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02:変質者と私

「ハル、どうしたの?声も出ないほど嬉しく思ってくれた?」


 動きを止めた私を変質者で詐欺師な変態は、私の腰まで伸ばした亜麻色の髪を一房手に取り軽くキスをして覗き込む。

 私はぷるぷると握り締めた拳を震わせながら大きく息を吸い込み、そして……


「それはもちろん」

「よかっ……」

「お断りしますっ!!」

「えええっ!?」


 何故か歓喜の表情を浮かべた変態は続けて叫んだ私の言葉に酷くショックを受けた様子だった。

 が、すぐに立ち直ったようで再び私の両肩を掴んでがくがくと揺さぶり悲痛な声で私に尋ねる。


「どうして!?」

「知らない人にいきなり結婚しようとか言われても出来るわけないでしょうがっ」


 ぺしっと肩をつかんでいる手を叩いて答えると、変態は不思議そうに首を傾げた。


「ハル、俺のことわからない? 同じ村出身の……」

「どちら様ですか」

「……質問を変えよう。君の生まれ育った村は魔力の強さがとても重要視されていたよね?」


 落ち着きを取り戻した変態は再び最初に見せたやわらかな笑顔を浮かべて問う。実際その通りだったので私は素直に頷いた。

 生まれ育った村とはいえ、その魔力の強さでのみで人間の価値を決める村の風習が大嫌いだった。その風習が原因で大切な親友を失う事になってしまったから。


 親友は村で唯一魔力をもたない子供だった。それは本人のせいではないし、親が悪いわけでもない。両親が魔力を持っていると、魔力をもった子供が生まれやすいという程度であり絶対ではない。ただ特殊な事情があったが為に、村には魔力を持たない人間は親友を除いて誰一人としていなかっただけ。


 私が冒険者になったのも村の風習が原因だといえる。その風習を消し去るための手段を探して冒険者となった。そしてその手がかりとなりそうな本が王立図書館にあることを知りギルドに登録したのだ。


「村で唯一魔力を持たなかった子供を覚えている?」

「もちろん。ヒナは私の親友だった。けれどある日突然いなくなってしまった」

「うん」

「両親の目の前で誘拐されたって聞いた。ヒナはすごく可愛い子だったから、きっとどこかの変態オヤジが……」

「………」

「ヒナの両親は必死にヒナを探してくれるよう村の長に頼んだけれど、ヒナが魔力を持たない子供だというだけでその願いは切り捨てられた」

「そうらしいね」

「すぐにヒナの両親も村から去り、それからヒナやその両親がどうなってしまったのかは子供だった私にはわからなかった」

「うん、それは仕方が無いよ」


 私の言葉に変態は頷きながら、目を細める。それは何かを懐かしむような表情だった。


「ヒナは私の憧れの女の子だった。今でもヒナは生きてると信じてるから、だからヒナを探している」

「うん、俺はハルがヒナを探しているということを知って、ハルがいるっていうこの街に来たんだ」

「何のために?」


 思わず滲んだ涙に気づかれないよう顔を伏せて尋ねる。少々トゲのある言い方になってしまったがまだこの変態の言葉を全面的に信じたわけじゃない。

 そもそもその言葉が真実だとしても、この変態はきっとヒナをいじめていた悪ガキの一人に違いない。私以外の子供はみんな魔力の無い者に価値は無いというその言葉を信じてヒナを蔑んでいたのだ。


「ハルにヒナが無事だと伝えたかったから」

「……ヒナは無事なの?」

「うん、元気でピンピンしてる。今は冒険者としてギルドにも登録してるよ」

「本当に? ならヒナが今どこにいるか教えて! 今すぐにっ!!」


 先ほどとは逆に今度は私が変態の肩を掴んで揺さぶって尋ねる。私は脳みそがシェイクされそうだったというのに変態は涼しい顔で笑顔を崩すことはない。これがSSSの実力ということか。


「うーん、でもハルの探している『可愛い女の子』のヒナはもういないから」

「まさかっ顔に傷でもつけられた!? そんなことしたやつは私が見つけ出して死ぬほど後悔させっ」

「違うよ、成長したから。もう成人しているんだから」

「そっか、ヒナならすごい美女になってるんだろうなぁ」

「それも違うかな。だってほら」


 変態が差し出したのは首から提げているギルド登録証のプレートだった。私のカードと違って金属で出来ているそれは見た目とは違って驚くほど軽い。

 促されるままプレートに目を通して私は眉をひそめた。


 ヒナタ=グラント

 年齢:18

 性別:男

 登録職:剣士

 ランク:SSS


 再び視線を上げて、変態の顔をまじまじと見る。


「ヒナ、タ?」

「うん、昔はヒナって呼ばれてた」

「でもヒナは可愛い女の子で、ちゃんとスカートはいてた」

「親に外では女の子のフリをしているようにって言われてたから」

「何でよ」

「女の子のほうが体に受ける傷は少ないだろうからって。成長期に入る前には村を出るつもりだったらしい」


 そんな馬鹿な、と思う反面あの村でならそれもありうると納得できてしまう。それほどまでにあの村のあり方は異常だった。


「本当に、あなたがヒナなの?」


 震える声で尋ねると、変態は嬉しそうに頷いた。


「探してくれてありがとう、ハル」


 再び変態、もといヒナに抱きしめられる。顔をうずめるようにして抱きしめるので、首元に息がかかって少しくすぐったい。


「あの時はずっと守ってくれてありがとう。今度は俺がハルを守るから、だから俺と結婚して?」


 耳元でヒナが囁く。くすぐったさと落ち着かない居心地の悪さからヒナの腕から逃れようと身をよじるが、ヒナは腕の力を緩めるどころか逆に力をこめて息を吹きかける。

 ……間違いない、これはわざとだ。

 はっと正気に戻った私は、自由に動かせる頭を振りかぶると思い切りヒナに頭突きした。


「それとこれとは話が別っ!」

「イタタ、やっぱりダメか」

「あたりまえでしょ」


 ヒナはわざとらしく痛がるが、もちろんそれは無視する。

 するとやはり大して痛みなど感じていないであろうヒナはすぐにこちらに向き直り、表情を真剣なものへと変えた。


「じゃあ俺は勝手にハルを守る。それでハルがその気になったら結婚しよう」

「……ヒナって本当はそんな性格だったの?」

「あの頃より打たれ強くはなったと思うよ。良くも悪くも、ね」


 こうして村を出てからずっと一人で冒険者としてやってきた私は、Aランクとなったこの日に初めて半強制的にだがパーティーを組む事となった。


 この後毎日のように「愛してるよ」だの「結婚しよう」だのとヒナに言い寄られると分かっていれば全力で拒否していたのに、残念な事にその時の私は突然の再会とヒナの性別とSSSランクという予想もしていなかった出来事に、思った以上に混乱していたらしくあっさりとヒナに言いくるめられてパーティーを組む事になっていた。


 ちなみに私のギルド登録証はギルドの外の植え込みに引っかかっていたのをあっさりヒナが発見した。

 あの時ヒナに捕獲されにギルドの中に戻ったも同然の自分が恨めしい。

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