206話 ホミラと小悪党
ホミラさん、槍から放つビーム攻撃でダメージを与えてきたでござる。今の俺のステータスは既にラスボスが何匹かかってきても、傷すらつけられないだろうと思っていただけに、内心びっくりだ。
「ほら、言ったとおりでしょう。戦闘力も戦闘センスも顔面偏差値もプーさんを上回ってるって言ったじゃないですか!」
かなり離れた場所にて、スフレをスプーンで掬いながらミラが声を張り上げて怒っている。ごめん、それは聞いていたが、まさか本当だとは思わなかったんだ。それと、美少女と顔面偏差値を比べるのも禁止!
「武装は最強と言われる銀河シリーズで揃えてあります。対惑星用に作られたから、純正パワーパックを使えば、装備の数値は5桁に迫りますよ。使ったことないので3割も本来のパワーは出せませんけど、純正パワーパックは高いので仕方ないんです。銀河シリーズはセットで装備すると、敵の防御力を30%下げて攻撃できるのでお気に入りの装備なんです。それと時々防御無視とチョコレートソースは私のものです」
チョコレートソースをそーっとスフレにかけながら説明をしてくれるが、ちょっとよく意味がわからない。対惑星用兵器を個人が身にまとって良いのかな? 帰っていいかな? というかゲーム的な言い回しだな、ミラめ!
ホミラはドン引きの俺に騎士槍を向けてくる。またもや光線が放たれる予兆を感じ、前傾姿勢となり飛び出すようにジグザグに移動をして回避行動をとる。
「ばぁぁすともぉどど」
「マシンガンモードもあるのかよ!」
地獄の底から絞り出すかのように声を出すと、今度の光線は細かく切れた光弾となって飛んでくる。やばいと顔をそらすと、通り過ぎた光弾が後方で新たなるクレーターを作る。
「なんつー威力だ!」
爆風が後方から砂嵐のように吹き出して辺りへと広がっていく中で、俺は手のひらをかざして超能力を発動させる。
『念動障壁』
迫りくる光弾を不可視の障壁で受け止めると、素早く手で弾き、その反動に顔をしかめてしまう。だが反動を気にせずに俺は残像を残しながら、高速で次々と光弾を防ぎ、弾かれた光弾が周囲で大爆発を繰り返す。
『ソルジャー、この光弾、とんでもない威力だよ。それとこちらの動きを解析している感じがするよ!』
「わかってる! 段々とこっちの動きに合わせて予測射撃をしてきている。短時間で完全なる予測をされたら、後はさっきの光線を撃ってくるはず。こちらが不利だ! もう少し銃にも気を使えば良かったぜ!」
強力な遠距離攻撃がないのがランピーチの弱点だ。といえか、神レベルの強さに到達しておきながら、未だに銃を使えるとは思ってなかった。
「接近戦で仕留める!」
降り注ぐ光弾を超演算でその軌道を読みながら駆け抜けて、ホミラへと間合いを詰めていく。対するホミラも銃撃を止めると、迎え撃つべく構えを取る。
『神霊の籠手』
腕が神秘的な光の粒子に覆われると、神霊の籠手となる。その頼もしい感触に薄っすらと笑いながら、さらなる加速をするべく強く踏み込む。
「まずは力試しと行こうか!」
ランピーチの姿が消えて、瞬時にホミラの眼前に現れると拳を繰り出す。その眼前に一撃、すぐに腕がブレると次なる拳が繰り出される。人間を超えた速度は残像を作り、ホミラへと叩き込まれようとするが
「…………」
ホミラは円盾を構えると、拳が触れる瞬間に手首を僅かにひねり、角度を変えて受け流す。残像を残して、迫りくる無数の拳撃も同様に精緻なる動きにて全て受け流されてしまう。
「くっ! こいつ、俺の体術を上回ってるぞ!?」
『信じられないけど私の超演算能力も見切られてるみたい。えー、ミラの本体はどうなってるの?』
慢心していた二人の鼻を折り、騎士槍では攻撃できない近すぎる間合いであるのに、ホミラは柄の部分を打撃武器として使い、俺の手首に当ててくる。籠手を通して微かな痺れを覚えて顔を歪めるが、その僅かな痺れによる隙を狙い、ホミラは腰を落として、下段蹴りにて足払い。
「のぉー! やっちまった!」
