第33話 デュシス侯爵家行
多少、残酷な表現があります。気になる方は飛ばしていただいても大丈夫です。
慌ただしく、出発の支度を整え、俺たち一家は馬車の住人となった。
デュシス侯爵家へは子爵領を越えたところにある。方向的には王都に向かうことになる。馬車の旅で十日ほどだ。護衛の兵士が魔馬に乗って並走している。
さすがに父も馬車に乗っていて、俺たち一家の世話係としてついてきたネリアも一緒だ。
「退屈だ……」
今回師匠とローワンは留守番だ。なので、俺の話し相手はラヴァとイオ。
「にいさま、お尻痛い」
「僕もだよ」
二人ではーっと息を吐く。長時間座りっぱなしなので、もぞもぞと動く。最初馬車に乗るのが初めてではしゃいでいたイオはそれがずっと続くと悟ってからテンションを下げた。気持ちはわかる。
俺も初めての馬車だったし、村から出るのも初めてだからちょっと浮かれてた。
でも、街道を走ると、進行方向にちらちらと、着の身着のままで歩いている人々がいるんだよね。俺たちは家紋入りの馬車に乗っているせいか、慌てて避けて頭を下げている人もいる。そんな元気すらない人もいた。
街道の脇には森が広がっているけれど、中には折れたり、ひしゃげたりしている木々もあった。魔物が沢山出た爪痕がまだ深いのを感じてしまった。
馬車は三時間ごとに休憩をとった。魔馬を休ませるためみたい。水も飲まなきゃいけないし、俺たちもいろいろと済ませなきゃいけないことがある。
森の茂みに入って、ことを済ませようとして、それを見つけた。俺は青い顔で、一緒に付いてきてくれた兵士さんにそこを示した。
一家だろうか、四人が折り重なってこと切れていた。俺くらいの子供もいた。ボロボロの服に、痩せこけた腕、背中の爪痕。
俺は吐いてしまった。始末は兵士さんがしてくれた。アンデットになる可能性があるからと言って、穴を掘って火葬にした。特に遺品はなくて名前もわからない。
犠牲になった人はもっとたくさんいたかと思うと涙が出た。
(つらいの? 元気出して)
ラヴァがぺろぺろと涙を舐めてくれた。ラヴァがほんのりあったかい。心の中もあったかくなる気がする。
母が駆けつけてきて抱きしめてくれた。それ以降、森に入る時は先に兵士さんが確認してくれるようになった。
宿泊できるような村はないようで、初日は野営になった。テントを張って俺たち一家はそこで休んだ。
硬い寝心地と、森で唸る獣の声が不安を掻き立てた。
ラヴァによる強制睡眠のおかげで俺は朝まで目覚めなかったけれど、母もイオも寝不足の顔をしていた。
もちろん食事は保存食だった。硬いパンと干し肉。それが三日ほど続いてやっと村が見えた。
「ここの村は子爵領の最後の村になる。次の村は侯爵領になるな」
村に宿屋はなく、俺たちは村の外で野営をした。出るときは食料を渡して出たみたいだ。
馬車の窓から見た村人はやっぱり、痩せていた。
侯爵領の最初の村は子爵領の村より、村人の顔に元気があった。規模も大きい気がした。
村の広場に泊めてもらい、母とネリア、俺とイオは馬車で休んだ。間の空間を箱で塞いで寝られるようにしたんだ。
「次によるところはもっと大きな街になるわ。そこでは宿屋に泊まれるから、もう少し我慢してね」
ぐずるイオをあやしながら、母は優しく言った。俺は頷くと目を閉じた。
次に寄ったところは壁に囲まれた街だった。初めて見る壁に俺とイオは目を丸くした。門に並ぶ人々の脇を通り抜けて貴族専用の扉から中に入った。
先触れを出していたのか、すんなりと宿に泊まれて、俺たちは久しぶりに足を延ばして寝ることができた。朝、宿の朝食は部屋で食べて、早々に出発をした。朝食はパンとスープで、家で食べているのとそんなに変わらなかった。
それからはちゃんと宿に泊まって旅することができた。
そして十日目、そびえ立つ城壁に守られた侯爵領の領都にたどり着いた。ここから王都は四日ほどで着く。
見たこともない大きな壁と、大きな城に俺は圧倒された。
「凄いね! 大きな壁に、いっぱいの家! 大きなお城!」
「ああ、とっても格の高い貴族家だから、ちゃんと挨拶するんだぞ?」
「はい!」
今日は侯爵家に泊まって、正式に挨拶するのは明日になるらしい。
貴族って大変なんだね。
うちは貧乏男爵家で、ほぼ平民な暮らしだったから、あまりの違いにびっくりの連続だよ。
立派な鎧と槍を持った門番に、鉄の扉。窓には色ガラス。
痩せこけた人は城の中にはいなかった。
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