第63話 物欲探知機でガチャれ!
青い荒野は眼を蒼く輝かせる魔法少女達でいっぱいになっていた。
その中心に立つのは金装飾の施された紫の棺と、青いシスター服の上位魔法少女。
震える雑魚悪魔を片手持ちで掲げ、気合いを高めているチャコだ。
「世界が危機に晒されない限り、理を乱す力は使えない契約のはずだ!」
「簡単な話ポン。世界の危機にしか力を使えないのなら、世界の危機を起こせば良いポン」
プラーンとぶら下げられた事情通らしい悪魔は棺に押し込まれながら叫ぶが、ポン太の返答を待たずに棺は閉められた。
「いきますよ~!」
「無情ポン……」
開始の宣言は配慮というわけではないらしい。
何をしているのかといえば、強大な悪魔の魂を雑魚悪魔アバターごとチャコの魔法のリソースとしているのだ。周囲の魔法少女達は、そのガチャ結果である。
棺の中心にある黄金のガチャレバーがチャコの手でゆっくりと回されていく。
バンと開いた棺の中から人影が飛び出してきた。
「また呼んでくれて、おじさん嬉しいよ! 今回も頑張るから……ね? みんな?」
「敵はもういないのです。他のみんなとバカンスの予定でも立てていてください」
現れたのは灰色の髪をバレッタでとめた少女。拳聖さんだ。
黒いマントを身にまとい、黒のガントレットを打ち合わせる姿はやる気十分であったが、周囲の魔法少女達を見た彼女の誓いは中断された。
「おじさんの勘では、敵が隠れてる気がするな~? なんちゃって?」
「はいはい。せっかくの現世だし楽しまなくちゃ損でしょ」
「一緒に旅行の計画でもたてましょうね?」
「あばば、や、やめて~!」
チャコの戦闘終了宣言に食い下がろうとした拳聖さんだったが、周囲の魔法少女に捕獲されて猫かわいがりされながら連れて行かれた。
「次です。無心で、回すのです」
次なる犠牲者がぐいと引っ張られて持ち上げられる。
「どういうことだ!?」
「他ならぬ理外の力を持つ彼女が軽くでも滅びを願えば、世界の危機は確定するポン」
長く話していると答えを聞けないことに気が付いた悪魔は手短に話して続きを促したが、棺の扉はすぐさまバタンと閉じられた。チャコは早く次を回したいのである。
「さあ、来るのです剣聖さん。いや……レナ!」
ゆっくりとガチャレバーが回されると棺が開き、中から人影が歩いてくる。
「剣聖じゃなくて悪かったわね。私も用があるから待たせてもらうわ」
現れたのは鮮やかな赤髪を咲くようなサイドテールにした少女。彼女は大きな筒を具現化すると、そこに腰掛けて空の棺を蒼く輝く眼で睨む。
「華子、何か怒っているのです?」
「茶々子を怒っているわけじゃないの。でも人の魔法を借りたくせに他の魔法を使うのに夢中で抱え落ちするようなバカには、制裁が必要だと思わない?」
「ちょっと、擁護できないのです」
どうやら新しく現れた魔法少女の華子は、剣聖が魔法を持っていったのに使えなかったことに怒っている模様。
他の魔法はバリバリ活躍していたので、チャコも言える言葉がないようだ。
「貴様ぁ! 我らを騙したのか!? むぎゅ!?」
「……悪魔のくせに悪魔の言葉を信じてしまったのか? ……ポン」
プラーンと吊り下げられた悪魔は叫ぶが、全く気にしていないチャコは棺にポイと放り投げて閉めてしまう。
手慣れた様子で回転していく金のガチャレバーは、彼女の研ぎ澄まされた業に何の陰りもないことを示していた。
自分の担当によるあまりにあんまりな雑魚悪魔の扱いに、ポン太も語尾をつけ忘れてしまった。
「茶々子さん!」
「なんなのです!?」
ひかえめに開かれた棺からは金髪の少女がゆっくりと出てきた。聖女さんである。
なぜか聖女さんはチャコをひしと抱きしめて、ポロポロと涙を流しはじめた。急な抱擁と涙にチャコは紫の目を白黒とさせる。
「あなたの活躍を見ていましたよ! ガチャや魔法少女関連のこと以外には目も向けなかったあなたが、他の人と協力して頑張るなんて! しかも人助けまで! 【祝福の祈り】君に幸あれ」
「あ、ありがとう?」
「善行は報われるべきですからね! 茶々子さん、今後も頑張ってくださいね!」
チャコの直前の所業を見ていなかったらしい聖女さんの寸劇に、ガチャ見物を楽しんでいた一部の魔法少女達は口を閉ざすことを選んだ。
上機嫌な聖女さんに水を差すことはないと考えたからである。言わずとも良いことを言って連帯責任で怒られるのもイヤなので……。沈黙は金という奴である。
カッと半目を見開いたチャコは止まらない!
次の犠牲者をむんずと掴み、棺に押し込ん……。
「言霊による認識阻害が途切れているぞサタン! そこまで下に見られるのは、流石に……なんだ……」
「失礼したポン。……流石の僕も本当に信じる悪魔がいるとは思わなかったからポン」
ちょっとだけ話を聞いてから気持ち優しく棺に押し込んだ。チャコは慎重にフタを閉じてから、ガチャレバーを回転させる。
「やあ」
棺が開こうとする直前。上から声がかかる。
いつの間にか棺の上に現れていたのは、道化の姿をした少女だった。ある意味でのUR確定演出にチャコの目が輝いた。
「道化さん! お願いが……」
「おっと、言わないで」
制止の言葉と共にひょいと棺から飛び降りた道化は、自らの蒼く輝く眼とチャコの紫眼を見合わせて、一つ頷いた。
「僕の魔法には制約が多いからね。【真なる魔法】」
「なんだ、ファティマか……。人が気持ちよく眠っていたってのに」
「おはようレナ。急に起こして悪いね」
次の瞬間、道化の隣には水晶の騎士が立っていた。
寝ぼけ眼の騎士は蒼く輝く眼をこすろうとして、水晶の兜に水晶の小手をぶつけている。
「だけど、女性を複数人待たせるなんて、罪だと思わない?」
「何を言って……げぇ!? 華子!?」
「レナ? どうしても、私の魔法を貸して欲しいと言った割には、使わなかったみたい、ね?」
巨大な筒から降り、そのままひょいと持ち上げた華子は、物怖じすることなく水晶の騎士を問い詰める。
「あーっと、その、少しばかり、あたしに華子の魔法は難しかったみたいだぜ!」
「そうなの? だったら、もう一度、使い方を教えてあげようかしら、その体に!」
怒りの声と共に大筒の先端に真紅の光を湛えた瞬間、水晶の騎士は消え去っていた。
空へ荒野へと必死に逃げ回る水晶の騎士を追い詰めながら、青い青い空を背景に真紅の花火が次々と花開く。
「ごゆっくり? 直前のアバターを修復しておいたから調子は良いと思うよ?」
軽く空へ手を振った道化はチャコに流し目を送り――
「せめて道連れにしてやるぞサタン! 貴様だけでも!」
カバッと起き上がった一体の雑魚悪魔を見つめる。
雑魚悪魔は天を突くほどの強大なオーラを噴出させながら叫ぶが……。
「全く。ひどいモノを押しつけてくれたね。私も押しつけるのだけど。それじゃ、次は夢で会おうか? 茶々子の見る夢で、ね? 【真なる魔法】」
道化姿の魔法少女が指を鳴らすと、全ては真っ白に染まっていく。




