207話 パイモンと小悪党
たしかにパイモンは強い。ソロモンの悪魔の中ではルシファーにもっとも忠実と言われている、なぜか天使軍も統括している悪魔だ。その能力が完コピとかよくわからないが、最強レベルの技なのはわかる。
なにせ、ミラのステータスと装備を完コピしているのだ。あの装備、俺の今の装備よりも遥かに良さそうだし、人の作ることのできる武装に思えないが、まったく同じ性能を完コピできるとは凄まじい能力だ。
だが、わからないこともある。吹き飛んだパイモンがゆっくりと立ち上がるのを見ながら、眉をしかめる。
「ステータスと装備を完コピするだけじゃ詰めが甘くないか? 魔法やスキルは完コピできないのか?」
そうしないと片手落ちだと思うんだ。俺でもなんとか倒せるだろう希望の糸が垂れているのがわかるからな。
「最初は技とかも完コピしてましたよ。『我こそは最強たる悪魔パイモン』とか笑ってました。で、倒すと『ふふふ、無駄だ、我は不滅、倒されても最高級精霊晶石をドロップして、すぐに復活してあげるぞ』とか、たぶんそんな感じのセリフを言ってました」
ほうほう。そのセリフ、大半がミラ本体の脳内で都合の良い改竄をされていないかな?
「で、私が苦戦しながら必死になって三日ほど戦っていたら、段々と言動がおかしくなって、知能がなくなり、後は脊髄反射で戦う悪魔に変身してしまったんです。今は5日くらい経ちましたか?」
「弱体化する変身とかないから。それに5日間程度じゃないから。1200年経ってるからね?」
ミラの本体はパイモンが斬新な変身をしたんですと、本心から言ってるが俺にはわかる。
心が壊れたのはミラの本体じゃなくて、敵の悪魔だったか。そりゃ億単位で殺されてたら精神は壊れて、まともな思考もできなくなるよね。そうなると魔法もスキルも使えなくなるバーサーカーの出来上がりというわけ。
「無限ポップのクエストでウハウハだと思って夢中になって狩ってたんですが、1200年間なんて冗談ですよね? 今は一週間くらい?」
「地面を悪魔の死体で埋め尽くして、一億を超える精霊晶石を手に入れて、たった一週間のはずないだろ!」
コヤツ、俺を超えるゲーム脳だ。たしかに最高級レアアイテムをドロップする悪魔が無限ポップするイベントなんて、俺もずっとやるけどね! 気づいたら朝に始めたのに、いつの間にか夜になってて休日おしまいとかあったけどね! あれ? これは偽の記憶だからそんな経験は実際にはないのかな? でも本当の記憶っぽいし別にいいか。
それでも1200年間ひたすら狩り続けるとか、悪魔か! いや、悪魔は耐えきれなかったんだっけ。封印したパイモンが可哀想に思えるよ。
「だけど、弱体化していて助かったぜ。これでスキルを使われたらやばかったからな」
こちらへと虚ろなる瞳を向けてきて、口からよだれを垂らし、まるでゾンビのようなパイモンへと構えを取る。
とりあえず、今はミラの本体を頼れない。不滅の悪魔を倒せるのは、ここでは俺だけだからだ。スキルをコピーできるミラでも、この圧倒的なステータスのパイモンは倒せない。
「ルガオァォァ」
美少女にありまじきうめき声をあげて、パイモンが槍を構える。と、思ったら目の前に現れた。
「油断はできないけどな! お相手しよう、哀れなる悪魔よ!」
『パリィ』
今度はスキルにて対抗することを選ぶ。久しぶりに使ったが、普通に受け流すよりも威力があるんだぜ。
騎士槍が繰り出されるのを、超力を纏い理を歪めた腕で絡め取ると、激流に流される木の葉のようにその軌道を歪めて外す。
「アァアアァァ」
