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第24話 潜伏

 

 最初に斬りかかってきた男を殴り飛ばして剣を奪う。

 それからすぐに他の修道兵に軽く怪我を負わせて怯んだ隙に呪剣──神骸葬剣(デウス・セプルカ)を奪い返した。


 呪剣の方はすぐに鞘に戻す。

 この剣は加減が難しい。

 加減を少し間違えただけで、相手を簡単に真っ二つにしかねない。


 目の前の3人を手加減しつつも無力化させている間に、こちらの死角に潜んでいた修道兵たちが一斉に殺到してきた。私が予想していた通り、修道兵の中に弓矢を持っている者が何人かおり、仲間に当たるのをお構いなしに矢を放ってきた。そのため、こちらにたどり着く前に背中から矢を射られて倒れる者も少なくなかった。


「キャハッ。みぃーんな、死んじゃえっ⁉」


 人形のエミリーが、恐ろしいことを叫びつつも向かってくる修道兵の腕や足を狙って短剣を飛ばし、動きを封じている。この辺の手加減は私よりうまい気がする。


「さんじゅう、さんじゅういち!」

「うぎゃ!」


 背中を見せて逃げようとした32人目の男に落ちていたエミリーの短剣を3本拾い、腕や足に投げ当てて、床に転がした。気絶している者、呻いている者と様々だが、命を落とした者はいない。


 それにしても。


 教主ダリマビウスの姿がない。

 私の目を盗んで逃げおおせるとは、逃げ足だけなら一流の盗賊にも引けを取らないと思う。


 さて、ここから早く抜け出さねば……。


 ダリマビウスはこの国の指導者。

 彼の命令ひとつで、タイタル聖王国軍を動かせる。

 この神殿を軍に包囲されては、逃げだすだけでも大変だし、犠牲者もどれだけ出るかわからない。


 ──いや。


 別の方法がある。

 それなら、誰も犠牲を出さずに聖女カタニアを救い出すことができる。

















 私とハイビスが聖都フロリシアの神殿の中で(・・・・・)行方をくらませて5日が経った。


 真夜中にそっと魔法の箱庭(マジックキューブ)の中から顔を出した私は周囲に気配がないことを確認して、神殿の中に降り立った。


 5日前、神殿関係者に襲撃を受けた後、拳大の魔法の箱庭を廊下に並んでいた天使の姿をした石像が持つ聖杯の中に魔法の箱庭(マジックキューブ)を放り込んで、箱庭の中に潜伏することにした。私達の行方を見失った教主ダリマビウスや教団関係者は、きっと血眼になって探したはず。だけど、見つからなかったところを見ると、聖杯の中に隠して正解だった。


 どこにも姿のない侵入者に外へ逃れたのでは? と疑い、捜索範囲を都市全体に広げ、それでも見つからないので、今ごろ都市の外にも軍を派兵して探し回っているかもしれない。


 それにしても、なぜ私の呪剣にあれほどまで反応したのか?

 どう考えても、私とハイビスを捕まえて、拷問にかけようとしていた。死んだら死んだで構わないと思っていたから、弓矢を平気で私達に向けてきたのだと思うし、近づいてきた修道兵の剣にも殺気がこもっていた。


 先代の魔王様が所持していたのを知っていたのか、呪われた剣の所持自体が禁忌であったのか、それとも呪われた剣を武器として扱える私を脅威と見なしたのか……。


 どちらにせよ、長居はしたくない場所。

 はやく教主の私室を特定して女神の盃を手に入れ、聖女カタニアの石化を解かねばならない。


 私と一緒に神殿の中を捜索するお供に選んだのはマル。

 5日前、ダリマビウスはよほど慌てていたのか、被っていた主教冠(ミトラ)を落として逃げたらしく、私がそれを拾っておいた。


 この主教冠についたニオイをマルに嗅がせたので、ニオイを辿り教主の私室を特定するつもり。


 途中、何度か巡回している修道兵の目を逃れるため、隠れてやり過ごしながら、一般の巡礼者が立ち入り禁止の場所に踏み込んだ。


「グルルっ」

「マル、だだだだだだだだっ大丈夫だよ」

「くぅ~ん」


 廊下の先、曲がり角から姿を見せたのは青白くぼやけて光る幽体……いわゆる幽霊。

 フードを深く被ったその姿は、死神そのもの。


 マルが唸り声をあげたので、内心怯えつつも頭を撫でたら、甘えた声で鳴いた。いや、泣きたいのは私の方なんだけど?


 アンデッドの中でも骸骨兵(スケルトン)食屍鬼(グール)のような実体のあるものはぜんぜん怖くないが、幽霊など手で触れられないものは、なんだかすごく怖い。


 幽体のはずなのに手には死神の鎌を持っているが、鎌だけは実体があるようだ。


「あう!」


 マルが氷の礫を幽霊に飛ばす。

 でも、やはり氷片はすり抜けてしまい、奥の丁字路の突き当りに当たった。


 ──さて、どうしよう?


 相手はやる気満々で、死神の鎌を振り回して私達に近づいてくる。

 動きはそこまで速くない。5日前の修道兵たちと同じくらいの緩慢な動き。だが鎌を受け止めてみると、常人とは程遠い威力の衝撃が伝わってきた。おまけに鎌には呪いがかかっているらしく、紫色の煙が数本の縄状になって私の身体を締め付けてきた。


 でも、それだけ。


 剣の重さで言えば、ロダンの方が数倍重いし、彼と比べれば全然動きも遅い。

 そしてなにより、呪いの縄が私にとっては何ら足枷になるものではない。


 煙状の縄を簡単に引き千切り、ダメ元で幽霊を袈裟斬りにしてみた。すると真っ二つに裂けた幽霊が断末魔を上げて、薄れて消えていった。後に残ったのは床に落ちている死神の鎌だけ。


 おそらく呪剣──神骸葬剣だから幽体を斬れたのかも。

 本当はとっても厄介な相手なはずだけど、剣のおかげであっさり勝てた。

 死神の鎌を拾い、箱庭に収納していると、けたたましい警鐘が鳴り響き、遠くで物音がし始めた。


 あの幽霊が大音響の断末魔を上げたから、神殿内部にいたのがバレた。

 すぐにこの場を離れようとしたが、一度、動きを止めて周囲の気配を探る。


「──っ⁉」

「まっ待ってください!」


 不意に先ほど幽体が現れた角から人影が飛び込んできたので、とっさに剣を首筋に当てた。その人物は慌てた様子で両手を横に振り、戦意がないことを私に伝えてきた。





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