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第21話 勇者パーティー

 

 チッ、やってられんな!

 なぜ、俺様が魔王に叱られなきゃならんのだ!


 先ほど、魔王に呼ばれたドライグは魔王に一方的に叱責されて、虫の居所が悪かった。怒られた理由は、普段、ドライグの腰巾着であるイースタンが2日も奈落の門から戻ってこないせい。完全な八つ当たりで、イースタンが裏切ったり、逃亡した場合は地の底まで追ってでもヤツを仕留めろと厳命された。


 そして、もうひとつの理由として、魔王領の食糧事情がかなり苦しくなっていること。どういうわけか、クビにしたアルコとかいう骸骨の門番は、人間とうまくやっていたらしく、人間の軍が魔王領であるノースエンドを襲うことなどこの百年、一度もなかった。これはきっとアルコが人間と内通して魔王領の資源などを人間に横流ししていたのだろうと魔王城の中で噂が流れていた。


 この噂の拡散にはどうやら四天王のひとり、ショウジョウが絡んでいるらしく、なぜヤツがアルコのことを詳しく知っているのかいずれ問い詰める気でいる。


 イースタンだけではなく、元門番も探し出して、骨という骨を粉砕してこいと言われたドライグは魔王軍最強という自負があるのにひどく自尊心を傷つけられた。


 いっそ、魔王の座を簒奪するか?

 ドライグにはその力はじゅうぶん備わっていると考えている。


 魔王の座は代々、悪魔族が継いでいるが、竜族、それも古龍の直系の子孫であるドライグにとっては、魔王の座は竜族にこそ相応しいと考えている。


 ちなみにこの大陸には古龍の直系は3人おり、ドライグを始め、赫炎竜ゼノヴィアと岩轟竜チノスがいた。チノスの方は50年以上も前に人間どもの唯一の希望であるアーバンなんたらという勇者に倒されたと聞いた。でもまあ大方、寝ている時に不意を突かれて襲われてしまったのだろう。


 ドライグは自ら〈翠鱗戦団(エイジス・レギオン)〉を率いて、魔王城を出た。


「ドライグ様、到着したら、我々にお任せください!」

「ならん、俺が自ら手を下す」

「ははっ仰せのままに」


 暗黒谷の奈落の門へ向かう途中、翠鱗戦団の副団長である大蛇種のオロチが声をかけてきた。大蛇種は代々、古龍直系の竜種に使える者たちで、その戦闘力は存外馬鹿にできない。


 暗黒谷に到着すると、老人が3人のみで、人間の軍も見当たらない。イースタンの行方を老人共に詰問したが、知らないと言う。


 知らないならそれでいい。

 募り募った鬱憤を、この老人たちをなぶり殺してうさ晴らしでもしようと思う。


 しかし、ただの老人ではなかった。

 身体から立ち昇る黄金の光は勇者のみが身に纏えるという闘気。


 勇者アーバンテイン、だと?

 50年前に岩轟竜チノスを()ったヤツか。


 これは面白い。

 では、他の二人も勇者パーティーの連中か。

 たとえ年老いていても、勇者アーバンテインなら倒せば俺様の名が魔王領の中でも上がるというもの。つまらない仕事を押し付けられたと思っていたが、これは幻獣の涙の恵みのようなもの。こんな幸運が舞い込んでくるとはやはり俺様は持っている男だ。


 相手は老人と言えど勇者。

 50年前とはいえ、同胞を倒している歴代の勇者の中でも特に注意すべき相手。

 ここは慎重に行くべき……。


「気が変わった。オロチ、兵を率いて連中を討て」

「はっ!」

「ほっほっほっ、ワシ等が怖いのかの?」

「ふん! 直接手を下すまでもない」


 別に怖気づいているわけではない。

 連中の実力(ちから)を推し量るだけ。

 予想以上に手強ければトドメに俺様が出るだけのこと。

 だが、今なおその力が健在であろうともこの数では太刀打ちできまい。


「ほっほっほっ。では、儂も観戦させてもらうとしようかの」


 勇者が後ろに下がって近くの岩場に腰を下ろす。同時に魔法の敷物に乗ったプルプルと震えている老人が「ふぁ~~?」と魔法の詠唱らしきものを唱えると、地面から16体の巨大なゴーレムが現れた。