受け流されてもパイモンは摺り足にて、最小限の動きで引き戻し連撃を繰り出す。風の壁がいくつも生まれて穴が開く。身体が戦うことを覚えているのだろう。その突きは無拍子で繰り出す予兆を見せずに、一瞬で俺を貫こうとしてくる。
だが、俺も腕に超力を集中させて、パリィにて受け流していく。二人の激しい攻防により風が渦を巻き、つむじ風が生まれていく。
「ぬぅぅぅおおおおぉ!」
「アァアアァァ」
もはやどちらもバーサーカーのように唸りながら、攻防は続いていく。お互いの力は互角であり、終わりのない攻防が続くかと思われた。
「速さはパイモンの方が上。だが、ステータスが高いだけの敵はいくらでもやりようがあるんだぜ」
不敵な笑みで、ランピーチは現状を見ても薄っすらと笑みを浮かべる余裕を見せる。パイモンはひたすら攻撃をしてくるだけで、気づくことはないが——。
なぜか、躓くように身体が傾き、パイモンが隙を見せる。
なぜ体勢を崩したのかというと、いつの間にか、パイモンの足が凍りついていたのだ。いや、足だけではない。騎士槍も腕も霜が降りて凍りつく寸前となっていた。
「俺の氷の拳はいかがかな? 夏には涼めるからピッタリだと思うんだが」
『精霊の拳士』
俺の腕も足も氷の結晶で覆われていた。精霊の拳士の力。あらゆる属性をエンチャントする能力。手足にしかエンチャントできないし、そこまで強力ではないが、それでもこれだけの攻防を繰り返せば、敵の体に影響が出る。
そして、精神が壊れて機械のように戦い、痛みを感じないパイモンならば影響が出るまで気にもしない。じわじわとスリップダメージを与える攻撃はバーサーカーの弱点とも言えるだろう。
「ヒャッハー、もらったぁ!」
『小悪党の雄叫び。びびび』
ゲラゲラと顔を歪めて小悪党シャウトをして、拳を振り上げ、ライブラが擬音を口にする。完璧なるシンクロにてパイモンへと全力の一撃。実に主人公っぽい、ヒーローの攻撃。
『乱刃拳』
キィンと氷を斬る涼やかな音を立てて、パイモンの身体を斬るべく光の軌道を無数に刻む。そのまま肉片へと変えられるかと思ったが——。
「なぬ? 硬ぁっ!?」
パイモンの流線型の鎧はまともに攻撃が命中したにもかかわらず、ヒビが入っただけに終わる。神霊の籠手の威力はもはや性能を論じるレベルではないほどに突き抜けた能力を持っているのにだ。
「アァアアァァ」
プンと軽い音を立てて、パイモンは身体を震わせて侵食していた氷を一瞬に振り払い、騎士槍の突きを繰り出してくる。
「アァアアァァっ叫びが攻撃を無効化しているとか?」
恐慌するランピーチ。天使の姿の美少女と、うひゃひゃと嗤うランピーチの戦闘はビジュアル面だけではなく、戦闘でも押されていた。
高速での打ち合いはパリィを使っても段々と押されてきて、俺の身体が傷ついていく。
『単に敵が硬いだけだよ。ライブラアーイッ!』
早く使って欲しかった解析、その名はライブラアイ。
『パイモン:レベル測定不能』
使って欲しくなかった能力、その名はライブラアイ。
「ちきしょー! こいつわけわからんほどに強い! ヘルプミー、ミラの本体!」
インフレという言葉が生易しいレベルの敵だ。しかし、ミラの本体はこいつを倒しているはず。
「駄目です。私は今精神の心の名前を忘れましたが、なんか戦ってるので手が離せません」
「その箱から身体を離してください。貴方はアルマジロですか!」
スフレの箱に覆いかぶさり、顔を突っ込もうとして、スフレを食べさせまいと、ミラに頭を捕まえられているミラの本体。激しい戦闘だ、もはや神の戦争とも言えるミラとミラの本体の激闘。スフレを出さなければ良かった。
「こんちくしょう! てめぇ、このやろう、やんのか、こら!」
