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番外編:セルフパロディ「文鳥ですが小ブタになりました!」

アリスとレイモンドが、なぜか日本のおしゃれタウンで仲良くお散歩。

しかも、その姿は本編とは違い……


パロデイOK方はどうぞ~

軽い気持ちで、楽しんでいただければ幸いです。

 アリス・ウイスランドは、真っ白な羽を持つ文鳥だ。 

 もとの姿は、白銀の髪に緑の瞳をした十六歳の男爵令嬢だったのだが、浪費家の両親から弟を救うためのお仕事「レイモンド王子様を守る役」を引き受け、魔法使いにより人から文鳥へと姿を変えられたわけである。


 ――あれから九年。


 ここは彼らがいた世界とは、まるきり別の場所。

 世界の東に位置する日本という国だそうだ。

 街の名は代官山。

 夏草が青々と茂り、緑が目に鮮やかである。

 その街の人気(ひとけ)のない路地を、十五歳になったレイモンドとともに短い足でテケテケテケテケと歩く小さなブタ。

 正確にはマイクロブタと呼ぶらしいが、これが今のアリスの姿である。



「レイモンド様、めちゃくちゃ暑いです。もう歩きたくないです、ブー」

「だから言っただろう。この国の夏は、ぼくたちがいた世界とは比べものにならないほど暑いのだ。特に今年の暑さは異常だと、気象庁も言っていた。それなのに、ぼくの言うことなど聞こうともせず、外に行きたいと床の上をごろごろと転がり、駄々をこねたのは、おまえだ」

