第175話 鬼気迫る
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「なんでルオはそんなに不満そうなんだ?」
タビーが隣の席から小さい声で訊いてくる。
「なんでもない~」
「え~? 口尖ってるぞ?」
むむ。つい、お小遣いが減る悲しみが顔に出てたのかな。
「尖ってないよ」
タビーがじっと見てきたけど、先生が来たのでお終い。
座学を終わらせると次の時間は師匠の研究室だ。
マナーも何とか単位が取れて実習がなくなっている。
「研究室に行こう」
「おう」
わがBクラスは優秀な人材が多く、単位習得を早めている生徒が多い。移動先がそれぞれ違う。
座学の単位が残っている生徒はそのまま授業、自習をする生徒は図書室や自習ができる教室を借りたりする。
そして、研究室に入った生徒は研究室のある教員棟に向かう。
「結構いるんだな」
「ほんとだ」
研究生の証のメダルを見せて中に入る。師匠の研究室にたどり着く。
ノックをすると、入れと師匠の声がした。
「お邪魔します」
タビーと揃って言って中に入った。
もう、アリファーン殿下とルーンがいた。
「早いんだな」
タビーが鞄を降ろして二人がいるテーブルの席に着いた。
俺もタビーのカバンの隣に鞄を置いてタビーの隣に腰を下ろす。
「おう、揃ったな」
奥の扉から師匠が顔を出した。
「さて、助手の仕事をしてもらうに当たってこの契約書にサインをしてもらう」
出た! 師匠のお得意の魔法契約書!
「この契約書は魔法契約書なので、守られないと強制執行される。秘密を話そうとすると声が出なくなるし、最悪命を落とす」
みんながごくりと唾を飲み込む。
「まあ、助手として知り得た機密は漏らさない、ということぐらいなんだがな。ここにサインだ」
みんなが羽ペンを持って魔法契約用のインクでサインする。
「ルオ、おまえもだぞ」
「ええ、お高いのに」
「大丈夫だ。ルオのポーション代から引く」
「やっぱり! うう」
俺は涙を呑んで、契約書にサインした。
「え、もしかしてこれ……」
はっとタビーは気付いた顔をした。
「ああ、助手代から引いておく」
「ええ!?」
ルーンが驚いた顔をして立ち上がる。アリファーン殿下は苦笑していた。
「めっちゃ高いから」
俺は真剣な顔で言った。何枚も俺のポーション代から引かれてるから!
タビーとルーンは絶望的な顔をした。
アリファーン殿下は多分、予算が潤沢なんだろうな。
師匠はみんなの契約書を集めて満足げな顔をして文書箱に仕舞った。
「さて、俺の助手といっても色々な作業があるし、弟子とは違う扱いになるからそのつもりでな」
「先生、助手と弟子の違いは……」
アリファーン殿下が手を挙げて発言した。
「あー弟子は俺の全技術を渡す存在だな。助手は一部の仕事を手伝ってもらう感じだ。適性もあるし、少なくとも錬金術師の技能が使えないと無理だ」
「ルオは職業が錬金術師なんだ?」
ルーンが首を傾げた。
「うん。錬金術師だよ。だから、ポーション瓶が作れる」
「ポーション瓶が作れる?」
アリファーン殿下が今度は首を傾げた。
「ポーション瓶はスキルで作ったものが正規品なんだよ。ええと、『ポーション瓶、錬成』」
手のひらにポーション瓶が出現した。
「飲んだら瓶消えるのが正規品だよ。覚えておいて」
「ルオも最初は驚いてたけどな」
師匠!
「そう言えばポーションの空瓶を見たことがない……」
アリファーン殿下がはっとした顔をした。
「私とタビーは前にポーションの調合を見せてもらいましたが」
「うん。ポーション瓶の錬成も見た。弟子なんだなって思った」
そう二人が言うとアリファーン殿下が俺を見た。
「調合が見たいな」
はい、喜んで!
「調合するならこっちだな」
師匠が出てきたところとは別の扉を開けた。
師匠の調合室と同じ作りだった。
「これが工房ですか」
アリファーン殿下が目を瞠っている。
「屋敷の工房はもっと大きいよ」
俺はアリファーン殿下にそう言った。
「ルオ、材料はこれだ。初級でいい」
「はい。手作業の方?」
「そうだな」
乾燥した薬草を乳鉢に入れて粉になるまで頑張る。力も強くなっているから最初に作った時の半分の時間で済んだ。
土瓶をクリエイトウォーターで満たして、中に薬草の粉を入れて火にかける。
鑑定しながら火加減を見て出来上がったら、ポーション瓶に素早く移して火を消す。
火を落としてからじゃなく、火から降ろして、という手順にしたのはその方が劣化しないと思ったからだ。
ポーション瓶が光って封がされる。
色は青。
最上級になった。
「……完璧だな。よくやった」
「えへへ。久し振りの最上級品!」
アリファーン殿下がぽかんとした顔をしていた。
「え、最上級?」
「俺たちが見たのは上級だったな」
「そう、青緑色でした」
アリファーン殿下がポーション瓶を見つめる。
「宮廷の薬師には、最上級を作れるものはいないんだ」
俺と師匠は顔を見合わせた。
「ポーションはどちらかといえば錬金術師の分野だが……薬師もきちんと調合すれば最上級ぐらいできそうなものだけどな。王都の薬師ギルドと錬金術ギルドには最上級を納める者はいるぞ?」
「そうなんですか? 最近、最上級がやっと手に入ったと王宮で噂に……」
アリファーン殿下が俺を見た。
「まさか」
師匠が人差し指を口に当てた。
「ここで見たことは秘密だ」
「あー、そうだ! ヴァンデラー師の弟子なんだから、そういうことだって……」
いきなり叫んだアリファーン殿下のぎらついた目が俺を射抜く。
「私にも! ポーション調合の指導をお願いします!」
土下座だった。
ええ、アリファーン殿下、土下座に慣れすぎてない?
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