涙原 結哉編 ~日本刀~
ワイダーは剣を両手で持ち、結哉の首に充てる。剣を頭上高々と挙げている時に、左から顔に何かが当たる。
ワイダーは尻餅をつく。その弾みで剣が両手から離れる。雉子は颯のごとく、観客室と風の間の仕切りを飛び越え咄嗟に剣を持つ。
雉子は持っていたボンボン二つを投げたのだ。
「今よ、永吹君!」
雉子の声を合図に龍座が観客室から風の間に小走で入る。入れ違いにすぐ雉子も観客室に戻っていく。
龍座は結哉の横にしゃがみ、首に手を充てる。脈が弱くなっている。素早く日本刀を鞘から出す。
「これがあの日本刀だとすると、伝説通りになるかも。」
龍座は独り言を呟く。
結哉の右手に柄(刀剣を握る部分)を握らせる。鋒(刃物が尖った所)を腹部から出血部分に触れさせたが、何の反応もない。
―間違えたか?―
龍座は結哉の首に手を充てる。脈拍が段々戻っている。龍座はホッと一息する。
「キャーッ!!」
観客室から悲鳴が上がる。龍座はパッと振り返る。
ワイダーが観客室に侵入したのだ。雉子は恐怖で固まってしまう。
「その剣を返しな!でないと死ぬぞ。」
「イヤ、来ないで!」
雉子の足がブルブル震え思うように動けない。恐怖のおかげか、ボンドのように両手が固まってしまい剣を握り離れなくなったのだ。
しびれを切らしたワイダーが雉子の顔面に拳を充てようと振り上げる。
雉子は咄嗟に目を閉じるが感触がなく痛みがない。目を開けると、拳は顔に当たる寸前で止まっていたのだった。ワイダーも動いていない。
「チッ!手助けしてしまったゼ!」
林檎を左手に持ったヴァーノが、嫌そうに舌打ちし龍座の側に瞬間移動する。
「おい、バイザーシンシ!テメエ何かしたな?あの部屋は風の間から出入り出来ないように結界がしてあるんだゼ。」
ヴァーノは龍座を睨み付ける。
「まぁまぁ、そんな事より結哉の怪我なんとかならない?」
龍座のあっけらかんとした態度にヴァーノはメリケン型の鉤爪を出し威嚇する。お互い目を離す事なく沈黙。
「コラ!喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
剣を持ったまま雉子が走り二人の間に割って入る。
ヴァーノは舌打ちし、武器を収めムシャムシャと林檎を食べ始める。
「ありがとう、助かりました。あとは僕にまかせて!」
雉子に礼をすると、龍座はヴァーノに近付く。ヴァーノは林檎を食べながら龍座を見る。
「お願いがあるんだけど、結哉を健全な状態にしてくれないかい?日本刀だけでは良くならないようなんで。」
龍座は両手を合わせる。
「断るゼ。これ以上オレが荷担すると、スター姉に何されるかたまったもんじゃねぇゼ。」
林檎をちょうど食べ終えたヴァーノは首を横に振る。また林檎が出現する。
龍座は一呼吸大きく吐き出し、ヴァーノの右耳に耳打ちする。
「なっ!」
ヴァーノは唖然とする。暫し目を丸くしたヴァーノは突然大笑いする。置いてけ堀の雉子は呆気にとられる。
「フハハッ!いいゼ!サイコーだゼ!!」
ヴァーノは宙高く浮き、長い二尾の先を結哉の方へ向ける。
突然、日本刀が銀色に光り輝く。龍座と雉子は目を瞑る。
目を開けると、二人は観客室に座っている。ワイダーは風の間に立っている。殴る構えで固まったままだ。
「剣を返した方がいいゼ。またここに来るゼ。」
雉子は後ろにいるヴァーノに従い、頷くと剣を投げる。剣はワイダーの足元の床に刺さる。
うつ伏せに倒れていた結哉は目を開ける。
「うっ!俺は・・・生きているのか?」
床に血溜まりになっている様を見て、立ち上がり腹部を左手で触り確認する。
刺し傷が見当たらなかった。右手には日本刀が 銀色に恍惚と輝いている。
前を見ると皓叶の顔をしたワイダーが殴る体勢で動いていない。
「どういう事だ?」
結哉が困惑していると、観客室から龍座の声がする。
「結哉、今ワイダーを止めてあるから楽に倒せるけど、キミの性格上許せないだろうね。どうする?動かす?それとも、このまま・・・」
