第64話 半精霊の見る夢
真っ白な空間に道化姿の魔法少女ファティマが現れた。
白い手袋に包まれた指が一振りされると、空間は色をおび、上等なホテルの一室に変わっていく。
大きな窓ガラスから見える光景は太陽照らす楽園。光を反射してきらきら輝く海には人魚達が舞い泳ぎ、真っ白な砂浜では魚人達が海の家で働いている。
遙か彼方の空では、真紅の光球が大量発生する中を水晶の騎士が駆け回っている。
その様子に苦笑したファティマは手を振り上げた
「さて、私も待たせすぎた罪を清算しないとね。【真なる魔法】」
彼女が力強く手を振り下ろすと、その場に金髪赤目の双子と緑髪の少女が具現化する。真紅の目をカッと開いた双子の片割れは、人とはかけ離れた翼を生やし軽く滞空しながら叫ぶ。色々と暗躍していた半精霊アルティである。
「ファティマ! これは貴方の仕業なの!? 生きていたなら連絡の一つくらいするのね!」
「いやぁ、あはは、本当に死んでいたんだよね」
「はあ!? 貴方が死ぬわけないのね! 死んでも蘇るでしょ!」
「ちょっと世界を救ったら、反動で蘇れなくなっちゃってさ。少し頑張りすぎたかもね。反省、反省」
あまりに軽い死亡発言に、突然のことであわあわしていた緑髪の少女ミユもビックリして叫ぶ。
「もっと自分を大事にして!?」
「ははは、最初の一言が私の心配とはミユは変わらないね。まあ、考えておくよ――そして急に呼んでしまってすまないね。アルティの半身チエ……って」
心配の声を軽く流したファティマはギャーギャー騒いでない方の金髪の双子の片割れに目線を向けて、ちょっとだけ微笑みを崩した。
「いやに落ち着いてるね」
「なぜか夢に知り合いが出てきたり、なぜか夢の住人が私の名前を知っているくらい、登校初日で悪魔に取り憑かれたのに比べたら余裕」
なにせチエはあまりに自然体な様子で椅子に座りくつろいでいた上、さらにはココナッツジュースをすすっていたのだ。
開校初年度の探索科学校に飛び込んだ少女とはいえ、あまりに順応が早すぎる。
いや、彼女の散々な経験からすれば妥当であるかもしれない。
良くも悪くも人は慣れる生き物である。
「そ、そうなのかい。苦労してるね君も」
「味も分かって、お得。美味しいから二人も飲めば? いっぱいある」
ゲストの境遇に心底同情した様子のファティマと、のんびりココナッツをすすりながら勧めてくるチエ。
混沌とした場に対して、アルティは金の長髪を振り乱しながら叫んだ。
「ちょっと! 呼んだなら理由があるんでしょ! さっさと話すのね! そっちの我の半身も勝手に飲まない! ミユもストップ! きっと、こういうところのは観光客料金ですっごい高いのね!」
勧められるがままに手に取ろうとしていたミユは「すっごい高い」という言葉にぎくりと固まり、非常に残念そうな様子で手を引っ込めた。
夢だと思っているチエは、スッと飲みきったココナッツを並んでいるストロー付きココナッツの横に置き、ぴゅるーと下手な口笛を吹いた。
「安心してくれて良いよ。もとに戻しちゃえばバレないからさ。それに――」
三者三様の様子に頬をかいたファティマは、指の一振りでチエの飲みきってしまったココナッツジュースを元の姿に復元しつつ、アルティの勘違いを訂正する。
「私は割と何でもできるからね」
追加の一振りでテーブル上に鮮やかなトロピカルジュースを具現化した。
宝石のように色とりどりな氷達の泳ぐ三つのグラスは、今作ったばかりであるかのように水滴一つ付いていない。