「あんな高い塔の中に閉じこもっていたら、体がなまっちゃうじゃないですか。運動も必要ですし、新鮮な空気だって吸いたかったんですよ、ブー」


 確かに部屋の中は外とは違い、暑くもなく寒くもなかったのだけれど、なんだか息が詰まりそうだったのだ。


「あの高い建物は塔ではない。あれは、マンションという建物だ」

「マ……ン?」


 こちらの世界に来たのは同時のようなのに、レイモンドはアリスの知らない言葉を既にたくさん知っていた。


「マ…〇△ンにある、上に行ったり下に行ったりする箱にはびっくりしました。レイモンド様、あれには、どんな魔法がかかっているのですか?」

「おまえ今、誤魔化したな」

 えへへとアリスがブタの顔で笑うと「まったく……」とレイモンドが溜息を吐いた。



「マンション内を上下するあの箱は、魔法で動いているわけではない。電気で動いている。そして、あの箱の名はエレベーターという」

「エべター?」


 さらなる聞きなれない単語の登場に、アリスは立ち止まりレイモンドを見上げた。

 サラサラの真っ黒な髪に、同じく黒い瞳。

 それが、今のレイモンドの姿だ。

 レイモンドのトレードマークでもあった、金色の髪に青い瞳は消えてしまったのだ。


 そして、なによりも残念なのが。

「レイモンド様の鼻、低くなりました」

 レイモンドが無言でアリスを睨む。

 しかし、アリスは気にせず続ける。


「レイモンド様の生意気なほどに、ツンとしたお鼻の、ツンが消えました。あのツンはいったいどこに置いてこられたのですか?」

「ぼくに聞かれても困る。髪の色も目の色も、勝手にこの国の仕様になっていたのだから」

「そうですか……。わたしにしても、はっと気がついたら、周りに小さなブタがたくさんいましたものね……」


 アリスとレイモンド、そしてレイモンドの母のビクトリアは、あちらの世界からこちらの世界へと迷い込んでしまったらしい。

 レイモンドは、母のビクトリアとともに代官山へ。

 そして、アリスは――。


「レイモンド様。レイモンド様がわたしを迎えに来てくださったあの場所は、養豚所だったのでしょうか?」

「あれは、小さなブタ専門の店だ」

「なるほど。小さな豚肉の店ということですね」

「……違う」 


 レイモンドは違うというが、アリスにはよくわからない。


「わたし、レイモンド様に見つけていただかなければ、今頃はミンチになっていました」

「だから、肉屋でも養豚所でもないと言っている。それに、そんなこと……させるわけないだろう!」 


 レイモンドの語気が強い。


「そうですね。レイモンド様はそんなのろまじゃないですよね。ミンチになる手前に見つけてくださって、本当にありがとうございます!」

「おまえは全然わかってない……」


 レイモンドがガクリと首を垂れた。


「そういえば、ビクトリアさまがわたしの背中を撫でながら『とんかつ、おいしかったわ~』っておっしゃっていたのですが、とんかつってどんな食べ物ですか?」

「…………母上」


レイモンドが眉間にしわを寄せる。


「どんな食べ物ですか?」

「……ブ……」

「ブ?」

「ブ……ラウニーをこの街のカフェで食べた」

「チョコレート味のお菓子ですね」


 レイモンドが頷く。


「アイスクリームも添えられていた」

「うわっ……。それはっ、大変おいしそうです」

「その店には、ジンジャービスケットもあった」

「うわわわわ! なんて素晴らしいお店でしょう!!」


 ジンジャービスケットはアリスの大好物なのだ。


「その店にはテラス席があった。犬連れの客も多くいた。なので、おそらくブタも大丈夫だ。今度連れて行ってやろう」

「ありがとうございます!!!」



 髪が黒くなっても鼻が多少低くはなっても、レイモンドはレイモンドだ。

 アリスの好物を忘れていない。

 嬉しくなったアリスがテテテテテと歩きレイモンドの足にポテッとすり寄ると、「おまえは本当にっ!」と怒るような声とともに、アリスはひょいと抱き上げられた。


 レイモンドの顔が、アリスの前にある。

 この国仕様になったお顔だけれど、それでも充分にレイモンドは美しい。


「重いぞ、おまえ」

「ブタですもん。ブヒッ」


 レイモンドがアリスを胸の前で抱く。


「空を飛べなくなり、つまらないだろう?」

「レイモンド様とこうして一緒に歩いてお散歩に行けるのは、至福のひと時です」


 レイモンドと出かけるとき、アリスは彼の肩やポケットの中にいた。

 文鳥の体で一緒に歩くなんて、それはどうやっても無理だったから。 

 だから、アリスはブタでも嬉しい。


「……なんだよ。五分も歩かなかったくせに」

 ぶちっと文句を言いつつも、アリスを抱きレイモンドが歩き出す。



 アリスがブタになってから、レイモンドはアリスを膝の上に乗せたり、ベッドでも抱き枕のようにしたりと、なにかと構ってくれる。

 多分、飛べなくなったアリスを慰める意味もあるのだろう。

 レイモンドの優しさが、アリスの薄ピンク色の肌にじんわりと染みる。


 さてさて。

 さっきまで地面を這うようにテケテケしていたアリスの視界は、レイモンドの腕の中にいることで一気に変わった。

 アリスは、自分が暮らすことになった街を見た。


 レイモンドと暮らすようなマ…〇△ンもあれば、三角屋根の家もある。

 道には、見上げるほどに高い円柱の柱が間隔を空けて立ち、柱の上の部分には細い紐が渡されていた。 


 また、王都でも見ないほどの大きなガラスが填められた建物がたくさんあって、ガラスの向こうには服や菓子や家具。

 そして、絵があった。

 アリスはガラスの向こうに飾られた一枚の絵に目を留めた。


「レイモンド様、この絵を見てください。この世界の人が描く絵は本当に変わっていますね。肖像画でも風景画でもなく、三角とか丸とか、絵の具をこぼしたような」

「こういった絵を、抽象画と呼ぶのだ。母上曰く『Don't think, feel!』だそうだ」「……意味、まったくわかりません」


 Don't think, feel! の意味もわからなければ、この絵が何を描いているのかもわからない。


「文鳥、おまえが見たいように見ればいいんだ」

「その通り」


 突然の低い声に、アリスとレイモンドはびくりとした。

 背の高い男性だった。 

 男性は大きな荷物を抱えていたため、アリスからはその顔が見えない。


「絵の見方はいろいろとありますが、大事なのは、自分の心がどう感じるかです」

 男性がゆっくりと話を続ける。

「丸だっていろんな丸があります。大きい、小さい。色は? それをどう感じる? 温かい? 冷たい? 怖い? 楽しい? たった一つの丸からも、ぼくたちは無意識に実に様々なことを感じているのです」


 そうなのだろうか? 

