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【わんこの探しもの】 見つかりもの









ドアベルの音に溜息をついたあたしは、水をちゃぷちゃぷ跳ねさせながら店舗スペースに戻る。入って来たのが店長と同僚だったらいいな、なんて淡い期待を抱きつつ。




ところが期待も虚しく、現れたのは壮年のおじさんだった。ちょっとお金を持ってそうな雰囲気の、渋くて格好いいおじさん。

「連絡もなしに申し訳ないが・・・」

彼は胸を張って、真っ直ぐあたしを見つめて言った。

・・・全然申し訳ないようには見えないけど・・・。

バケツを床に置いたあたしは、おじさんに駆け寄った。

ほんとに今日は、よく分からないお客様が来る日だ。そもそもこの支店はまだ、開業してないんですけどね。

そう心の中で皮肉って、小首を傾げる。

「何のご用でしょうか・・・?」

するとおじさんは、何かを考える素振りをして口を開いた。

「私を覚えてはいないかね?」

白髪のひとすじが眉間にかかって、すごく渋い。あたしの質問に全然答えてもらってないことを、一瞬忘れてしまうくらい格好いい。

はたと我に返ったあたしは、首を振る。

「いえ、あの・・・すみません、どちらさまでしょうか・・・?」

「あ、ああ・・・。

 そうか、まあ、うん・・・」

おじさんは、あたしのことを知ってるんだろうか。小首を傾げたあたしを見て、がっくりと肩を落として片手をあげた。

その佇まいというか、面影というか。何かが誰かさんに似てるような気が・・・。

激しく嫌な予感が背中を走って、あたしは生唾を飲み込んだ。だいたい、こっちの世界で会ったことのある、渋くて格好いい壮年の男性なんて1人しかいない。

・・・いやいやいや、でもまさか彼がここに来れるわけがないし。

あたしが顔を強張らせた瞬間、おじさんが口を開く。悩ましげな面持ちで。

「・・・実は、最近真面目になったと思って安心していたら突然姿を消した、

 仕事は出来るのに手を抜くのが上手い不肖の息子を探しているのだが」


うわーん、やっぱりー!


溜息と一緒に吐き出されたひと言に、あたしは思いっきり頭を抱えた。

嫌な予感、的中。訪ねてきたのは、なんとこの国の王様だったのだ。







「なんでこんな、おかしなことになってんの・・・」

ぶちぶち呟きながら、近所の食料品店で購入した休憩用のお茶を淹れてトレーに載せる。お茶菓子を探して戸棚を漁るけど、出てきたのは安物のクッキーだけだ。

こんなの、国王陛下に出していいのか・・・?

首を捻ったあたしは、お待たせするのも良くないかとトレーを持ち上げた。


ソファに小さな丸テーブルを近づけて即席で作ったおもてなしスペースに、国王陛下が悠々と腰掛けて周囲を見回してる。やっぱり庶民的な場所が珍しいんだろうか。

「ありがとう」

そんな彼は、あたしの出したお茶とお茶菓子に目を細めた。

あんまり嬉しそうにされると、なんか申し訳ない気持ちになる。

「えっと・・・安物なので、お口に合うかどうか分かりませんが・・・」

居た堪れなくてそう口走ると、彼は苦笑混じりに首を振ってマグカップに手を伸ばした。ふぅ、と息を吹きかけて口をつける。

「開業前の忙しい時期に、すまないな」

コト、とテーブルに音を立てたカップでさえ、居づらそうにしてる気がしてならない。

もっと小さいカップにしとけばよかった。飲み干したら帰るかも知れないし。

国王陛下相手に打算的なことを考えていたあたしは、ぎこちなく手を振った。

「いえいえ・・・」

呟いて、お茶を運んだトレーを胸に抱えたまま、なんとなく床に正座してみる。突っ立ってたら、陛下よりも頭が高くなっちゃうし。

すると、そんなあたしを見ていた陛下が噴き出した。

「何をしとるんだ、君は」

爆笑した時のカオがクロウくんにそっくりで、あたしは変に安心してしまった。

・・・やっぱり親子だ。




あたしは息を詰めて、陛下のお隣に腰を下ろす。こっちに来なさい、いいえ失礼にあたりますから、の押し問答が続いた結果だ。曰く、要約すると「棚ぼた王位に収まっただけの国王だ、たいしたことはない」だそうで。よく分からん理屈だし、そこを掘り下げると余計な情報をもらっちゃいそうだから、敢えてスルーしてみたけど・・・。

