139話 哀うさぎ戦士と小悪党
ランピーチマンションでは厳かに葬式が行われていた。皆に見られないために、こっそりとビルの隅っこにある部屋で行っていたが、葬儀である。
部屋には祭壇に置かれており、花や人参なので飾り立てられて、中心には額縁が3つ置かれている。額縁にはうさぎが3羽写っているが、今回の戦死者たちだ。
「うぅ、ムゥがやられるなんて可哀想うさ。代わりに人参食べてあげるうさよ」
「メメは良い子だったうさ。借りてたお金はチャラにしておくうさ」
「モモのへそくり人参は大事に食べるうさね」
他のうさぎたちが顔をうつむけて、手にお花を持って祭壇に献花をする。花を置くついでに飾られていた人参をパクリと咥えて、もぐもぐと口を動かして離れるので、顔はバレないように俯いてるのだった。
「諸君、我らは愛すべき戦士を失った! それは誰か? それは………うぉぉん、なぜ壊れたロボットの修理費に経験値が必要なんだぁ」
小悪党が皆へと語ろうとするが、すぐに突っ伏して号泣するのであった。
「それはですね、経験値でないと直せない基幹部品を使っているからです。それよりも打ち上げの宣言は終わりですよね? このお寿司食べていいてすよね?」
葬儀を打ち上げと評する罰当たりな黒髪少女はテーブルに並べられたお寿司を見て、ソワソワと身体を揺すって、微かに口をモキュモキュと動かしている。許可を得る前にお寿司を食べている模様。
小悪党こと、ランピーチは泣くふりを止めると、ジト目で黒髪少女こと、ミラを見てからカサカサとテーブルの前に移動してあぐらをかく。
「経験値使いすぎじゃね? もっと経験値を使わずに修理をする方法ないかな? それか固有スキルを持ってる奴がいない? ステージクリア時のロボットの修理費を常に10に固定してくれるネゴシエーターとかさ。スーパーなロボット大戦でいたんだよ。移動力がカスで戦闘に加われないけど、その固有スキルのお陰で常に一軍に加わっていたんだ」
「現実とゲームをごっちゃにしないでください。ゲームでいくら大金持ちになっても、銀行口座の貯金は増えないんですよ?」
「よくそういう人の心をグサグサと刺す言葉がスラスラと出てくるよな。でも、この世界はゲームっぽいじゃん。というかレベルとかスキルとかゲームすぎるぜ?」
いくらに手を出して、サッと横からミラに奪われるランピーチ。
「軍隊を統括するにはゲームのようなシステムにした方が効果的と大昔の博士が考えたんです。数値化できるって素晴らしいですから」
「その博士は酔ってなかったか? たしかに同意できるところはあるけど、現実にそんな事やるかぁ?」
呆れながらも、今度はウニに手を伸ばすと、ミラが顔を突き出してパクリと一口で食べてしまう。この野郎と思うが、可愛らしい美少女のやることなので、許してしまうランピーチだ。
「ともあれ、経験値を使わない方法はないよ、ソルジャー。基幹部品は絶対に経験値が必要なのさ。エンジン部分とその周辺だけだから、大破しなければ大丈夫だよ。あ~ん」
食い意地の張る黒髪少女とは対象的に銀髪ツインテールの美少女が甲斐甲斐しくお寿司を差し出してくれるので、うへへと食べる。美少女のあ~んは世界最高の調味料だよな。でも、なんでカッパ巻きなんだ? ライブラよ、自分で食べている中トロをあ~んしてくれない?