足払いを避けるべく後ろにステップすると、地を這うような体勢でホミラは騎士槍を引き絞っていた。間合いを広げてしまったと俺が後悔する間もなくホミラは槍を突き出す。腕を捻り回転力を加えられた一撃。
『念動障壁!』
慌てて障壁を作り出し攻撃を受け止めるが——。キリリッとガラスを引っ掻いた音がして、念動障壁は貫かれて、俺の身体に騎士槍は突き刺さる。
「ガハッ、くそっ、だが、それでも減衰はできたか。っと、今度は俺の番だぜ!」
腹に突き刺さり、衝撃が体内を破壊せんと駆け巡り、俺は鮮血を吐く。だが、念動障壁を貫いたあとだけあって威力はかなり減衰されている。
ガシッと騎士槍を掴むと、ホミラの動きを止め、膝蹴りにて間合いを詰めるとともにダメージを与えようと試みる。こんどの攻撃は躱しきれなかったホミラの鳩尾に命中するが、強力なる一撃を受けたにもかかわらず、顔色一つ変えることなく、その体が後ろに下がることも、苦痛でくの字になることもないホミラ。
「こいつ体幹どうなってるんだ!? 細っこい身体なのに、びくともしないぞ」
まるで地に深く根を張った大木のように動くことなく、感触も巨大な岩山に蹴りをしたように硬いものだったことに、驚きを隠せない。
それでも驚きだけで終わることはない。片手をホミラの肩に乗せて、ふわりと浮き上がるとムーンサルトキックからの踵落とし。兜へと蹴りは命中し、然しホミラは身体を揺らすことなく、俺の蹴り足を掴むと、思いきり持ち上げてからの地上へ叩きつけてきた。
肺から空気が抜けて、バラバラになりそうな痛みが走り呻く。
「あだぁっ、とこれなら!」
『サイキックレーザー』
痛みで顔を歪めながらも、指を向けて至近距離からのレーザーを放つ。糸のように細い光線がホミラへと命中すると、シジッとホミラの鎧が溶け始めて、ダメージを受けるとホミラはバク転で後ろに下がっていく。
「逃がすかっ」
全ての指からレーザーの本数をさらに増やし、俺はホミラを捉えようと展開させていく。
『敵の動きを予測していくよ!』
ライブラの助けもあり、敵の動きを阻害するように、10本のレーザーを格子上に動かしてホミラへ仕掛けようと企む。ホミラは身体を翻し、高速での機動にて躱そうとするが、それでは回避しきれまいと、クククと嗤う小悪党だ。もちろん小悪党スマイルはフラグとなった。
ホミラは立ち止まると身体を光線が削っていくのを気にせずに騎士槍を向けてくる。そうして細い光線など比べ物にならない、さっきと同じ極太の白光を撃ってきた。
「よし、ダメージを少しずつ………どわあっ!」
慌ててサイキックレーザーを解除して飛び退るが、ホミラはビームを止めることなく薙ぎ払って追いかけてくる。
「ぬぉぉぉっ! こいつ、痛みとか感じないのか!? やばい、あのビームはやばい!」
ドドドと空間を削り取りながら迫ってくる光線に、ダッシュで逃げながら考える。
「だめだな、これは。本体を傷一つ負わせずに勝つのは不可能だ! ミラ、精神の壁は破壊できそうか?」
うん、これは傷一つ負わせずにとか、そんなレベルではない。よく考えなくても、俺と同等以上の敵をそんな手加減して抑え込めるわけなかったわ。
「精神の壁ってなんですか? 今の私はスフレを食べるのに懸命なので、妄言で邪魔しないでください。このオレンジソースは私のですったら」
大好物を食べようとする子犬のようにスフレを懸命に食べるミラだが——。
「お前の目の前にいるのは、ミラの心の欠片とか、そんなんじゃないの? あれだろ、倒せない敵を前にして時間稼ぎをしつつ、ミラが精神の壁を突破するイベントなんだろ?」
叫ぶ俺の言葉通り——ミラは二人いた。お互いにスフレを取り合い、ソースを握りしめて一歩も譲らない形相だ。
戦う前、右にも左にもそっくり同じ姿のミラがいたのだ。いつの間にかもう一人ミラがいたからそうじゃないかと思ってたんだが違うのか? スフレを受け取って二人仲良く離れていったから、そうだと俺のゲーム勘が言ってたんだけど?