それにしてもこれ、国王陛下っていう肩書きの前に、渋くて格好いい男性が隣にいる、ってことで。そっちの方に緊張してしまう。

・・・ごめんクロウくん。

心の中で謝ってみるものの、彼も将来こんな壮年期を迎えるんだと思うと、今からちょっと期待しちゃう。


否応なしに高鳴る鼓動をトレーごと抱えて固まっていると、陛下がそっと口を開いた。

「開業準備は、滞りないだろうか。

 何か困っていることなどは?」

「おかげさまで、順調です。

 ・・・クロウ、あ、クローネル殿下がいろいろと助けて下さるので」

なんとなく普段の呼び方のままじゃいけない気がして、言い直す。すると陛下は苦笑を浮かべて、小さく首を振った。

「普段通りで構わないと言っただろうに。

 君は、あれをクロウと呼んでいるんだね?」

「え、っと・・・はい、すみません・・・」

よく分からないままに、あたしは頷いて謝って。

そしたら陛下は、どういうわけか満足そうに頷いた。でもそのすぐ後には、一変して寂しそうな笑みを浮かべる。

「仲良くしているようで、安心したよ。

 ・・・あれは、私とはあまり話をしたがらないから」

そのひと言に、ツキン、と胸が痛む。

そういえばクロウくん、陛下のことを“オジサン”呼ばわりしてたっけ。親子関係が上手くいってないのは察してた。きっと、お母さんである第3妃のことが根底にあるんだろうな、とも思ってた。

「・・・そうなんですか」

考えを巡らせて相槌を打ったあたしは、トレーの縁を指でなぞる。

少しくらい話したって、きっと彼は怒らないだろう。毎日欠かさず膝枕をしてる件だけは、あたしも恥ずかしいから伏せておくけど。

「クロウくん、仕事の合間を縫って顔を出してくれてて。

 いつもこのソファでお茶を飲んで、少し横になったりしてます」

「そうか」

思いきって話してみれば、隣で陛下が眩しそうに目を細めてた。

あたしはそれが嬉しくて、もう少しだけと口を開く。

「たまに、差し入れを持って来てくれることもありますよ。

 まあ、自分が買い食いしたいだけかも知れないですけどねー・・・」

「あれが、そんなことを?」

驚いたのか、陛下の声音が若干上がる。

「意外ですか?

 クロウくん、基本的にすごーく優しいですよ。

 いろいろ助けてくれるし、こないだは内装を整えるのに重労働したからって、

 マッサージしてくれましたし。これがまたお医者さんクオリティで・・・」

陛下がいちいち興味深そうに相槌を打ってくれるのが嬉しくて、つい口が勝手に動いてしまった。あたしは我に返って、自分が調子に乗ってたことに気がついた。さーっ、と血の気が引く。