事ここにいたり、自分自身で倒さなければいけないと戦意溢れる叫びをあげて、繰り出され続ける槍衾のように錯覚させる攻撃に、乱刃拳で打ち合い、その余波で地面がめくれ上がり、悪魔の死骸が散らばっていく。
瓦礫が空へと舞い上がり、お互いに舞い上がった瓦礫へと移動しながら戦いを続ける。
「こいつはまずいぞ。押し負けるかも。硬すぎるぞ、この悪魔。悪魔というかミラの本体」
『どこかで必殺の一撃を狙うしかないと思うよ。下手に攻撃を繰り返しても倒せないし、ほら、鎧も自動修復を始めてる』
「隙のない構成をしてやがるな、弱点を潰して純粋な戦闘力で戦う王道タイプか」
技を使えなくとも強い。裏技とか弱点を突いて倒せない厄介なタイプだ。
たしかに乱刃拳で与えた切り傷がジワジワと回復していっているのが見える。このまま戦っても、ジリ貧となる。
空中に舞い上がる瓦礫をトトンと踏み台にして移動しながら、どうやって倒すのか考える。考えるが………。
「こちらも正攻法で倒すしかないか!」
正面に向き直り、迫るパイモンへと不敵な笑みで対峙して、深く息を吸いこむ。倒せる方法はあるんだがやりたくない………。
「やりたくないが、仕方ない!」
俺が腰を据えて戦うつもりだと本能が理解したのだろう。騎士槍を引き絞り、溜めを作りパワーを集めていくパイモン。
空間が揺らぎ、世界のエネルギーがパイモンの騎士槍に収束していく。この一撃をうければ確実に俺は倒されてしまうだろう。
「アァアアァァ」
空間にヒビが入り、エネルギーの塊となり光の槍へと変化させてパイモンが打ち出す。白光が辺りを眩しく照らし、ランピーチの身体を貫こうとし——。
「うおおおおおおお!」
『ウルトライブラシールド』
こちらも切り札を切る。光と化した騎士槍はランピーチの身体に命中するが——カチンと軽い金属音をたてて弾かれる。
狂っていても必殺の一撃だとは本能が理解していたのだろう。歪んだ顔に一瞬驚きが浮かぶ。そうだろう、そうだろう。驚いただろう。必殺の一撃をあっさりと弾かれるとは思ってなかったよな?
「そして、それが隙になる! こっちも溜めを作る時間はできてんだぜ!」
『サイキック』
世界の理の外にある力を使い、俺は世界の破壊者となる。世界が震動し、ヒビが入っていく中で、放電する拳を強く握りしめて、パイモンへと繰り出す。全力全開の一撃。全てを打ち砕く切り札。
『世界崩壊』
繰り出された拳は空間を砕き、攻撃を防ごうと円盾にて防御する丸盾に触れる。さっきまでは、ランピーチの高ステータスからなる乱刃拳を防いだ盾であったが、パリンと砕けていき、うねる不可視のエネルギーは、そのままパイモンをも呑み込むと、パイモンの身体が軋み、砂のようにサラサラと砕けて消滅するのであった。
そしてその力の余波はパイモンが創り出した世界を破壊して、元の世界へと変わっていく。
血塗られた世界は消え去り、気づくとどこかの宇宙船ドックにランピーチたちは移動するのであった。
「これは……。良かったです、私の銀河航行船ハンペンは無事だったようですね」
ミラの本体が三角形の船に近づき、安堵の表情となる。そうして俺たちへと顔を向けると、悪戯そうに微笑むと、自己紹介を告げてくる。
「改めまして、なんとかさん。ミラとは憑依体の仮初めの名前。安心安全格安で、確実に依頼をこなす、今日は異世界にて活動する銀河をまたぐバウンティハンター。魔風アリスといいます。どうかよろしくお願いしますね」
そうして、ニコリと野の花が咲くような笑顔を向けてくるのであった。手には空っぽの箱を持ってもいた。あと、口を拭かないとベタベタだぞ。




