っている私が、数千年の時を生きる男……否、男の形をした『依代』であったことも。


 歪で、だけど何気ない私たちの日常。


 この平穏な朝の風景に行き着くまでには、他の家にはない少しばかり複雑な過程があった。


 私はお椀に味噌汁を注ぎながら、立ち上る湯気の向こうに、すべての始まりを思い返す。


――あれは十六年前。私がひまりと初めて出会った、今は遠い『あの日』。


 腹に根を下ろした命が、もはや人の手では摘み取れないほどに育ちきってしまった、絶望の淵。


 冷たい夜の公園で彼女が一人、降りしきる雪を払いもせずにブランコに腰を掛けていた、あの夜のこと。


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


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