きっとミラの本体が残した最後の心の破片とか、そんな感じの存在だと思ってたんだが?
「そのとおりです。よくわかりましたね、なんとかさん。このスフレを全て私のものとしてみとめれば、心の壁が壊れます。そうして心は一つに、私は完全体として復活するでしょう」
チョコレートソース塗れの口でウンウンと頷くミラ。多分こっちがいきなり現れたので、本体の心の欠片だろう。そして、ガッチリと箱を掴んで離さない。
「それは駄目です。私が11個、貴方が1個で妥協しましょう」
「これはレアアイテムの中でも神話級なんです。だから譲れません。それにいきなり美味しい食べ物を胃にいれるのは良くないですよ」
そして、全然譲らないもう一人のミラである。なんで俺がピンチなのにこの子たちは食い物の話しかしないんだ? もちろんもう一人のミラも箱を離すことはない。
その間もホミラはビームを一旦止めて、マシンガンモードにしながら攻撃を続けてくるので、蜂の巣になりそうなんだけど?
「俺が死んだら、もうおやつは作れないな!」
俺の必死の声に、ぴたりと動きを止めると、二人目のミラが真面目な顔を向けてくる。おやつを貰えないのは死活問題だと気づいた模様。
「わかりました。なにを勘違いしているのか分かりませんが説明しましょう。その敵は私の姿とステータスを完コピしている悪魔パイモンです。精霊晶石1億6784万4871個目のカモですね」
「早く言えっ! 手加減無用ということだったのかよ!」
その言葉に、ずささと地面を擦って停止すると、迫るビームへと拳を向ける。
さらに言うとカモとの言葉も気になるが、今は倒すことを優先しますか!
『乱刃拳』
スキルを発動させて、高速の拳撃を光弾へとぶつける。超力を纏わせた拳は光弾を弾き返して、反対にホミラ改めパイモンへと向かっていった。
光弾の軌道、接触する際の反動などを超演算で計算しての拳は、単にパイモンへと弾き返すだけではなく、回避の取れない予測射撃のように正確に飛んでいった。
「アァアアァァ」
躱しきれなかったパイモンに光弾が着弾し爆発が連鎖して起こる中で、俺はツイと爪先を踏み出して瞬足にて間合いを詰める。
『発勁』
怪我を負っても、尚も体勢を崩さずにパイモンが円盾で防ごうとするが——。盾に拳が触れた瞬間、体内から揺さぶられたようにパイモンが揺らぎ、その隙を逃さずに頭に蹴りを叩き込む。
爆発的な威力の蹴りを受けて、パイモンが吹き飛び地面を転がっていくのを見て、額の汗を拭いニヤリと嗤う。
ミラの言葉はヒントであることを悟っていたのだ。
「装備とステータスだけなら倒せそうだ。まったく焦ったぜ」
スキルを使うとどうなるのかなと、ランピーチは体内からさらに超力を引き出すのであった。