「きゅー、もう飽きたうさ〜」
額縁に飾られているうさぎが鼻をスンスンと動かして突き出すと、飾られている人参をかじろうと、舌をペロペロと出しちゃう。
よくよく見ると額縁だけで、中は観光用の顔出しパネルのように穴が開いており、顔を突き出せるようになっていた。これからもうさぎたちは戦死するだろうからと、パネル形式にしたのはミラです。復活するし、葬儀自体必要ないと思うが、お寿司を食べられるイベントだからと、ミラは葬儀を省くつもりはなかったのだ。
「キャー、コウメも、コウメもやりましゅ! 顔を出せば良いの? パパしゃん見て〜」
楽しそうと、コウメがうさぎにどいてもらい、パネルに顔を入れると、楽しそうにキャッキャッと笑う。その笑顔は癒されるが、禁止だ。
「こらこら縁起が悪いから、それは駄目だ。パパと一緒にお寿司を食べような」
「あい! パパしゃんとおすしたべりゅ!」
素直な良い子のコウメはポテポテと歩いてきて、ランピーチのお膝の上に乗ると、満足げにむふーっと息を吐くので、ついつい頭をなでて甘やかしちゃうのだった。
こっそりと葬儀をしているので、ここにはランピーチ、ライブラ、ミラ、うさぎたち、コウメしかいない。他は立入禁止としてある。秘密の話もしたいし。
『悪魔艦『フォルネウス』の浮上を止めようをクリアしました。経験値35000取得』
『ハーケーンの部隊を撃破しようをクリアしました。経験値40000取得』
『ボス戦:チェフェイを倒そうをクリアしました。経験値8000取得』
『ロボット修理費:ガンラビィ3機3000、ミミ専用ガンラビィカスタム10000』
「コロニーの再活性化代金:50000」
ログに映し出されるのは今回取得した経験値だ。かなりのものであり、一気にパワーアップが………パワーアップが?
「なぁ、なにかおかしいぞ? 手元には20000しか経験値がないよ? 見たことのない代金が差し引かれてるんだけど、詐欺かな? 警察に連絡した方が良い?」
予定では70000は経験値が手元に残るはずだったのに、たった20000しかない。もしや不正使用されているのかなと、ログをツンツンとつつくと、寿司桶を空にしたミラがお茶をすすりながら言ってくる。
「コロニーの全てのシステムの再活性化がようやくおこわなれることとなりました。これでさまざまな物資を格安で輸入できることもできますよ。コロニーの弱点であった海はダンジョンとして作っておりますし、食べ物については心配しなくて良くなります」
なんだか食べ物のことしか気にしていなさそうなミラに疑いを持つが、コロニーの全システムの解放はいつかやらないといけないと考えていたし、仕方ないか。俺がやるとちまちまと解放していき、いつになったら全解放できるか分からなかったし。
「生産システム、訓練施設、兵舎や軍事施設、その他にも病院とか学園もあるな。居住区もあるじゃん。良いね、これからはコロニーで暮らす?」
コロニー一覧を見ながら、さまざまなものがあるなと感心するランピーチだが━━━。
「居住区や他いくつかの施設には立入禁止ですよ。そもそも居住区部分はあのコロニーにはありません」
「はぁ? 別のコロニーがあるのか? え? なんで入れないの?」
思いがけないミラのセリフに驚く。居住区は別のコロニー?