「あ・・・」

・・・何喋ってんだ、あたし。

だけど、思わず口を押さえて息を詰めた瞬間、隣の陛下がくすくす笑い出した。

「いやいや、いいことを聞けたよ。

 あれは思いの外、君に尽くしているらしい」

「あ、いやあの・・・!」

「ふふ」

王子に何させてんだ、とか怒られなかっただけマシだけど。単に惚気てるだけだったことに気づいた、この恥ずかしい気持ちは一体どうしたらいいんだ。

顔が熱くて、咄嗟に持っていたトレーで扇ぐ。

すると陛下が、にこにこと上機嫌で言った。

「貴重な話を、ありがとうアイリ。

 これで少し安心出来そうだ」

「え・・・?」

これでもか、というほど顔を扇いでいたあたしは、陛下の言葉に声を零す。

「実はあれが今日、仕事を放り出したと聞いたのだ。

 このところ落ち着いていたものだから、居ても立ってもいられなくてな。

 ・・・つい、探しに出て来てしまったのだよ」

困ったように笑った顔まで、親子でそっくりだ。


一瞬クロウくんの面影を見つけて見惚れてしまったあたしは、はっと我に返った。

「や、ええっと・・・」

言葉を探して唸ってみたけど、ダメだ。これは直球で訊かないといけない事案だ。

「もしかして陛下、誰にも言わずに抜けだして来たんですか・・・?」

まさかね、と思いつつも尋ねたら、こてん、と小首を傾げられた。

いい歳して、そんなかわゆい表情をしないで下さい。好きになりそうです。

心の中でぶんぶんと首を振ったあたしは、息をひとつ吐き出した。

「ちゃんと護衛がいるんですよね?

 あのドアの向こうには、SPがちゃんと控えて警戒してるんですよね?

 騎士団の皆さんも、その辺の道を巡回してたりするんですよね?」

一気に言い切って、固唾を飲む。

どれかに頷いてくれれば、それでよかったんだけど。

そんなあたしの祈るような気持ちなんか露知らず、陛下は肩を竦めてくれた。

「言ったろう、つい、来てしまったと」

・・・嘘つけ。

ツッコミを入れたいのを我慢したあたしは、心の中で天を仰いだ。

やっぱりこの人、クロウくんのお父さんだ。なんか手口が似てる気がするもん。

「“つい”誰にも言わずに、“つい”騎士達の目をかいくぐって?」

「“つい”動きやすい服を拝借して、“つい”この店に来てしまったよ。

 もう歳なのかも知れないな、“つい”お茶までいただいてしまった」

嫌味半分のつもりで言葉を並べれば、その続きを陛下が自ら話してくれる。

なんて人だ。なんて王様が君臨してるんだ、この国。


「今すぐ戻りましょう、陛下」

「そうだなぁ・・・」

あわあわ言うあたしを全然気にするふうもなく、陛下は呟いた。この期に及んで「そうだなぁ」なんて考えてる場合じゃないと思うよ。うちの社長もよくいなくなるけど、それとこれとじゃスケールが違いすぎる。

きっと今頃、王城はてんやわんやだ。2時間の刑事ドラマよろしく、緊急対策室でも設けられているに違いない。

・・・どうしよう、ここに大勢で押しかけられたら大変なことになる。ご近所さんにも迷惑がかかるし、開業に差し支えたら社長に怒られるかも。そしたら減給されるかも!