と、問う。
「動いているワイダーがいい。それよりどういう状況だ?日本刀が銀色に光っているし・・・。」
すぐさま返答した結哉はワイダーをそっちのけで日本刀をまじまじと見る。
「説明すると長くなるんで。今からワイダーを動かすから。僕のアドバイスを参考にしてね。」
結哉は身構える。
ヴァーノの魔法が解けたワイダーが雉子を殴ろうとする。だが相手がおらず空振りし、よろける。ワイダーはすぐ体勢を整え辺りを見回す。
「観客室にいたはずだが・・・。まあ良い。なぜか回復している貴様を殺せば経緯はどうでもいい。」
床に剣が突き刺さっており、ワイダーはそれを手に取り構える。
・・・沈黙が続く・・・
観客室にいる龍座と雉子にも緊張が走る。ヴァーノは林檎を食べて見ている。
先に動いたのはワイダーだ。結哉の首を目掛け、剣を振る。
結哉は躊躇いもなくかわす。剣を振り落としたとき、結哉はワイダーの顔に日本刀で斬る。
ワイダーは顔を左手で触る。多量の出血が手につく。
「貴様、足だけでなく弟の顔を刀で斬り付けるとは。」
「うるせぇーっ!!偽物!貴様こそ弟を侮辱しているではないか!さっさと消え失せろ!」
結哉は銀色に輝く日本刀を横に大きく振る。
“フォッン”
風切り音が聞こえる。日本刀の上身(刀身の中でも鞘に納める部分)から銀色が烈風ともに発生する。
ワイダーは吹き飛ばされ壁に激突する。風の間は壁や床など、あらゆる物が黄金から白銀へと変わっていく。
ワイダーはすぐ立ち上がる。観客室にいる雉子が悲鳴を上げ顔を隠す。ワイダーの頭から足先まで銀箔を貼ったような状態になっており、不気味さが際立っている。
「弟の顔では戦えない。今、銀色に染まったお前は化け物だ!これで決める!」
結哉は今度は縦に大きく振る。刀の上身から狂風と共に銀色の刃が発生する。轟音を鳴らしながら床を斬り、ワイダーの方へ行く。
ワイダーは銀色になった剣を盾にして身構える。刃風がヒュッンと聞こえる。
持っていた剣が真っ二つになっており、気付いたら自身の身体も真ん中から縦に離れていく。そして、そのまま飛ばされ壁に激しく当り消えていったのだ。
「独りにさせたことは後悔している。一生この事は拭えない。でも、それが糧となり俺は変われた。皓叶には感謝している。」
結哉は歩こうとすると、急に両膝がガクッと折れ体勢を崩しうつ伏せになる。
―力が出ない―
結哉は息切れをしている。
龍座達は観客室から出て、風の間に入る。雉子はすぐ結哉に近寄りしゃがみ、声をかける。
「大丈夫。」
結哉はゼェゼェ言いながら返答する。
「気力を使い過ぎたようだね。」
龍座がゆっくりと近付き結哉を見下ろす。
「これ、ワイダーが 倒れた所に落ちてたよ。純銀みたいだね。」
龍座は丸い純銀を日本刀の柄にある窪みに嵌める。
「うん、ピッタリだ。結哉、少し休むといいよ。」
龍座は踵を返し、歩き始める。
「ち、ちょっと待って!永吹君!今の行為、全く分からないんだけど・・・。」
雉子の大声で龍座が止まり振り向く。
「ヴァーノに聞けば分かるよ。それより、ワイダーが壁にぶつかった弾みで、上に行く階段が出てきたよ。」
龍座は階段に行こうと早歩きする。
雉子は立ち上がり龍座を追いかけながら、
「永吹君、あなたこの世界のこと知ってるでしょ?涙原君の日本刀を鞘から容易く抜いてたし、ちょっと聞いてる?」
龍座はフッと笑う。あとについてくる雉子を振り払うかのように二段飛ばしで階段を上る。
負けじと雉子は龍座にワァワァ言いながら、二段飛ばしで階段を上って行く。
「チッ!勝手な奴らだゼ。特にあのバイザーシンシ、秘密を全て吐き出してやるゼ。」
林檎を食べ終えたヴァーノは瞬時に消えていく。
―あいつら、覚えてろ!!―
身動き取れない結哉は怒りが沸々と湧いて来だした。
「あ━━━━っ!!」
結哉が叫び声を挙げる。誰もいない風の間は結哉の怒号が空しく木霊する。
木枯らしのような寂しさが押し寄せる。
「存在感、ゼロか。」
結哉は涙を流すのだった。