「はい。プーさんのいるコロニーは最前線の軍事コロニーです。敵との戦争を想定されています。そんなところに居住区を作ったら、民間人が死んでしまうじゃないですか。なので、彼らは安全なコロニーにいます」
「う~んと、それは秘匿されているということか? もしかしてこの居住区には人がいる? 住んでるのか?」
「タイムスリープで寝ている人たちが少しだけいます。もうエネルギーが尽きそうだったので助かりました」
「………ほんの少し?」
「この荒れ果てた世界が復興しなければ、目覚めることはないので気にする必要はないですよ。それよりも、デザートはないんでしょうか?」
あからさまに話をズラすミラ。ペチペチとテーブルを叩くので本心かも知れない。
(ほんの少しねぇ………何百万人単位の予感がするんだが。この世界が復興ということはキューブ状に分割された世界がもとに戻った後に目覚めるつもりか。都合のよい話だ)
『宇宙図書館』は眠っている人間たちのために働いているのではないだろうか? ひいてはミラもである。ライブラは………大丈夫そうだ。
私の分の寿司桶が空になっちゃったと、うさぎたちにたかられて涙目のあの娘を見て苦笑をする。
「まぁ、ツッコんでも仕方ないか。わざわざ情報を漏らしてくれたのは、ミラの良心からだと思うしな。今は考えても意味がない」
能力を与えてくれるのは『宇宙図書館』だ。今は逆らうことはできないよなと、もう一つ気になることを口にする。とっても深刻なことなのだ。しっかりと戦闘時の通信を聞いていたのだ。
「なぁ、うさぎたちが元は人間って、本当か?」
コウメと一緒に膝の上に乗っているミミ。そして、他のうさぎたち。元は人間だとしたら、いや、もしかしておっさんだったら、俺はどうすればよいのだろうか!? TSならぬTRだ。
ほんの少しだけ真面目な顔となると、ミラはランピーチへと向き直る。
「人工精霊に自我を持たせて、成長するタイプにするには人の魂が必要でした。魂無き人工精霊は技術の粋を尽くしても、自我があるように見せかけるハタラカンチュアが限界。当時の精霊戦争では弱すぎて使い物にならなかったのです」
「それで人間の魂を使ったのか? 非人道的じゃないか?」
当時の状況はよくわからないが非道すぎないじゃなかろうか?
「………そうですね。当時は人工精霊に憑依して遠隔操作で戦闘を行う方法が主流でした。操作するのは遺伝子工学を使用した戦闘に特化した強化人間たち。ですが、敵に基地を襲われて、ポッドに入っていた強化人間たちは全滅しました。そのため、人類は危機的な状況もあり、人工精霊内に入っていた魂をそのまま融合させたのです」
「強化人間………創られた?」
「はい。その強化人間たちは……皆、急速成長されて戦闘プログラムをインストールされた年若かった者たちでした。非道なれど、人類が文字通り滅亡する寸前であったので、他に手段がなかったのです」
「そうか……鬱な話だなぁ」
「ですが不死の人工精霊には弱点がありました。本物の精霊と同じく、自我が薄れて欲求がなくなり、自分の意思で行動することができなくなったんです。契約者がいなければ、飾られた人形のように待機をしていることとなってしまいました」
すよすよと寝ているミミをなでながら嘆息する。悲惨な話だが、滅亡とどちらを選択するかと言われれば、選択肢はなかったのかもしれない。あと、中身がおっさんじゃなくて本当に良かった。
恐らくはミラも同じなのだろう。どうりで、うさぎたちは子供っぽいはずだ。
「うぅ、可哀想な話だね、ソルジャー」
話を聞いて号泣するライブラ。
「お前も同じなんだろ?」
他人事のように聞いてるけど、ライブラもだろと聞くと、キョトンとした顔になるライブラ。
「え? 私はソルジャーのために創られた人工精霊だよ? そんな裏設定はないよ?」
「そ、そうか。それは良かった」
ボディタッチをたくさんしてきたので、ほっと安堵する。中身が幼女とかだったら警察一直線だからな。
━━━でも、ライブラは日に日に人間のように変わっているぞ?
ちらりとミラを見るが、どこ吹く風と気にせずにガリを食べていた。全てを食い尽くす少女である。
(まだまだ謎はたくさんありそうだ)
やれやれとため息を吐き、新たなる寿司桶を出して思う。
「うさーっ! この寿司桶は我らカギョウ隊が制圧したうさ!」
「イカをいただきまーす」
「この寿司桶には盗難防止用次元爆弾を仕掛けました。貴方たちは離れていてください」
「親分、もう一桶お寿司を出してうさ?」
「親分の亜空間ポーチからキャロットケーキの匂いがするでつ!」
「うわ~ん、私の分も残して〜、ソルジャー助けて〜」
寿司桶を前に争ううさぎと少女たち。本当に自我が薄れてるのかなぁと、欲求がないはずなのに寝ているばかりのミミの背中をなでて、ジト目となるのであった。