「ふむ、〈十六の巨岩像(コード・ジ・オルクス)〉、久方ぶりに見るの」


 16体の巨大なゴーレム⁉

 50年前にビビドーで起きた魔災(コルバ)をたった1日で鎮めたという16体の巨岩兵。その使い手は、魔王領ノースエンドにまで噂が伝わっている大魔法使い、岩晶主ソルダル。勇者の仲間だったとは知らなかった。


 次々とリザードマンの中でも選び抜かれた屈強な精兵がゴーレムに蹴散らされていく。


 そんな中で、副団長オロチだけがゴーレム相手に善戦していた。


「なんだ貴様は⁉ そんなに死にたいなら先に殺してやる!」

「ブンブン」


 ゴーレムの相手をしていたオロチの前に勇者の仲間のドワーフの戦士が立つ。オロチが巨大な矛を振るうも、向こうも巨大な斧で簡単に受け止め、首を横に振る。


「くそっ、コイツ……ならば!」


 相手を一歩も動かすことができず、その場で翻弄され続けるオロチ。

 業を煮やして、オロチが自分の頭を掴んで、ゴキリと自分の頭を引き千切る勢いで回すと巨大な3つ首の大蛇に姿を変えた。


 その大きさは優に20M(メトル)を超え、ゴーレムでさえ、仰ぎ見なければならない。


「ははははっ! どうだ勇者。貴様の仲間はもう終わりだ!」

「ほっほっほっ、ゾゾが昔、なんと呼ばれていたのか知っておるかの?」


 怯える連中を嘲り笑おうとしたが、不敵にも笑みを浮かべる老勇者。


 昔の名前? そんなことは知らん。

 ──いや、どうでもいい。


 変身したオロチを止められる者は魔王領でも魔王と俺様くらい。貴様らに止められるものではない。


「では教えて進ぜよう……斧鬼ゾゾ、またの名を……」


 ドワーフがオロチの首が1本攻撃してきたのをかわして、頭に飛び乗ってそのまま駆け上がっていく。


「〈千の首を狩る悪鬼サウザンド・ファブライテル〉……こちらの方が悪名として広がったようじゃがな」


 魔王軍は人間や亜人に化けた密偵を大陸の至る所に数多く放っている。色々な報告がある中で一つ奇妙な事件が含まれていた。


 亜人の多いカルプット共和国では、種族間に分かれてずっと内戦が続いている。

 その中で獣人族で、特に残忍として知られる狼人族が勢力を伸ばしていたが、ある日を境に彼らの大多数の狼人族が、一人のドワーフの手によって惨殺された。そのドワーフの異名が、〈千の首を狩る悪鬼〉だった……。


 一閃するごとにオロチの首が刈り取られていき、最後に10M(メトル)はある胴体を縦に真っ二つに断たれた。


「では大将戦と行こうかの?」


 首をコキコキと鳴らして、準備運動をする年老いた勇者。

 魔王軍最強と謳われた〈翠鱗戦団(エイジス・レギオン)〉はゴーレムに吹き飛ばされて、その見る影もない。


 たった二人の人間にここまで一方的にやられるとは……。


「お主に蒼炎装甲(ギア・サファイア)は必要ないの……煌煌闘炎(サンブレイカー)で十分じゃわい」

「くっ──」

「またそれかの……」


 首から提げている人形が割る。

 緊急脱出用の魔具〈身代人形(エシャプピュペ)〉。

 地面に沈んでいく中で、アーバンテインの呆れ顔が、ドライグの感情を逆なでした。


「覚えておれ、勇者アーバンテイン……貴様は必ず俺様が殺す……」






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