 アリスは再び絵を見た。 

 たしかに、オレンジ色の丸を見ると温かいように感じ、青いとがった三角を見ると冷たいようにも感じた。


「絵を見て思ったことを言語化してみると、この絵に対して自分がどう感じているか。どう見ているかを、知ることができるでしょう」


 男性が荷物を持った手で器用に、小さな四角い紙をレイモンドに渡してきた。


「ぼくは、この先にある画廊のオーナーです。よかったら遊びにいらしてください」

「ブタを連れて行っても、いいんですか」

「もちろんです。お待ちしています」


 男性はそれだけ言うと、アリスたちとすれ違うように歩いて行った。 


 アリスは男性の姿が小さくなったところで、ようやく口を開く。


「レイモンド様っ!! あの方、わたしが話しているのを絶対に、聞いてましたよねっ!」

「……そう思いたくないが、話の流れとしてそうだと思う」

 レイモンドの顔が暗い。

「どうされましたか?」

「一般的に、ブタは話さない」

「そうでございますね、ブー」

「……おまえ、話すときにわざと『ブー』をつけているだろう」

「今頃言いますか? 気に入っているのです、ブーブー」

「……まぁいい。ブタは話さない。けれど、ぼくはブタ相手に会話をしていた。つまり、あの人は、ぼくが一人二役を演じ、話していると思ったのだろう。あぁ、この世界に来ても、やっぱりぼくは『変わり者王子の』ままなのか」


 レイモンドは唸るが、アリスはなんとなくそうじゃないような気もした。


「レイモンド様。今度、あの人のガローに行ってみましょうよ」

「そうだな。おまえを連れて入れる店って限られているからな」

「ところで、レイモンド様」


 アリスはくいっと太く短い首をひねり、レイモンドを見上げる。


「ガローってなんですか? ジンジャービスケット、ありますか?」

「ない」

「そうなんですか……」


 だったら、ガローってところには、なにがあるんだろう。

 行って楽しいことなんか、あるんだろうか。


 その時、上空からゴーっと、音が聞こえ始めた。


「レイモンド様、上、上です。ほら、ヒコーキです!」

「……あぁ」 


 アリスとレイモンドは、青い空を飛んでいく白い翼のある物体を見た。


「あんな小さなものに、何百人もの人が乗っているそうですよ」

「すごいな」


 この世界は驚くことばかりだったけれど、なかでも一番驚いたのがヒコーキだった。


「いつか乗ってみたいですねぇ」

「そうだな」



 いつまでこの世界にいられるのかわからないけれど、その間は思い切り楽しみたい。



 男爵令嬢だったアリスは、文鳥になった。 

 そして、今はここでブタをやっている。 

 戸惑うことも多いけれど、それでもアリスは毎日が楽しい。



「レイモンド様、この先のお店で、かき氷が食べたいです」

「あぁ、あそこはブタもOKだったな」

「そうです、ブー」

「……おまえは、少し歩け。食べてばかりだと体に悪いぞ」

「……ブゥー」


 下ろされたアリスは、ブーブー言いながらもかき氷屋まで歩いた。



 そして、帰りはご褒美とばかり。

 レイモンドの腕の中で心地よく揺られ、電気で上下するエべターのあるマ…〇△ンまで帰ったのでありました。


(おしまい)

文鳥もかわいいけれど、小ブタもかわいい。

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