やばいやばい怒られるぞ、と脳内で繰り返したあたしは、とにかくもう一度説得を・・・と、口を開いた。




「ふむ・・・そうか・・・」

その後も続いた必死の説得に、陛下は唸りつつもようやく重い腰を上げてくれた。

その姿を見て、ほっと息を吐き出したあたし、喋りすぎて口の中がカラカラだ。

「すみません・・・王城までお送りしたいんですけど、今留守番中で」

あたしはトレーを抱きしめたまま立ち上がって、陛下に声をかけた。

「1人で来たんだ、問題ないさ」

すると陛下は、そう言いながらも帰りたくなさそうに視線を彷徨わせて。そして、「ん?」と小さく声を上げた。

「どうしました・・・?」

目を凝らすようにして、自分が座っていた辺りに顔を近づける陛下。

あたしはその後ろ姿に近寄って、声をかけた。

すると、おもむろに陛下がソファの隙間に手を突っ込んで中を探り始めた。

「あ、あの?」

「・・・何かある」

「えぇっ?!」

ぼそりと返された言葉に思わず、あたしもソファに駆け寄って覗き込む。

「このソファは、買ったばかりか?」

「はい」

難しいカオで尋ねられて、あたしは頬を強張らせて頷いた。陛下の声が、お茶を飲んで話している時とは全然違っていたから。

陛下はあたしの顔を見て、声を落とした。

「何か小さなものが挟まっているよ。

 危険なものが紛れこむには、まだ早いとは思うのだが・・・。

 ああ、もう少しで取り出せそうだ」

言葉の途中に聞き捨てならない台詞が紛れこんでいたような気がするけど、とりあえずその挟まっているというものを見せてもらいたい。

あたしは固唾を飲んで、陛下の手がソファの隙間から出てくるのを待つ。

すると明後日の方を睨んでいた陛下が、ぱっと目を見開いた。そして掴んでいたそれを見て、2人して小首を傾げたのだった。







「ちょっと!」

大げさなくらいの音を立てて開いたドアを振り返ったあたしは、そこに立ちつくしていた彼に詰め寄った。遠慮なく、半ば体当たり気味に。

慌てて駆けこんで来た刹那に詰め寄られた彼は、あたふたと手をばたつかせる。その後ろで、ドアがばたんと閉まった。

「なななななに、どしたのアイリちゃん・・・?!」

しどろもどろなクロウくんの襟首を捕まえて、ガクガク揺さぶる。まあ、実際には全然びくともしないんだけど。

それでも彼の気持ちは思いっきり動揺したらしく、目が泳ぐ泳ぐ。

あたしはポケットにしまっておいた物を指で摘まんで、おどおどしてる彼の前に勢いよくぶら下げた。

「コレなに?!」

「・・・あ」


ぽかん、と口を開けたクロウくんが、あたしのぶら下げた物を見つめてる。距離が近過ぎたのか、若干寄り目がちになってるのがちょっと面白い。

あたしは、心の中で首を捻った。

陛下が支店を出ていってから、濡れ雑巾で拭き掃除をしながら何回もシュミレーションしておいたのだ。クロウくんが戻ってきたら、どうやって問い詰めるかを。

まず手始めに、陛下がソファの隙間から引っ張り出した物を彼の目と鼻の先にぶら下げて、その慌てっぷりを鼻で笑ってやろうと思ってたんだけど・・・。

「ちょっと、なによ」

口をぱくぱくさせて、ひたすら驚いてるらしい彼の様子に、あたしも戸惑って怒っていいのか悲しんでいいのか分からなくなっていた。

だって、陛下が引っ張り出してくれた物がペンダントだったのだ。女物の、真っ白な真珠のひと粒ペンダント。チェーンも凝ってて、光をキラキラ反射してる。

陛下曰く、「そういえば、あれが王城に出入りしている宝石商と話しているのを見たと、ミリーから聞いたことがある」だそうで。・・・ミリーさんとは、クロウくんが王城で暮らすようになった頃からのお付き合いみたいだから、きっと他意のない報告だったんだろうけど。

だからあたしは考えに考え抜いて、こう仮定してみた。クロウくん、もしかして浮気でもしてるんじゃなかろうか、と。


「アイリちゃん・・・!」

唐突に、クロウくんがあたしの手を掴んだ。その瞬間に、あたしの握っていたペンダントが大きく揺れる。

なんだなんだ、その感動顔は。ちょっと泣きそうなカオしてどうした。

「え、ちょ、なに・・・?!」

あたしの手を掴んだまま、クロウくんがにじり寄ってくる。咄嗟に一歩、二歩と後ろにさがったら、今度はあたしの手からペンダントを掠め取った。

「これ、どこにあったの?

 俺、めちゃくちゃ探したのに!」

「いやいやいやいや、あたしが取ったみたいな言い方しないでよね!

 これは陛下がソファの隙間に挟まってるのを見つけてくれたんだから!

