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第167話 お試し

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「胃が悪いの? 師匠」

「……誰かさんのせいでな」

 師匠が小さく呟いたがよく聞こえなかった。

「え? なに?」

「とりあえず機械を確かめるんだろう? もうジュロン工房の職人が来ているぞ」

「ほんと? 行かなきゃ」

「落ち着け。グラス割れるぞ」

「あ……いけないいけない」

 俺はグラスをいったん置いた。

 木の板で仕切ってある、試し用の透明なグラスをたくさん入れてある木箱の空いた枠に突っ込んだ。

 木箱を持ち上げたが重くてよろめき、師匠が支えてくれて、転倒は免れた。

「そういう時こそ、身体強化なんだが……」

 師匠が呆れた声で言ってひょいっとたくさんグラスが入った木箱を持ち上げた。

「ドアは開けてくれ」

「はい!」

(ルオはドジねえ)

(主はドジ……なの?)

 え、俺、ドジっ子じゃないよ……?


「力が足りないんじゃないか」

「ええ、ちゃんと持ち上げられるはずだったのに……」

「もう少し鍛えないとダメなんじゃないか? 鍛錬さぼったりは……」

「してない、してないよ! 朝もちゃんと起きてるよ!」

「もう少し鍛えた方がいいのかもな。増やすか」

「ええ? もっと鍛錬するの?」

 ガラスを弄る時間が減るのは嫌だよ。

「これを持ち上げられるくらいな」

 師匠が軽々と木箱を持ち上げている。なんとなくドヤ顔しているように見えるのがちょっと悔しい。

「そ、それくらいにはなりたいから……する」

 ガラス製品は大きくなると重いからな。仕方ないかな?


「よし。……開けてくれ」

 隣の細工室のドアを開けると中に思ったより人がいた。

 ハンス、ドワーフの鍛冶工房の面々、チャロ。

 ハンスの側にはガラスの精霊が浮かんでいた。

 ドワーフの職人さんの側には切子用の回転するエッジの機械が置かれていた。

 日本の江戸切子は手で道具を用いてやっていたから彫刻刀みたいなのでもいいんだろうけれど、機械で入れると直線が際立つから作ってもらったんだ。上手くいくかな?


「よう、ルオ坊っちゃん。これが削る用の機械だ。硬い鉱石と言われたからダイヤモンドを使ったが……魔石を使った動力を仕込んである。坊っちゃんが使うなら動力源の心配はないからな。でこっちが砥石を仕込んである。こっちが最後の研磨用と言う奴だ。素材は言われたようなものを張ってみたがよくわからんな」

 鍛冶工房の親方、ジュロンが機械を示して胸を張る。

「イメージ通りだよ」

 削り、研ぎ、仕上げの三種の神器。削りは二回行うから二台作ってもらった。荒い削りを行って細かい模様を入れるんだ。透明のガラスには文様をメインで刻む。試しだからね。一通りやって、改良してもらわないといけない。

「バーナーの方の試作品も持ってきたからゆっくり試してくれ」

 バーナーと聞いてハンスが反応した。

「バーナーはハンスが試すよ」

「お? そうか?」

 ジュロンがハンスを見る。

「ルオ様、いいのですか?」

 戸惑った顔で俺に視線を送ってくるハンスに頷いた。

「僕には必要ないから大丈夫」

(僕! 僕がする!)

(そうだよ。ラヴァに手伝ってもらうからね)

 とりあえずラヴァの頭を撫でた。


「ルオ、それでどうやるんだ?」

 師匠が機械を見るとジュロンが動かし方を教えてくれた。

 動力が入って、円盤が回る。

 俺はあらかじめグラスに模様を入れておいたので、それをまず削る。

 それから細かい作業用の機械で細かな模様を入れる。研ぎ用の機械で、表面を滑らかにする。

 仕上げの機械で綺麗に磨く。

 擦りガラスのようになっていた溝が、透明になる。

「こんな感じかな?」

 みんなに見せた。透明のグラスだけど、江戸切子の独特の文様が入っている。

 いわゆる矢来と呼ばれる直線が交差する文様だ。

 みんながじいっと見入っている。ガラスの精霊も周りを回っている。

 ハンスが震えている。大丈夫だろうか? 

「これは……ガラスに彫刻するということか」

 切り込みに光が反射する様が綺麗だ。

「そう。模様はいろいろできると思うから、家紋を入れてもいいと思う」

「なるほど」

 師匠が手に取って唸っている。あれ? 眉寄ってる?


「このエッジは消耗するから、切れ味が悪くなったら研磨か加工し直さないとダメだな」

 ジュロンが使った後の機械を点検している。

「ルオ様、こっちのグラスには線が入ってますけれど」

 木箱に入ったグラスを取り上げてハンスが聞いてくる。

「それは下絵だね。それを参考に切り込みを入れて仕上げていくんだ」

「なるほど。下絵も荒い感じですね」

「そこは職人の勘とひらめきで」

「そ、そうですか」

「そう」

「ルオ坊っちゃん、このグラスだけ赤いが……なんだ? この色」

 ジュロンが一つだけ赤いグラスを指し示す。

「ラヴァの色だよ。ヒヒイロカネ使ったらそんな色になったんだ」

「はああ!?」

 みんな一斉に叫んだ。


「まあ、それが普通の反応だな」

 師匠、ぼそっと突っ込まないで。


次の投稿は18時になります。


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