 ・・・あ」

・・・やば。

咄嗟に売り言葉に買い言葉で、言わなくてもいいことまで言っちゃった。

「・・・オジサン、来てたの?」

クロウくんが、ひくひくっ、と頬を引き攣らせたのを見て、あたしの顔も強張る。さっきまでの強気が、一瞬萎みかけた。

その刹那、彼の口が開く。

「んー、まあいいや。

 それよりこれ、宝石商に注文してたんだ。

 今朝受け取ったんだけど、早くアイリちゃんに渡したくてさ。

 ・・・しっかし、こんなとこに落としてたとは・・・灯台もと暗し・・・」

「え・・・あたし?」

思い描いていた筋書きと、ちょっと違う。

あたしはまた、変なオトコを捕まえちゃったんだとばかり・・・。

「アイリちゃん以外の誰に渡すってのさ。ったく・・・」

溜息をついたクロウくんの顔を、あたしは覗き込んだ。

「さっきの剣幕、俺が他の誰かに渡すと思ってたんでしょ。

 こんだけアイリちゃんのこと好きだって言ってんのに。ひどーい。

 あんなに他の男見ないでね、って言ったのに。ひどいひどい」

言いながら、彼はジト目であたしを見下ろしてくる。

なんだかんだで今、素晴らしく甘いことを言われたような・・・。

「あ、う・・・んと、ごめん」

あたしは口ごもって、視線を彷徨わせた。

その瞬間、クロウくんの両手がふわりとあたしの首の向こうに伸びる。そして気づいた時には、ペンダントがかけられていた。


真っ白な真珠を指で弾いた彼が、ちゅっと音を立てて、あたしのこめかみにキスをする。

「うん、やっぱり似合う」

「あ、ありがとう・・・」

得意気というか、満足気というか。嬉しそうというか。

ほわほわしたカオで呟くから、あたしもつい頬が緩んじゃうじゃないか。

クロウくんは、そんなあたしの頬を撫でて言った。

「はぁ・・・走り回って疲れちゃった。

 アイリちゃんの膝枕で、ちょっとだけ休憩したいなぁ」

小首を傾げるのと同時に、オレンジ色の髪が揺れる。

甘えん坊なわんこは大好きだ。しかも失くしたプレゼントのために奔走してくれてたんだと思ったら、膝枕でも何でもしてあげたい。


だけど、今回ばかりはそうもいかないのだ。


あたしは意を決して、きゅるんとした瞳を向けてきた彼の頬を、きゅっと抓った。

「・・・ほへ?」

きょとん、と目をぱちぱちさせてるけど、そんな可愛い顔をしたってダメなんだから。

目をつり上げたあたしは、わざと声を低くして囁いた。

「今すぐ王城に戻んなさい。

 クロウくんが戻らないから、ジョルジュさんて方が探しに来たんだよ。

 陛下だって、まだ家出したんじゃないかって心配して・・・。

 しかもこのペンダントだって、陛下が見つけてくれたんだからね!」

「えー・・・やだぁ・・・」

あたしの言葉に、クロウくんがぶつくさ口を尖らせる。そしてすぐに、ぎゅむむ、とあたしに抱き付いてきた。苦しい。

「俺、もうちょっとアイリちゃんとイチャイチャしたい。

 もう今さら急いで戻らなくたって、そんなに変わんないし」

彼はそう言うなり、あたしの腰をぐっと引き寄せて、その顔を近づけてくる。

柔らかく細められた瞳からは、甘い何かが漂ってて。ほんとに走りまわったんだろう、ほのかに汗の匂いがする。男の人だ、と意識した途端に、鼓動が速くなってきた。そして綺麗なオレンジ色の髪が、目の前で揺れたのを見た。

その、瞬間。


ぺち!


あたしは彼の顔を、手のひらで叩いていた。

「・・・うぅぅ、久しぶりに顔面叩かれた・・・」

がっくり肩を落とした姿は、やっぱりどこか陛下に似てるよ。クロウくん。







それから、いつまでもぐちぐち言ってるから仕方なく、あたしはクロウくんの頬に触れるだけの“いってらっしゃい”のキスをして。

それをクロウくんは不本意そうにぶちぶち言ってたけど、“仕事が終わったら今日はお泊り”を合言葉に、すごすごと王城に戻って行った。

「ペンダントを見つけてもらったお礼を言うこと!」と口酸っぱく言い聞かせたけど、ちゃんと伝えてるといいな。

お父さんと仲直りするキッカケも見つかるといいね。クロウくん。


ちなみにあたしは、就業時刻まで首元に転がる真珠を触っては、ひたすらにまにま。早く仕事終われ、などと念じていたのでした。







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